シンデレラストーリー

しかしどうしてリオポルドがわざわざ彼女に会いに行ったのかと言えば、若くして王位を継いだ彼には信頼できる(というか頼りにできる)部下がウルフェンスくらいしかおらず、<手駒>となる人材を欲していたというのが一番の理由だった。


列強諸国に比べれば非常に怠惰にも思えるセヴェルハムト帝国ではあったが、それでも内部ではそれなりに権力闘争などもあり、たとえ王といえど一人だけではすべてを差配できるわけでもなかったのだ。


そういう事情もあり、大商会の頭脳とも称される少女の能力が是非とも欲しかったというのもある。


こうしてまずはウルフェンスの侍女としてルパードソン家に来たミカだったが、侍女としてウルフェンスに仕えつつセヴェルハムト帝国の貴族としての所作を学び、その傍らで商会の仕事もこなすという、人並み外れた働きを見せた。これは、商会に拾われたことで命を永らえたことに対する恩義を返したいという彼女自身の要望もあってのことだった。


貴族の子女でさえ音を上げるような過密スケジュールの日々でも彼女は弱音を吐かず自らの役目を果たしていく。


そんな姿にもリオポルドは惚れ込み、彼女を后候補に加えたというのもある。もっともそれをリオポルドの周囲に認めさせることになったのは、やはりミカ自身の完璧な立ち振る舞いと並の大人では太刀打ちできない明晰な頭脳により圧倒的な存在感を自ら示したことが一番だったが。


普通であればここまでですら一つの物語として成立するようなこれらのシンデレラストーリーさえ、彼女にとってはただのプロローグに過ぎなかった。


彼女の真価は、ウルフェンスの侍女として彼のサポートを完璧にこなし、彼の実績を積み重ねさせ、貴族内での発言権を高めさせたところから始まる。


特に、彼が特使として派遣された、列強諸国の一角であるカルカオレム王国との通商交渉の席で、隙のない論陣を展開し、明らかにセヴェルハムト帝国にとって不利な条件での条約を締結させられるところだったのを対等なそれにまで覆させたことが大きかったのだが、実はその時のシナリオを描いたのが他ならぬミカだったのだ。


彼女は、カルカオレム王国が、セヴェルハムト帝国側が気付くはずがないと高をくくっていた条約案のカラクリを見抜き、修正させたのである。しかも、それを盾にすれば逆にカルカオレム王国に不利な条件を飲ませることもできたところを敢えてそれをせず、相手側の顔も立てたことで穏便に済ませたのだった。


これにより、リオポルドは、有力な貴族を取り込むことなく国の中枢の勢力図を塗り替えることに成功。それは、十人の味方を付ける以上の効果を発揮したのであった。


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