交番までの間に
提案してみると、二人は快諾してくれたようだった。やはり成人にほど近いといってもまだ不安があるのだろう。みゆきさんは少しばかり顔を晴れやかにした。だが、黒髪の子は不思議なことに顔を少しばかり曇らせた。
「六徳っていう人の噂はどんなのだった?」
交番は大学から程近い場所にあって大学に面した大通りを挟んで、正門からやや左に曲がったところにある。一キロもない道なので短く会話をと思い聞いてみた。
六徳先輩がっていうよりあの三人が、ですよ。
黒髪の子がそう口を開いた。さっきから思っていたが、彼女の話し方は言葉こそこちらに気を使って聞こえるが、口調はまるで突き放すように語尾が強く、突っ張って聞こえる。
あの三人はさっきも言いましたけど、一緒になった女性を食い散らかすって噂があるんですよ。で、三人の広がってる噂っていうのが酔った女をお持ち帰りして、ヤって、しかもカメラに撮って、最後にはネットに流すんだそうです。
ああ、典型的なそれ(、、)だ。
「それはひどい……」
ですよね? しかもあいつら気に入ったら脅迫して自分達の好き勝手するんですよ。よくあんなのと一緒にいましたよ。本当に。
「じゃあ、どうしてそんな人たちと一緒のサークルに?」
本当に偶々です。あの人たち、自分達が問題を起こしたところをさっさと抜けて私たちのサークルに来たんですよ。それで私たちが抜けようと思ったらしつこくどうして辞めるのか言えって言ってきて。そうこうしてる間にさとみちゃんが……その……
もう一つ質問すると今度はみゆきさんが口を開く。彼女は口調も物腰も柔らかく感じられるが同時にか細い声は如何にも弱々しく聞こえた。黒髪の子が口籠った彼女の後を継いだ。この手の話題は酷く苦手らしい。まあ、無理もないのだが。
手籠め(、、、)にされたんです。多分新歓の時にやられたんでしょうね。私たちいなかったし、あのあとさとみの様子がどんどん変わってきたし。私たち三人はまだ友達でしたけど、段々疎遠になってるところだったんです。
「様子が変わったって?」
えーと、なんていうか。服装とかが派手になってきて、化粧も、香水の匂いとかがするようになってきて。前はそんな子じゃなくて、私たちと同じような感じで、髪も染めてませんでした。
襲われて、自暴自棄がそうさせたのだろうか。さとみという少女は野蛮な獣に変えられてしまったらしい。と、私の中で次々に質問が浮かんでくる。
「あれ? 私たちと同じってことは……」
言ってみゆきさんの方をチラリと見た。すると、こちらと目が合った彼女は私の視線が自分の目よりも上にあることに気づいたようで、自分の髪は地毛だと説明してくれた。ついでに黒髪の子も見比べてみたところ、二人は化粧っ気のない顔であることがわかった。
「じゃあ、そんなに酷いのにどうして昨日、後藤くんは助けてくれたの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます