クリスマスホワイトフラペチーノをトールサイズでココアチップ乗せ
昼下がりで、尚且つ終業時間も近いとなれば当然のように大学近くのカフェは混んでいた。まだまだ青い若人達の笑い声、ペチャリクチャリ、罵詈雑言(?)が全て耳に入り、ごちゃ混ぜになって私はこめかみに皺を作った。それらのどれかに注力すれば雑音も少しは紛れるというものだが、如何せん、注力する話題なんて聞こえてきやしない。こういう時はランダムに。私は耳をそばだてた。
明日の講義まじだりー。ばっくれっか! (これはどうでもいい)
今度の合コンにさー、あべっち来るんだって。嘘、やだ。ばっくれっか! (どうでもいい)
うわ、いくら課金したと思ってんだよ。あーあ、クソしか出ない。どれ? どれ出たの? ん。これはひでえな。ばっくれっか! (いくらつぎ込んだんだろう?)
思ったよりも大学に関係のない話しか出なかった。これが最高学位一つ手前の生徒達なのだろうか。そう思いつつも耳をダンボにし続ける。と、興味深い話も聞こえてきた。
ねえ、さとみちゃん。やっぱり電話に出ないの? うん。だめ。全然でない。ラインに既読もつかないみたい。えぇ、やっぱり昨日のアレが原因なの? まさか。そんなはずないよ。そんなオカルトみたいな。
オカルト? 私の妖怪アンテナがピンと立ったような気がする。
でも……。先輩は何もなかったでしょ? 大丈夫よ。怪我したとか風邪引いたとかじゃないの? 昨日の夜寒かったし。ていうかあの後あいつ誘ってきたし、何様なのかしらね。
長蛇の列の六つほど前、会話もとはそこだ。見やれば二人の女生徒、黒いガウンと薄い白のジャケット、一人は髪を茶色く染めていてもう一人は黒のまま。不安がっているのは前者で、強がり、会話を反らそうとしているのは後者だ。
でもでもでもさ。先輩もさっき電話した時様子おかしかったじゃん。あんなうめき声みたいなの聞いたことないよ。どうせ二日酔いで呻いてただけよ。昨日だって帰りにお酒買ってたでしょ。運転してるくせにさ。あ! もしかしたら、さとみと先輩二人で帰ったとかじゃないの? んで、飲んでやっちゃってるとか?
やめなよ。さとみはそこまで馬鹿じゃないよ。あの人食い散らかすって有名じゃん。もうサークルも抜けたい。どうかな。わかんないよ。元々尻軽だからね……。あ、えーとクリスマスホワイトフラペチーノをトールサイズでココアチップ乗せで。
あら? もう彼女達は先頭に来ていたようだ。昨今のコーヒーショップは意外と早い。二人は同じものを頼み、会計を済まして受け取り口で待っている。私は、あと六組も待たなければいけない。その間に彼女達は行ってしまうような気がする。いや、間違いなくそうだろうと思う。私は六組の進行度合いと横で待つ彼女達を見比べる。看板とメニュー表を見比べているようだ。どうやら看板にあるメニューが売り切れになり、別のものを頼もうとしている。そうこうしてる間にもう彼女達はクリスマスホワイトフラペチーノをトールサイズでココアチップ乗せを受け取り、彼方へ去ろうとした。
致し方なし。私は列を抜け出し彼女達の元へと走った。距離としてはちょっとだったのだけれど、ヒールだし厚めのコートだし。すぐに息が上がって、身体中に大汗をかいた。二人にすみませんと肩で息をしながら言い、二人が振り返ったところで私は無理やり背を伸ばした。額に浮かんだ汗が垂れ、頰を伝うが気にしない。
「すみません。少しお話しよろしいですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます