一難去ってまた一難、最強と最凶

十五発目 最強銃士は気づいていた



15時間後、俺は目を覚ました。宿に着いたあと、翠をベッドに寝かせると、俺も深い眠りについた。鳥の声が聞こえ、カーテンのない窓から、光が差し込んだ時頃、俺は独りで目を覚ました。横で翠が寝息を立てて寝ていることに激しい安堵を覚えるも、昨日のことを思い出してしまい、不安に駆られた。

と言うのも、アープいわく、威吾と凛は本物ではなかったそうなのだ。威吾の動きや、凛の言葉遣いに所々、奇妙に思う節があった為に、アープに尋ねたところ、

【冬弥「アープ、威吾達、本物の肉体ごとこっちに喚ばれたわけじゃないのか?」

アープ「うん、それは仮初の身体、本物の肉体と魂の器はあっちにあるから、心臓を的確に破壊すれば、あっちでも支障は起こらないよ」】らしい。

そう、2人はまるで呼び出されたかのように見えて、呼ばれたのは全てではなく、凛と威吾の魂だけ、器と身体は全てあちらにあったままだという。

つまり、俺はあいつらを殺してはいない、俺が殺したのは、翠に触れ、俺の親友を侮辱したあの二人だけだ。それはそうと、何故、正常に転移が行われなかったのかと言うと…。

翠「ふぁぁあ、よく寝たぁー」

翠が伸びをしながら、欠伸をしている。

翠「冬弥おはよーって、なんで同じベッドにいるの!」

俺が緑と同じ布団に入っていることに翠は驚いて、飛び上がった。

翠「ま、ま、まさか、なんかしたとか言わないでしょーねー」

翠がこちらへ構えて睨みつける。うん、そんな勇気は俺にはねぇ。

冬弥「してねぇよ、お前を運んだ後、俺も力尽きたんだ、よ!」

翠「あいた!」

臨戦態勢を取っている翠にデコピンをすると、俺もベッドから起きあがろうとする。

翠「あ、そーいえば!威吾くんと凛ちゃんは?何処に寝てるの?」

冬弥「『あいつら』俺が殺した」

翠「え…どーゆーこと?」

翠が訝しんで、こちらの様子を伺っている。

冬弥「えーっとな…かくかくしかじかで」

俺はことの詳細を翠に話した。全てを。

翠「うん、そっか、でも、どーして正常に働かなくなったんだろ?」

そう、そこだ。クラントが言うには、あの魔石の効力は『転移』だ。召喚でもないのに、魂のみが呼び起こされたのには確実に原因があるはずだ。

アープ「それはね、」

冬弥「うおっ、びっくりした」

アープが俺の目の前に出てきた。なんの前触れもなく、いきなり出てきた。びっくりした。

翠「それは…?」

翠が真剣に、アープの話を聞こうとする。俺くらいだろう、ここまでふざけているのは。

アープ「それはね、魔力の量が関係しているんだ、あの魔石は本来3人以上の魔術師が扱う代物なんだ

よ、それを、あの魔術師ひとりでやったから、3分の1の転移、つまりは魂だけ、が『喚ばれた』ってわけ」

冬弥「あー、だから俺に心臓ぶち抜けって言ったのか」

翠「え?なんで?」

翠が、俺の頷きに理解できなかったようで、首を傾げている。うん、かわいい。

冬弥「えっとな、まず、魂だけはこちらに送られてきたんだろ?」

翠「うん、でも、それと心臓になんの関係が?」

冬弥「よく、俺らも心臓と心、つまり魂を一緒に扱うだろ?」

翠「あーつまり、この世界に影響している核だけ破壊すればあっちの世界には干渉しないってこと?」

アープ「そーゆーこと、あの子達は魂だから良かったけど身体がこっちに来てた場合もっとめんどくさかったかもね」

冬弥「そしたらあいつらに危害は加えられないし攻撃もくらえないしでしんどいな」

そう、アープが言うには魂は心臓、器は脳に宿っているそうで、それに影響がないように、身体だけを破壊しなければいけないのだ。はっきり言うと無理だ。

アープ「じゃ!僕は雑務が残ってるから帰るね、また何かやばい事態とかになったら手を貸すからね」

冬弥「あー、お疲れ様」

翠「ばいばーい」

アープ「ばいばーい」

アープが亜空間のゲートを越えながら、こちらに手を振ってあちらへと言ってしまった。

翠「さて、と!これからどーしよっか?」

冬弥「んー、2度寝すっか?」

そう言って俺はベッドに転がり直し、翠が入れる大きさだけ、布団を開いて翠を誘う。

翠「うー…いく!一緒に寝る!」

翠は少し悩んだ様子だったが、結局誘惑に負け、俺の横に転がり直す。

暖かい陽気の中、俺らは再び、眠りについた。

冬弥「こっちに来てから、結構バタバタしてたからこんな日もいいもんだな」

翠「すー、すー」

翠が可愛い顔ですーすー寝息を立てている。

冬弥「生きててくれて、ありがとな」

そう言って、俺は翠の額に軽くキスをした。翠の耳が若干赤くなってた気がするのはきっと気のせいだろう。

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