出逢い

ミカ=ティオニフレウ=ヴァレーリアとリオポルド=ル=クレルドゥス=モーハンセウの出逢いは、三年前に遡る。


セヴェルハムト帝国でも一~二を争う大商会が、他国の商会との乗っ取り合戦に敗れて危機に陥った際、一人の少女が契約上の瑕疵を突いてそれを無効とし、結果として商会を救ったという事件があったことがきっかけだった。


当時、先王が病により急死。十七歳で即位したばかりのリオポルドが、個人的な知人を介してその話を耳にし、お忍びでくだんの少女に会いに行ったのである。


その少女こそが、ミカ=ティオニフレウ=ヴァレーリアということだ。


ミカは、国王に対してさえ物怖じせず、それでいて完璧な所作を身に付けており、高貴な出自を窺わせた。


しかし彼女は、記憶を失い、国境近くの森を彷徨っているところを商隊に保護されたのだという。


しかもその時点では、物腰こそ優雅さを秘めていたものの、その容姿や所作はセヴェルハムト帝国のものとも近隣のいずれの国や地方のものとも違っていたため、どこか遠く離れた国の貴族、もしくは王族の内紛に巻き込まれ、それから逃れるために放浪している最中に何らかの事情で家臣らとも逸れたか喪うかして、彼女自身も記憶を失ったものと見られている。


本人が自身の年齢も覚えていなかったので、身長こそはそれなりだったもののあどけない感じもする顔つきから十四歳くらいと判断され、彼女が辛うじて覚えていた、<ミカ>という名と、<星>と<谷>を表す異国の言葉が強く心に残っているということだったので、<輝ける星々ティオニフレウ>、<神秘を秘めたる谷ヴァレーリア>と合わせて、リオポルドが彼女を、


<ミカ=ティオニフレウ=ヴァレーリア>


と名付けたのだった。


そしてリオポルドは彼女を、最も信頼できる腹心であり、今では傍系となってしまい王位継承権を失ってしまったとはいえ、自分と同じく初代皇帝<ルオハイン=ラ=セヴェルハムト>の血を引き、かつ幼い頃からの<親友>でもあった、<ウルフェンス=ルーク=ルパードソン>に預け、ウルフェンスの遠縁の親戚にあたり、政変で家族を喪い保護されて現在は侍女として働いているとし、必要な教育を施した上、リオポルドの后候補の一人として内宮に迎え入れたという形としたのが経緯だった。


なお、ルパードソン家は、リオポルドの数代前に起こった王位継承権争いの際に国を追われ、同盟国であった国に亡命していた時期があることで、その間の来歴があやふやになっているという点が、ミカを<遠い親戚>として迎えるのにちょうど良かったというのもある。


ただ、その『来歴があやふや』という部分ゆえに王位継承権を失っているというのもあるのだが。


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