第33話 神崎英雄譚〜序章〜

 廃工場でのゲームを終えた僕は白銀学園に侵入していた。


白銀学園では異能力者もどきと日本の異能力者たちが激しい戦いを繰り広げていた。


だが、もう増えることはなくなった異能力者もどき相手に日本の異能力者はかなり有利に戦いを進めているようだった。



優理と美月さんがいない…?



戦場をぐるっと見回してそのことに気付いた。


ここにいる日本の異能力者は有利に戦いを進めているのに、僕の嫌な予感は全く収まらない。


優理と美月さんを探そう。


僕がその場から離れようとした時、背後から攻撃される気がした。


「…っ!」


すぐに横に逃げて、攻撃を回避する。


「わいの攻撃を避けるとはな。お前、ただもんやないな?」


僕に攻撃を仕掛けてきたと思われる相手の声が背後から聞こえた。


突然、攻撃を仕掛けてくるなんて失礼な奴め!


僕が一言言ってやろうと思って振り向いた直後、声をかけてきた奴が追撃を仕掛けてきた。



なんだこいつ!?


パーフェクト・ゾーンを駆使して攻撃を躱す。


「僕はお前らの敵ではない。」


僕は冷静に目の前の男にそう言った。


「はん!敵かも知れへんそないな怪しい恰好したやつの言うことなんて信じられるか!」



そう言って、目の前の男は止まることなく攻撃を仕掛けてくる。


なんだと!?


僕のこの超格好いい恰好が怪しい恰好だと!?



僕は改めて目の前の男を見る。


よく見ると、目の前の男は身体の周りに電気のようなものを纏っていた。


なるほど、恐らくだがこいつが雷の異能力者だろう。


面倒だな…。僕の恰好を怪しい呼ばわりしたことは許しがたいが、今はこんなことしている場合じゃない。


僕は目の前の男をリバーシの異能力者もどきに擦り付けるために走り出した。


「待てや!逃がさへんで!」


スピードは確実にあっちの方が上だろう。


横の動きだけじゃ振り切ることはできない。


なら、上下の動きを取り入れるだけだ。


僕はワイヤーを校舎の二階の方に放って、そのままワイヤーを伝って二階まで壁を走りあがった。



「んなっ……。」


僕の動きに驚きを隠せないのか、雷の異能力者は口を開けていた。


「後ろ、狙われてるぞ。」


僕がそう呟くと、雷の異能力者はすぐに振り返って後ろのリバーシの異能力者を迎撃しだした。


よし、今のうちに逃げよう。


僕は雷の異能力者がリバーシの異能力者もどきを相手にしているうちにその場を離れた。



「待てや!!」


後ろから声が聞こえるが、無視して僕は嫌な予感のする方へと急いだ。






白銀学園の体育館の近くまで来ると、大きな穴が見えた。


なんだこれ?


僕が穴の中を覗いてみると、優理が謎の男に抱きしめられている様子が見えた。



え、ええええええ!?


何やってんの?こんなところで愛情表現?え?やばくね?



そっかぁ…優理ってモテるんだなぁ…。


僕が呑気にそんなことを思っていると、中から優理の悲鳴が聞こえた。



そうか、そういうことだったのか…。


あの男は優理のストーカーなんだ!


全てを理解した僕はストーカーの動きを止めるために僕は地下室へと降り立った。


「あん?誰だてめえ?」


ストーカーは突然降り立った僕に怪訝な目を向けてきた。


ストーカーは極力刺激しないように被害者を助けるのが正しいんだよな…?


