与太話

『彼らはただ権力をほしいままにして自分達が贅沢をしたいだけ』


ウルフェンスによるホエウベルン家の評価は、的を射たものだった。初代皇帝から直接連なる名家の一つではあるものの、長きに亘る、


<ただ家柄だけで周囲から敬われる環境>


は、そこに生まれ育つ者達から<自身を高め研鑽する努力を行う感覚>を奪い、尊大に振舞っているだけで役目を果たせるという誤解を生じさせてしまっていた。


それもあってか、現在のホエウベルン家の長子であるルブルースはまさにそういう現状を体現したかのような人物で、贅沢三昧の毎日さえ送れればそれでいいという者だった。


文字通り、今のセヴェルハムト帝国の病巣そのものと言っていいかもしれない。


しかも、リオポルドが王位を継いでからも諦めきれないらしく、ウルフェンスは眉を顰めながら言った。


「実はこのところ、ホエウベルン家についてはよくない情報ももたらされていてな。自分達が王位に着くためにあれこれ画策しているらしいのだ。


今の時点では噂のようなものでしかないからこちらとしても具体的に手は打てないものの、陛下やミカには油断しないように進言させてもらっている。


が、ミカはともかくリオポルド様は、正直、あまり危機感を抱いてらっしゃらないのだ。


とにかくリオポルド様は優しすぎる」


そんなウルフェンスの言葉にネイサンも、


「それほどなのか……?」


苦々しく問い返す。リオポルドのことではなく、ホエウベルン家についてのことだった。


「俺もホエウベルン家についての穏やかじゃない噂は耳にしていたが、それでも我がルベルソン家もあまり人のことを言えるような状況ではないから気にしないようにしていたんだ。『まあこんなものなのだろう』と。


もちろん、それでいいとは私も思っていない。外のことを知らなかった幼い頃には分からなかったものの、大使としてトルスクレム王国に駐在していたことでそれがいかに恐ろしいことか思い知らされたよ。彼らは我がセヴェルハムト帝国の内情を実に的確に把握している。国の中枢部分の情報がダダ漏れなのだ。


私自身はそれを知ったことで気を付けていたものの、トルスクレム王国に親族がいる貴族から漏れ放題だったことで私がいくら用心してもどうにもならなかった」


「やはり、な。私もそれについては承知している。


だからこそ、ミカのような人物にこの国を作り変えてもらわなくてはと思っているのだ。幸い、ミカ自身もそう思ってくれている。そのために私は力を惜しまない。


かねてからお前とも話していた<改革>をいよいよ本格的に着手しなければと思っているんだ」


「……そうか……正直、これまでは俺自身、口ではそう言っていても友人相手の与太話程度にしか思っていなかったが、本気なんだな」


「ああ、もちろんだ……」


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