白昼夢 後


 そうです。酒を飲まなかった人ですけど、この人が一番、なんていうか最悪の噂を持ってる人でした。性的っていうか、変態っていうか。兎に角最悪で私たちは事あるごとにこいつを中心に誘われてたんです。で、うまくかわしてたんですけど今度も私たち三人を狙ってるんだと思ったらみゆき一人が狙われてたみたいで。ってか多分、さとみとはもうやっちゃったんでしょうね。あの子軽いし。で、私は後藤さんと一緒に廃墟に行くことになったんですけど、この廃墟がまた最悪でした。


 六徳。この人物を語る時、みゆきという子の顔は明確に青ざめており、また、黒い髪の子も嫌々、と言うような表情をしていた。この後、廃墟の中を説明していてその後、三組は離れ離れに、そこからのことは詳細を述べずにおこうと思うが、単純に言って六徳がみゆきを強姦しようとし、後藤を説得した黒髪の彼女が二人でそこに駆けつけ、六徳を殴って昏倒させた。そして、六徳の車に拘束して三人は廃墟に残る二人を連れ戻そうと再び廃墟に戻った。さとみと一条の二人は廃墟の三階を探索しており、静かな山の中で声をかけながらの捜索は容易と思われた。だが。


 私たちは三階を全部見ました。私とみゆき、後藤先輩は一人で。スマホのライトで照らしながら。みゆきには私の上着を上げてたんで寒くて手が悴んでて、スマホを持つ手も不安定でした。で、階段のある踊り場から丁度左右に建物が伸びてて、私たちは左側、後藤先輩は右側を、呼びかけながら探しました。すぐ見つかると思ったんですよ。でも、私たちは登ってきた階段で戻ってきた後藤先輩としか会わなかったんです。

 呼びかけながらだったんで、もしかしたらどこかでヤッてる最中なんじゃないかって話になって、後藤先輩も私も一条先輩とさとみを携帯で呼び出したんですけど……出なくて。それでちょっと怖くなって廃墟から出たんです。それで、その……出た後に廃墟の方を振り返ったら……二人とも見てたんです。屋上から。


 黒髪の子はそう、先ほど六徳の話をした時よりも表情が険しくなり、眉間には一層皺が寄る。見たくないものを見て、言いたくないことを言った。みゆきはといえば、もう青を通り越して真っ白になっている。男の屈折した情念をその身に受けて尚、といったところだろうか。話は続く。


 遠くて、夜だったのにそれははっきり見えてて、すぐに二人だって分かりました。服装も同じでしたし。ただ、それを見てみんな怖くなりました。屋上で二人並んでて、二人とも白い顔をして、それでいて目だけがこっちを向いてて。ていうか見開いてて、瞬きもしなかったし。本当に背筋が寒くなって……。でも、置いて行くわけにもいかないし。で、後藤先輩が一人で屋上まで行って、二人を無理やり連れてきたんです。二人とも大人しく手を引かれてましたけど、なんかブツブツ言ってるし話しかけても答えない。車に乗せても治らなくて、倒れてる六徳先輩を見ても何も反応しないし。で、そのまま帰ったんです。


 その後、しばらくすると一条の意識が正常に戻り、すると焦ったように車に残ってた酒をかっ食らうと、足りないのかコンビニで一升瓶の日本酒を買ってそれも飲みきったのだと言う。一方、さとみは正常でないままに自宅へと返された。

 私は顎を撫で、真っ先に浮かんだ疑問を口にする。


「六徳さんはどうなったの?」


 聞くと、彼は拘束されたまま後藤が連れて行ったらしい。警察に突き出すかどうかはこちらに任せるのだそうだ。そして、そんな二重の恐怖体験を抱えたままに今日の講義に出た。ちなみに六徳は警察に突き出すことで合意しているようだ。非常に逞しい。みゆきという女性は自身が昨日、恐ろしい獣に襲われた被害者であるにも関わらず今日の講義に出て、尚且つ他者を心配し、今警察に行くところだったのだ。


「教員として私も同行しましょうか?」




 


 

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