見せしめ
ボリントン領での暴動は、一度火が点いてしまうと抑えようがないものだった。そもそも、領主であるボリントン卿が怠惰な性格だったこともあり、暴動に至る前に手を打つということをしなかったのだ。
また、ボリントン卿自身が自分達の分の食料はしっかりと溜め込んでいたというのもあって、それに対する反発も含まれていたのかもしれない。
いずれにせよ、領主であるボリントン卿の手には負えなくなっていたのは事実である。
そこでミカは、ボリントン領に元々備えられていた軍ではなく、自身直属の、元傭兵達を中心とした屈強なそれを派遣。暴動の鎮圧に乗り出した。
「構わん! 逆らう者は容赦するな! たとえ女子供であってもだ!!」
と命じて。
一方、今回の暴動を引き起こしたボリントン領の領民達が、ものの道理をわきまえない、理性の欠片も持ち合わせない愚者の群れだったのかと言えば、必ずしもそうではなかった。
確かに、自分では努力せず、そのくせ、困った時には他人が助けてくれるのが当然だと考えていたような暗愚の輩も少なからずいたようだが、それと同時に、爪に火を点すような慎ましい暮らしを心掛けていたにも拘らず状況が好転せず、親族の中に栄養失調が基で病に罹り命を落とした者が出たことで、やむにやまれず蜂起したという者もいた。
ボリントン領、ロマソン村のルドガーも、そういう者の一人だった。
ルドガーは、元はルベルソン領に住む農民で、妻の父親の農地を借り受けて畑を耕していたのだが、その勤勉さに惹かれた妻と結婚し、今では、親に捨てられ彼の畑で盗みを繰り返していたことをきっかけに養子となった五人を含む七人の子を持つ父親だった。
今回の異常気象の所為で彼の畑の作物もほぼ全滅してしまったものの、郷里にある彼が元々持っていた畑には戻らず、家族のためになんとかこの地で耐え忍ぶことを心に決めていた。
しかし、そんな彼を嘲笑うかのように状況は逼迫し、ルベルソン領の親族からの支援も途絶え、妻の母が栄養失調が原因の病で命を落とし、我が子の一人も同じ病で倒れたことで、生きるために、家族を生かすために、決起したのである。
だが、日々の畑仕事で体力には自信があった彼も、戦うための訓練に明け暮れた軍人の前には歯が立たず、百人の仲間と共に捕らえられた。ただし、その百人を捕らえるために数千人の暴徒が容赦なく殺されたようだが。
そして三日後には、今回の暴動の首謀者の一人として王都に連行され、即、見せしめのためにギロチンによる公開処刑が行われたのである。
もちろんその決定を下したのは、ミカだった。
ルドガーは最後まで抵抗し、警備の兵士に棍棒で滅多打ちにされ、ギロチンに掛けられた時にはすでに息がなかったようだ。
また、兵士に棍棒を執拗に打ち付けられ意識を失う寸前、彼は、
「ローナ…子供達を頼む……」
と、妻の名を呟いたのだという……
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