助言

「ミカ様、お気持ちは分かりますが、さすがに厳しすぎはしませんか?」


スーリントン卿に謹慎と隠居を命じたミカに対し、脇に立って彼女を警護していた、武人らしく短く揃えられた金髪、宝石のような碧眼、美麗でありながらその佇まいだけでも只者ではないという印象を与える青年が囁くように声を掛けてきた。


ミカの元<主人>にして名目上の後見人であったウルフェンスである。彼自身、この国の貴族らの怠惰さには忸怩たる思いもあったものの、さすがに今のミカのやり方では反発も招くのではないかと案じての言葉だった。


そんな彼に対しても、ミカは、


「ルパードソン卿のお気遣いには感謝しています。ですが私は此度の婚礼に際し、この国の現状を詳細に調べてまいりました。それだけでもどれほどの危機的な状態にあるのかが分かります。


加えてこの後、陛下と共に各地を巡ることになりますが、そこで改めて実際にこの目で確かめようと考えているのです」


『陛下と共に各地を巡る』


それは、いわば<新婚旅行>のようなものだった。王都まで来ることのできない民にまで新しい王妃を知らしめるために数ヶ月を掛けて全国を巡るのである。


いくらめでたいこととはいえ王が数ヶ月も王都を離れて各地を遊び歩くのはどうかと思うものの、そもそもは王自らが、己の治める国について自身の目で見てよく知り国を治めることの意味を知るというのが始まりだったのだという。しかし今ではめでたいことにかこつけたただの物見遊山と化していた。ミカは、それを、本来の目的で利用しようとしているのだ。


そして数ヶ月も王都を離れることになる前に、少しでも引き締めを行っておきたかったというのが彼女の意図だった。


だが、執務中にこうしてウルフェンスと話をする余裕があるというのがまた、彼女は情けないと思った。


ここまでに顔を出した大臣は僅かに二人。しかもそのどちらも自身の責務というものをまるで理解していない。


このような者達に留守を任せるなど、不安以外に何もない。


「二日後には出立です。それまでにスーリントン卿の後任を決めなければならない。誰か心当たりはありませんか?」


ミカの問い掛けに、『やれやれ』と頭を振りながらも、ウルフェンスは、


「では、ルベルソン家の長子、ネイサンはいかがでしょう? 歳はまだ三十と若いですが、去年までトルスクレム王国に大使として赴任していたこともあり、実務経験はしっかりしています。しかも農業国であるトルスクレム王国では農業に関する研修も受けてきたとのこと。うってつけかもしれません」


するりと淀みなく応える。


この彼がいなければこの国は今頃どうなっていただろうと、ミカは思わずにはいられなかったのだった。


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