冥府の女丈夫

ルドガーと共に捕らえられた百人の仲間達も、それぞれ、見せしめとして公開処刑されるため、各地に引き立てられ、次々と処刑されていった。


ただ、ミカの<狙い>は少し違っていただろう。


彼女は、<見せしめ>効果というものについては懐疑的だった。


『私が知ってる国でも、ただポルノ写真を持っているだけでも死刑になった国があったと言うが、その国の治安は良かったか? 明らかにそうとは言えなかったはずだ。


人間というのは、『自分だけは大丈夫』と考えてしまいがちな生き物だ。法に触れる行為を行っていても、自分だけは許される、自分だけは捕まらない、自分だけは大目に見てもらえる。


とな。


ましてや『窮鼠猫を噛む』状態にあればそれこそ『破れかぶれ』『一か八か』『死なばもろとも』と考える輩も出てくる。


正直な話、この種の<見せしめ>はむしろ反発を招く可能性の方が高いだろう。


潜在的な反体制主義を醸成すると考えた方が納得がいく。過去の歴史を見る限りな』


彼女はそう考えていた。


にも拘らずこうやって次々処刑を行うというのは、見せしめということ以上に<口減らし>のためだった。


今回の大飢饉を乗り切るには、何より、人間の数を減らすのが最も確実である。となれば、こうして反社会的な行動に出る者を片っ端から処刑するのが一番傷が浅いだろう。


ミカはそう考えたのだ。


<公開処刑>も、


『国のやり方に反発する者達に、行動を起こさせる口実を与える』


というのが一番の目的だと言えるかもしれない。


こうして、暴動の鎮圧や、国に対して反逆を目論んだということで処刑した者達の数は、実にこの時点での帝国の人口の約七パーセントにも及んだという。


しかし、そうやって<口減らし>したことでその分の食料が他に分配されたのは事実。


その一方で、冬の間にさらに二パーセントの国民が餓死するという事態には至ったという事実もあった。が、これについては、周辺諸国では実に平均十パーセントの餓死者や凍死者を出していたこと(周辺諸国でも帝国と同じように暴動なども頻発し、それに関連した死者は除く)から、餓死者や暴動等に関わって制圧時に殺されたり処刑された者も含めての死者の割合で言えば、実際にはかなり下位の方だったと後の歴史研究家の調査で判明している。


とは言え、この時の苛烈な対処から、ミカは国民から、


<ギロチン女王>


<冥府の女丈夫>


などという異名で呼ばれ、恐れられるようになっていった。


しかも、ミカ自身、その異名に合わせるかのように、罪人に対しては容赦なく斬首刑を言い渡していったという。


ただこれも、客観的に見ると、大飢饉の前後で特に大きく変わっているわけではなく、単なる印象に過ぎないということも事実だったそうである。


大飢饉の後はどうしても社会的に不安定になっていたことで、犯罪件数も増えていたという背景もあったのだ。


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