reload.1 最強銃士の過去(翠編)



-中学生の頃…武道で唯一同性の子に勝てなかったものがある、それは剣道…剣道だ。

私はそれ以外では、武道の類であれば女性で1番にまで上り詰めていた。ものによっては男性と互角にやりあえるものもある。しかし、それはある少女によって砕かれた。

そう、宮本凛によってだ。同級生、だが、昔から知っているわけでもなく、その子は転校生だった。

中2の春…私の学校に彼女はやってきた、幼馴染みの佐々木威吾と共に。

凛「宮本凛です!これから2年間よろしくお願いします!」

威吾「佐々木威吾でーす、剣道やってます、以後お見知りおきを」

凛の第一印象は、『真面目』の一言に尽きた。スカートはしっかり膝下、髪は黒、うちではあまり守られていない、ワイシャツのボタンを第1ボタンまで閉めていた。

私の隣の席に座るその女の子はとてつもない美少女で、男性人気も多かった。

物事に真面目に打ち込むその姿は、教師にも一目置かれていたくらいだ。

ある日、凛は私にあることを訪ねてきた。

凛「みどりんって、なんでいろんな武道やってるの?」

翠「あきないように…かなぁ、あぁもう1つ理由があるけど、これはいま関係ないか」

凛「飽きないようにかぁ…私は剣道一筋でやってきたから、そんなこと考えたことないなぁ」

翠「まぁ、私は優柔不断だし、凛みたいに真面目じゃないからなぁ、そういう感覚の違いかな」

凛「そっかぁ…翠も剣道打ち込んでみたらいいのに!道をひとつに決めたら絶対楽しいよ!」

翠「…そこまで言うなら、しっかりやって見る」

凛は私のことを『みどりん』と呼ぶのだが、前にも後にもその時だけは、私のことを翠と呼んだ。そんな真面目な凛に触発されたのか、私は前よりも、ほかの武道よりも、より、剣道に打ち込むようになった。

凛「そう言えば、みどりんって、いつから剣道やってるの?」

翠「うーんと、6歳の時とかだったかな…凛は?」

凛「私も6歳からなんだぁ、同級生なんだね!」

翠「あはは、確かに、同級生だねー」

私と凛はそんな他愛もない話をする仲でありながらも、剣道をする上では、一切手を抜かなかった。

そう、剣道に対してだけは…。

中3の春、最後の中総体、県大会決勝戦で私と凛は対峙した。同じ中学で、1、2位が確定しているのだから、学校側からしたら御の字なのだろうが私たちはそうはいかなかった。全力で立ち会い、負ければ終わりの究極の場面だった。

結果は私の勝利。だが、私は不思議に思った。その日の凛には、打ち込みに迷いがあったのだ。そう、つまりは、手加減をしていたのだ…。善意で、私のために…

翠「凛!なんであの時手加減したの!」

私は激しい憤りを感じていた。今まで切磋琢磨してきた仲間に手を抜かれたのだ。

凛「手加減なんてしてないよ、全力の私に、みどりんが勝ったんだよ」

翠「……」

凛「それに、良かったじゃん!全国大会に出場だよ!」

翠「……うん」

凛「嬉しくないの?!あんなに毎日行きたいって話してたのに」

それは凛も同じだ。

凛「どうしたの?みどりん元気ないよ?具合悪いの?」

その時、私の中で何かが切れる音がした。

翠「凛…ほんとに手加減してなかったの?」

凛「…ほ、ホントだって!全力でやったよ!」

翠「じゃあ、あの迷いのある剣はなんだったの?凛の全力はあんなにブレブレなの?!」

凛「うん…そうだよ…」

翠「もう、我慢できないよ…ここで白黒つけよう、誰も見ていない、手加減のいらないこの場所で」

ここは河川敷、橋の下だ。夕方であることもあって、人通りは一切ない。そう、一切の他人の介入がないんだ。私はカバンから竹刀を取り出した。

翠「あんな芯のない剣なんて、あなたの剣じゃない、今度こそ本気で戦ってもらう!」

凛「…わかったよ、みどりん…」

そう言って凛は竹刀を出すと、私にお辞儀をした。

翠「よろしくお願いします」

凛「よろしくお願いします」

翠「いくよ…!」

結果として、私は負けた。しかも圧倒的なまでに大差で。やはり、凛の剣はこうでなくては、迷いのない、眩しい剣でなければいけない。私とは違う。

凛「ごめん、みどりん…今日、変な気を使ったんだ、もし私が勝ってしまったら、みどりんは剣道を辞めてしまうんじゃないかって、他の武道へ言ってしまうんじゃないかって…でも、それは失礼だったね。剣道に対しても、みどりんに対しても。」

翠「そっか…でも、こんなに差があったのか…私、まだまだだな…強くなければいけないのに」

そう、強くなければいけないのだ。冬弥の横に並ぶためには、冬弥の横をいっしょに歩くためには、それ相応の才能と、能力がなければいけないのだ。

翠「ごめんね…冬弥、私、負けちゃったよ。もっともっと強くならないといけない…」

凛「みどりん……」

河川敷の下、仰向けに倒れている私に対して、潤んだ目で凛が見つめている。

翠「凛のせいじゃないよ…私が未熟だったのがいけないんだよ」

凛「……みどりんは強いよ、私なんかよりも…剣道だけじゃなくて、他の才能にも満ち溢れてるもん」

翠「あはは、そんなお世辞いいよ、絶対に追い抜かしてあげるから、才能にあぐらをかいてなんかいたら、ただじゃ置かないからね!」

凛「うん、私、みどりんに負けないように、さらにさらに上に登ってやるんだからね!」

これが、私と凛の最初で最後の大喧嘩だ。後にも先にも、ここまでの喧嘩はこれっきり、1度だけだ。

だが、今、私の前には、凛が真剣を持って立っている。刃は完全に敵意を持って、こちらを向いている。

冬弥「翠、絶対に死ぬなよ、致命傷だけは確実に回避しろ、約束だ」

翠「うん、そっちもね」

大丈夫、冬弥だっている。私が負けても、何とかするんだろう、凛との2度目の喧嘩…私は凛に追いつけているのだろうか。

翠「凛、行くよ!」

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