糞のような戦死

ルブルースの戦死は、完全に慢心から来るものだった。自軍に編入された傭兵部隊の働きによりデヴォイニト・フローリア王国軍の補給路が絶たれ、後は疲弊しきった敵を掃討するだけとタカをくくった上に自分が敵兵の首を刎ねようと前に出たところを、死体の下に隠れていた伏兵に槍で突かれて呆気なく死んだのだ。


しかもその槍には死体が漏らした糞がたっぷりと塗りつけられてあり、たとえ一撃では致命傷にならなくとも破傷風で早晩死に至るのを狙っていたらしいという念の入れようだったという。


その<伏兵>が果たしてどこの勢力のものであったかは、この際、関係ない。


『ホエウベルン家の実質的な当主であるルブルースが死んだ』


ということだけが重要なのだ。


これでいよいよ、ミカに実権が集中することになる。ルブルースがいなくなれば、彼の嫡男である僅か二歳のオーレンスという幼子と、やっと七歳になったばかりのブルーストが王位継承権を持つだけとなり、リオポルドの座を脅かす存在の力が小さくなって、それに比してということだ。


しかも、セヴェルハムト帝国最大の交易相手であるトルスクレム王国からの商隊がルベルソン領を通ることになったおかげで、ほぼ丸一日分、所要時間が短縮されることとなった。


これによって輸送コストが削減され、商人の側の利益を減らすことなく商品の値段を下げることができ、セヴェルハムト帝国の国民は、同じ収入で、僅かとは言えこれまでより豊かな暮らしができるようになった。


デヴォイニト・フローリア王国と戦争をしているのは事実でも、その戦火はあくまでマオレルトン領内のみで抑えられている上に、すでに趨勢は決しており後は領内の残敵を掃討するだけとなっていることも、直接の影響を受けていない大半の国民にとっては安心材料だし、何より、逆にデヴォイニト・フローリア王国の領地に直接打撃を与えられているという事実が国民を高揚させていた。


無論、そこで何が起こっているかについての詳細は伏せられている。あくまで、


『悪辣な侵略者に対して<正義の鉄槌>を下した!』


的に伝えられているだけだ。


だから、帝国内では各地で、


「リオポルド陛下万歳! 帝国万歳!!」


というような声が上がり、それまでの、歴史の上に胡坐をかいた日和見的な空気は少しずつ変化していったようだ。


なお、その間にもミカは、トルスクレム王国からの商隊のルートを失ったロイドニア家と、突然、トルスクレム王国からの商隊を迎えるために宿場町の整備を行うことになって戸惑うルベルソン家をとりなし、


『ロイドニア家には、それまでのノウハウを活かしルベルソン領内での宿場町の整備とそこでの商売を行う権利を』


『ルベルソン家には、宿場町運営のノウハウを持つ人間がルベルソン領に移ることで管理が行き届かなくなる農地を優先的に利用する権利を』


与えることにしたのだった。


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