戦果
『どうしてこんなことになった…? ミカが圧政を布いたりするのではなかったのか……?
数年以内にこの国は滅ぶというのは、こういうことなのか……?』
軍を率いてマオレルトン領へと急ぐウルフェンスは、延々とそんなことを考えていた。
彼は真面目で誠実で心優しい人間だが、だからこそ道理を外れた人間の思考というものが理解できなかった。だから誠意をもって相手に接すれば必ずそれは通じると考えている夢想家としての一面もあった。
だが、憎悪に狂った人間に理屈は通じない。
『復讐は復讐を生むだけだ』
『憎悪の連鎖は止めなくてはならない』
などと頭ごなしに言われても、そんなものを『はいそうですか』と納得する者など滅多にいないのだ。
復讐を諦めるにも、憎悪を抑えるにも、それに見合う<何か>が必要なのだというのを感覚的に理解していなかったのだろう。
元デヴォイニト王国の国民と元フローリア公国の国民との軋轢も、そういう類のものだったのだ。
憎悪をぶつける相手を欲していたのだろう。なのに、デヴォイニト・フローリア王国はただ我慢だけを国民に強いた。しかもその理由が、自分達支配階級の都合だという。
それで、親を、家族を、祖先を、愛する人を殺した相手と手を取り合い一つの国として自分達に尽くせなどと、あまりにもムシが良すぎると思わないか?
祖先が政争に敗れて国を追われた過去を持つとはいえ、別に亡命した先で虐げられたとかそういう経験をしてきたわけではないウルフェンスは結局、恵まれていたのだろうと思われる。
それに対して、元デヴォイニト王国の国民と元フローリア公国の国民は、自分達の憎悪を弾けさせる<きっかけ>を与えられたのだ。
そして一度燃え上がったそれは、
『どちらがより多く敵を倒したかで、今後、より言い分を通してやる』
的な<餌>をぶら下げられては、激しく八つ当たりしても無理もないのかもしれない。呑気に惰眠を貪っている能天気な<隣人>に対して。
もっとも、冷静に考えればそんな無茶苦茶な道理もないはずだが、半ば狂気に囚われた者達には『冷静に考える』ということがそもそもできるわけもなかった。
だから、元デヴォイニト王国の国民と元フローリア公国の国民は、互いに競い合ってマオレルトン領の人々を手に掛けていった。それこそが<戦果>になるのだから。
一方、目立った争いもなくしかも代々人格者な領主に恵まれてきたマオレルトン領の人々は、<争う>ということ自体に免疫がなかった。
一応は軍も持ってはいたものの、精々畑を荒らす獣を追い払う程度の仕事しかしたことのない者が大半なのであった。
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