意趣返し

そもそも戦うことに慣れていないマオレルトン領の人々を守りながら戦うには、ウルフェンスが指揮していた部隊だけでは完全に役不足だった。焼け石に水だった。せめてマオレルトン領の軍が、指揮さえちゃんとしていれば真っ当に戦えるものであればいくらかはなんとかなったものの、それさえどうにもならなかった。


この戦いでマオレルトン領の領主であり、民を守るために軍を率いて討って出たホーボー=ル=マオレルトン卿とその長男は戦死。ウルフェンスの部隊も、功を競い合う元デヴォイニト王国の国民と元フローリア公国の国民によって編成されたそれぞれの軍の挟撃を受けて部隊の七割を失い潰走した。


「ウルフェンス様! ここは我々が支えます! ウルフェンス様は王都へと戻り反攻に向けた立て直しを……!」


「バカな! お前達を見捨てて私だけ逃げろと!?」


「そうではありません! ここでウルフェンス様を失っては誰が帝国を支えていくのですか!? 我らが犬死しないためにもウルフェンス様には生きてもらわねば駄目なのです!」


とまで言われては、聞き入れるしかなかった。


こうしてウルフェンスは、リオポルドの乳母であったマーレをはじめとしたマオレルトン卿の生き残った親族を連れてマオレルトン領を脱出した。


そして、それと入れ替わる形で、ルブルース率いるホエウベルン領の軍がマオレルトン領へと進軍。これこそがまさに、ミカの用意した<餌>だった。


だから、


『これでリオポルドの奴に意趣返しができる!』


と、ルブルースは有頂天で自ら軍を率いてのこのこと現れたのである。


だが、その時、ルブルースが率いていたのは、ホエウベルン領の軍だけでなかった。


「敵は手強い。そこで、傭兵を三百、貴公に貸し与える。頼れる者達だ。存分に役立てて戦功を上げてほしい」


ミカから直々にそう言われ、<三百人の傭兵>を伴って挑んだということだ。


さらには、


「正直、私はマオレルトン領の者達については、今後、国を盛り上げていく上で数に入れておらん。なので、敵の攻撃を受け止める盾に使っても構わんし、囮に使っても構わん。貴公の好きに使え。彼らのようなやる気のない者でもそういう形であれば国の役に立つだろうし、それこそが彼らにとっての栄誉だろう」


とまでルブルースに吹き込んでいた。


だからルブルースは、ミカの言う通り、マオレルトン領の人々を<人間の盾>として使い、時には敵を誘き寄せる囮とするためにわざと目立つように逃げさせた。


互いに功を競っていた元デヴォイニト王国の国民と元フローリア公国の国民らはまんまとルブルースの策につられておびき出され、背後から攻撃を受けたりもしたのだった。


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