僕はストーカーを刺激しないように何も言わずに麻痺毒付きの短剣を隠し持ってストーカーに近づく。



「おい、止まれ。この女がどうなってもいいのか?」


ストーカーはそう言って僕を脅してきた。


まずい…。


全くストーカーを刺激した覚えはないのだが、ストーカーはどうやら苛立っているようだ。


一瞬で決めるか。


僕は一気に加速してストーカーに近づく。


すると、ストーカーは優理を一度放して僕を迎え撃とうとする。


だが、僕の方が早い。


僕の短剣はストーカーの肌に小さく傷をつけた。


「ぐっ!!はは!なんだよ、全然まともに当たってねえじゃねえか。」


ストーカーは笑いながら僕を攻撃してくる。


僕はその攻撃を躱しながら、ストーカーに忠告することにした。


「あまりこんなことを言いたくはないんだが、愛を押し付けすぎると嫌われるぞ?」



「あん?何言ってやが……がっ…てめえ……何しやがった…?」


攻撃を避け続けていると、毒が回ってきたのかストーカーは動きを止めて床に倒れた。



「今回はこれくらいにしておいてやるから次からはもう少しアプローチの仕方を考えるんだな。」


僕は男を一瞥すると、優理に目を向けた。


解放された優理は意識がもうろうとしているらしく、神崎が近くに言って優理に声をかけていた。


僕は優理と神崎の傍に行く。


「だ、誰なんだ君は…?」


神崎が僕を見てそう聞いてくる。


「誰だっていいだろう?それより、よく頑張ったな。怖かっただろうが、あいつの動きは止めた。」


僕は優理を安心させるためにそう言った。


優理から返事を聞くことはできなかったが、優理は安心したような顔を見せていた。


さて、じゃあ次は美月さんを探しに行くか。


僕はその場を後にしようとする前に神崎の方を向いた。


「お前なら、さっきのやつを追い払うことくらいできたんじゃないのか?力があるのに恐怖心に負けて、その力を振るうこともできないことほど愚かなことはないぞ…。」


僕はそれだけ言ってからその場を離れた。




立ち去る瞬間に主人公を責めるような一言を言う強いキャラ。


うん。さっきのはかなり良い振る舞いが出来たんじゃないだろうか。


さて、美月さんを探そう。


きっと、そこに戦鬼もいるはずだ。





***

<side 神崎>


俺は、何もできなかった…。


優理と供に炎人を名乗る男と戦うことも、炎人に抱きしめられて苦しんでいる優理を助けることさえも…。



「…助け…て…。」


優理が絞り出すような声で出す助けが聞こえた。


行かなくては…。


俺は絆の異能力者なんだ、俺がやらなくては…。


そう思うが、戦鬼に一瞬で倒された記憶と自衛隊の人を一瞬で燃やした炎人の姿を思い出し足がすくむ。


結局、俺は一歩も動けなかった。


ごめん、優理…。


俺がそう思った時、一人の男が現れて炎人を一瞬で無力化してしまった。


す、すごい…。


俺が怖くて立ち向かうこともできなかった相手に堂々と立ち向かいあっさりと倒して、優理を助ける姿に俺は醜い嫉妬心を抱いてしまった。


そこは俺がいるべき場所だったのに…。



炎人を倒した男は優理と俺に一言ずつ言葉を告げると、その場を後にした。


悔しいが、男の言ったことに俺は何一つ言い返せなかった。


俺の異能は今みたいな俺の味方となる人が多い時こそ力を発揮できる。


立ち去っていった男の言葉は優理が傷ついたのはお前のせいだと言われているようで、すごく息苦しさを感じた。



それから、暫くして優理が目を覚ました。



「神崎君…?あれ、炎人は?」


「あいつなら、むこうで倒れて……嘘…だろ…?」


僕は炎人の倒れている方を見て目を疑った。


そこにはさっき間違いなく倒されたはずの炎人が起き上っていたのだ。


「ああああ!!許さねえ…あの男絶対に許さねえぞ!!」


炎人は溢れんばかりの怒りを全身で表現していた。


どうしたらいいんだよ…。


僕が絶望していると、優理が立ち上がった。


「…行かなきゃ。」


「な、何言ってるんだ優理!さっきだってやられていたじゃないか!」


僕は優理の手を掴み優理を止める。


「関係ないよ。誰かは分からないけど、助けてもらえた。なら、もう一度立ち向かうだけだよ。私がやらなきゃ皆がやられちゃうんだから。」


そう言った優理の姿が、炎人に堂々と立ち向かっていったあの男の姿に重なって見えた。


また、ここで黙ってみてるのか?


ダメだ。俺だってやれるんだ。



「なら、俺も行く。」


俺がそう言うと、優理は驚いた顔でこちらを見ていた。


「俺が行くから、優理は後で俺を治癒してくれ。」


怖くないといったら嘘になる。


でも、これ以上惨めな思いはしたくなかった。


あの男のように、俺も…。



「皆!!頼む!俺に力を貸してくれ!!」


俺が隅の方で固まっている人々にそう言うが、中々力は集まらなかった。


くそっ!これじゃ、力が全然足りない…。


俺が唇を噛み締めた時…


「皆さん!彼は絆の異能力者で皆さんの思いが彼の力になります!どうか、彼を信じて力を貸してあげてください!!」


「そや!!あの男に力を貸したってくれ!」


優理と美雷が必死にそう呼びかけてくれていた。


優理…美雷…。


すると、その掛け声に応えるように俺に力が集まってくるのを感じた。


これなら、いける!!


「皆!!ありがとう!!!」


俺はそう言って、炎人に一気に近づく。


炎人も近づいてくる俺に気が付いたようで最大火力で迎え撃ちに来た。


「うおおおお!!!」


拳に皆がくれたエネルギーを込めて炎人に突き出す。


炎人の強力な炎と俺の拳がぶつかる。



「「「いっけええええ!!!」」」



全員の声援と供に俺の拳に更に力がこもる。



そして、俺の拳は遂に炎人の炎に打ち勝った。


「くそがああああああ!!!」


そのまま、俺の拳を受けた炎人は叫び声をあげて吹っ飛んでいった。




はあはあはあ……。


少しの静寂が広がる。


やった…。今度こそやったんだ!


俺は拳を天に突き上げた。


それと同時に地下室に歓声が広がった。



「あれ…?」


力を使い果たしてしまったせいか、俺は静かに床に倒れた。


すると、優理が近くに来て俺を治癒し始める。


「神崎君、ありがとう。これで、私たちの勝ちだね!」


そう言った優理の顔はとても可愛かった。


***

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