シェローナ=ティオ=スーリントン

ミカがギロチン台に送り込んだのは、決して平民だけではなかった。


むしろ、貴族などが国に仇なす行為に及んだ場合こそ容赦なく断罪したと言えるだろう。


そんな中、スーリントン卿の孫娘である、十四歳の少女、シェローナ=ティオ=スーリントンもギロチン台の露と消えた。


「イヤだ! イヤ! イヤ!! 死にたくない!!」


そう泣き叫ぶ少女さえも、容赦なく、だ。


少女が犯したとされる罪は、


<外患誘致罪>


<国家反逆罪>


<機密漏洩罪>


等々、合計十に及ぶ、


<国家に対する罪>


であった。


これによって斬首刑が言い渡され、そしてそのままギロチンによる刑が執行されたという形だ。


その罪が本当にまぎれもなく事実であるかどうか精査されることもなく……


とは言え、シェローナ=ティオ=スーリントンが行っていたことは、結論から述べればそう言われても仕方のないものであったのだが。


何しろ、当時の帝国とは対立関係にあった国の貴族の子息と<ねんごろ>となり、かつて農業大臣をしていた祖父が知りえた帝国の情報を漏らしただけでなく、その貴族の子息の<友人>を、連絡役として秘密裏に入国させていたりしたのだから。


もっとも、シェローナとしては、ただ単に、帝国とその国とが強く対立するようになる以前からスーリントン家として交流のあったその貴族と家族同然に付き合っていて、その中に心惹かれる相手がいて、その想い人との逢瀬に都合がいいからそうしただけなのだろう。帝国に反逆するような意図はなかったのだと思われる。


しかし現に国家に対する重大な罪を犯したことは、犯したと見られたことは、まぎれもない事実。そのため、ミカは斬首刑を言い渡したのである。


『貴族こそは国に対して忠を誓うべきである』


として。


特にこの時期は、王都でさえ餓死者が出るほどの状況であったため、余計に厳しい対応を取らざるを得なかったという背景もあったのだろう。


さりとて、およそ策謀の類を巡らせるとは思えない、あどけなくて拙いだけの少女さえギロチンにかけたことは、さすがにそれを目撃した者にとっては刺さるものがあったようだ。


しかも、『死にたくない!』と泣き叫ぶのを見てしまっては。


思えば、これが一番の転換点になったのかもしれない。


この直後辺りから、ミカに対する評価が反転し始めたようなのだ。


それまでは、国を導く強い首長としての評価が高かったはずなのに。


ただしこれについては、貴族にさえ厳しいミカに反発する一部勢力による地道なロビー活動が実を結んだ結果であるとする見方もあるようだが。


いずれにせよ、この頃を機に、ミカを<悪女>と評する者が増えていったのであった。


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