お前は生きたいのか……?
「お前の刑の執行日が決まった。一週間後だ。残りの人生をゆっくりと楽しむんだな」
その日、看守長のファンブレンがミカの独房を訪れて淡々とそう告げた。なのに、ミカは、
「そうか……」
と、ファンブレン以上に冷めた表情で応えただけだった。
そんな彼女にファンブレンが問う。
「お前は何故そんなに平然としていられる? 何故、命乞いをしない? 何故、取り乱さない? 何がお前を支えているのだ?」
すると彼女は、ふ、と目を細めて、
「何故…か……それはむしろ私が知りたいな……
私は何故生きているのか? 何故生かされたのか? 本当なら私はとっくの昔に死んでいるはずだったのだ。それがこうして今日まで生かされてしまった。
今の私の命は、私自身にとっては余禄に過ぎん。その余禄に過ぎん命を最大限活かそうとしていただけだ。しかもそれも終わった。何を惜しむ必要がある?
私は<帝国最大の敵>として最後の役目を果たすまでだ……」
彼女の瞳は、目の前のファンブレンを見てはいなかった。その向こうの、ずっとずっと、果てしない『何処か』を見詰めていた。
『お前は生きたいのか……?』
夜。何度も何度も腹を蹴ってくる<子>に、ミカは声に出さずに問い掛けた。すると、
『ぽこん!』
と、まるで抗議するかのようにひときわ強く蹴られた。
「―――――っ!?」
瞬間、ミカの目からぶわっと涙が溢れる。
「そうだな……そうだな……生きたいよな…死にたくないよな……
私もそうだ…死にたくない……死にたくないよ……!
死にたくない……
……
……
…だがな、皆、そうだったのだ……死にたい者などいなかった……
しかし、生きたい者全員を生かすことはできなかったのだ……それができる世界では、今はまだないのだ……
いつかそういう世界を人間は作り上げることができるかもしれない……
私はそれを信じたい……
……すまんな…私などのところに来てしまったばかりに、お前まで付き合わせることになってしまった……
本当にすまん……」
この後、深夜遅くになってようやく胎動が収まり、ミカは寝ることができた。
なのに、明け方、空が白み始めた頃、
「……む…っ!?」
明らかに只事でない感覚に、彼女は強制的に覚醒させられた。
それはまるで、何者かが内臓を鷲掴みにして捻じ切ろうとでもしているかのような、尋常じゃない激痛だった。
『死……!?』
そんな言葉が頭をよぎる。
まさに死を予感させる途轍もない痛みだった。
『く……まさかここで私は死ぬのか……!? 最後の役目すら果たさせてもらえんのか……!? 私の罪は、それほどのものだということか……!?』
ダラダラと脂汗を流しながら、彼女はそう無念を滲ませたのであった。
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