愛しているかと言われれば

『あの方が恐ろしい……』


王妃を捉まえてそのようなことを口走るネイサンに苦笑しながらも、ウルフェンスは、


「正直、私もネイサンと同じ気持ちだよ」


とも応えた。その上で。


「しかし、ミカについては私もすべては知らない。すでに公になっていること以外には私も把握していないのだ。何しろ彼女自身が何も覚えていないとのことだからな」


「そうか……でもまあ、優れたお方であることは疑う余地もないが……


にしても、お前、王妃を呼び捨てとは、不敬にもほどがあるぞ。大丈夫か?」


今度はネイサンが苦笑しながら苦言を呈する。


それに対してウルフェンスは、


「ああ、それについては大丈夫だ。彼女自身の要望なんだ。公務を離れたところでは、彼女が私の侍女をしていた時と同じく<ミカ>と呼んで欲しいということでな」


今度はまるで可愛い妹のことを語る兄のような柔らかい表情になって応えた。


それが<答え>だった。


「彼女は私のことを<兄>として慕ってくれているんだ」


するとネイサンは、


「兄…? そうか。そっちか」


ホッと安堵の笑みを浮かべながら呟くように口にする。


「まさか陛下との間で取り合いでもしてるのかと思ったぞ」


とも。王妃に対する親しげな態度に邪推してしまっていたのだ。


それについてはウルフェンスもまた苦笑いになり、


「まさか…!」


と言った後で、


「しかし、彼女が陛下のことを愛しているかと言われれば、それはたぶん違うというのは確かだろうな」


などとも口にした。


「そうか。まあ、一国の王妃になれるんだからな。チャンスがあれば愛などなくても」


ネイサンは腕を組み、『さもありなん』と何度も頷いた。


が、それに対しては、ウルフェンスは首を横に振る。


「彼女は別に王妃になりたいわけじゃない。あくまで国を差配できる立場が欲しかっただけだ。この国を根底から変えていける立場をな。だから陛下の代理として執務を行っている。


陛下は、とても良い人なのだが、なにぶん、強い決断を行うのは決して得意じゃない。王としてはそれでは困るものの、それをミカが補ってくれるのだ。これは陛下のためにもなる。


王位継承権第一位というだけで王位に着かされることを一番苦痛に思ってらっしゃるのは他ならぬ陛下ご自身なのだ。かと言って、他の王位継承権を持つ方々は、まつりごとにはそれこそ関心のないホエウベルン家のルブルース様や、まだ六歳のブルースト様となれば、陛下が立つしかなかったというのも事実だな。


もっとも、ホエウベルン家としては是非ともルブルース様を王位に据えたかったようだが。


とは言え、今のホエウベルン家に人々の上に立つ資格があるとは、私には思えない。彼らはただ権力をほしいままにして自分達が贅沢をしたいだけなのは明白なのだ」


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