第32話 セクハラ、ダメ、絶対

 purururu…


おかしいな?さっきから速水と連絡が取れない。


まあ、あいつなら大丈夫だろう。


とりあえず、侵入はできそうだからもう帰ってもいいよとだけメールしておこう。


すると、白銀学園の方から大きな爆音が聞こえた。



嫌な予感がする…。


僕は急いで白銀学園に向かった。



***

<side 美月>


ハアハア…。


強い…!


私は目の前で楽し気に笑う戦鬼を睨みつける。


「いやー!いいね、いいね。流石は金の異能力者ってところだな。今まで戦った異能力者の中でも強い方だぜ、お前。さて、次は何を見せてくれるんだ?」


戦鬼は余裕そうにそう言った。


私は初手から全力で、シン君を苦しめた金の銃弾を使った攻撃や、金を槍や剣に変えての攻撃など数多くの攻撃を仕掛けた。


そのうちのいくつかは戦鬼を捉えたが、それを戦鬼は攻撃が当たる部分を盾に変えることで致命傷を避けている。


正直に言うと、あの攻撃を防がれてしまった以上私に戦鬼を確実に落とせる攻撃手段はもうない。



私がどうすれば戦鬼を倒すことが出来るか考えていると。


戦鬼がニヤァと笑った。


そして、戦鬼は体育館の地面の方に向けて何かとても大きな砲身を出した。



「な、何をするつもりなの…?」


「ははは!てめえら、体育館の地下に重要人物やら原石やらを隠しているらしいな?」


「嘘…?どうして、それを…?」


「その反応だと当たりみたいだな?じゃあ、とりあえずその地下室の天井に風穴開けてやるか。」


しまった!私の反応で戦鬼に確信を持たせてしまったみたいだ…。


くっ!地下室はかなり頑丈にできているから簡単に穴を開けられるとは思わないけど、戦鬼にアレを撃たせてはいけない!!


私は急いで金を飛ばして戦鬼を拘束しようとする。


しかし、戦鬼の行動を止めることはできなかった。



ドオンッッッ!!!


轟音ととてつもない衝撃が響き渡る。


「きゃあっ!!」


その衝撃に私も吹き飛ばされそうになる。




そして、衝撃がおさまり体育館の方を見て、私は言葉を失った。


嘘…でしょ…?


そこには穴が開き、中の様子が丸見えとなった地下室が見えていた。



「ははは!いやー、このレールガンってやつを作るのは大変なんだけどな。これだけの威力なら作って正解だったな。」


レールガン?


それでこの穴を作ったの?


って、まずい!!


私は急いで戦鬼を拘束し、地下室から引き離す。


不思議なことに戦鬼は一切の抵抗をしてこなかった。


「好きにしろよ。俺の仕事はもう終わりだ。後は、てめえとの戦いを楽しむだけだからな。二人きりで戦えるところに行こうぜ。」


戦鬼は私に向かってそう言った。


ここで私がこいつを野放しにするわけにはいかない…。


私は戦鬼を連れて、白銀学園の隣にある工事中の廃ビルに向かった。


それと同時に轟君に無線を飛ばす。


「轟君!?」


『なんですか?金富さん。それより、さっきの爆音は…。』


「地下室に穴が開けられたわ!すぐに地下室に異能力者を送って!!」


『な…!?んなこと言われても、こっちもいっぱいいっぱいで……。』


「轟君たちが大変なのは分かってるけど、それでもあそこは守らなくちゃいけないわ。」


『…分かりました。わいが行くしか……「私が行きます!」んあ?聖園か?でも…「行かせてください!」…。』


無線の先で聖園さんが自分が行くと言っているみたいだ。


確かに、広範囲に攻撃をしやすい轟君が一人で多数を相手にした方がいいわね…。


「轟君。聖園さんと神崎君に任せましょう。あなたはこれ以上、敵が入ってこれないようそこでたくさんの敵を相手にする方がいいわ。」


『…分かりました。金富さんは、八鬼神の一人と戦っとるんですよね。』


「ええ。」


『必ず、無事で戻ってきてくださいよ。』



私はその言葉に返事をすることが出来なかった。


そして、廃ビルに到着すると同時に戦鬼は拘束を自力で解いて、私と向かい合った。


「いやー、さっきはすまなかったな。レールガンを腹にため込んでたから本気を出せなかった。こっからは全力で行くからよ。楽しませてくれよ?」


そう言って、戦鬼がこちらに向かってくる。


ごめん、無事に戻れるかは分からないけど、必ずこいつだけは止めて見せるわ。


私は大量の金を操って、戦鬼を迎え撃った。



***

<side 優理>


 私は神崎君を連れて地下室へと向かっていた。


「優理…。俺なんかが本当に皆を守れるのだろうか…?」


戦鬼にやられて、プライドをへし折られた神崎君が弱音を吐く。


「知らないよ…そんなの。でも、私たちがやらなきゃいけないの。」


神崎君からの返事はなかった。


神崎君はダメかもしれない…。


でも、私一人でも必ず守り切ってみせる。


私たちが地下室に入ると、中はパニック状態だった。


「皆さん!!落ち着いて!落ち着いてください!!」


私が必死に呼びかけるが喧噪のせいで私の声はかき消されてしまう。


どうすればいいの…?


私がそう思った時だった。


地下室の天井の穴から一人の男が入ってきた。




「俺はリバーシの異能力者の一人、炎人だ。お前たちには黙って私に着いてきてもらうぜ。」


「な、なんだお前は!!」


突如、現れた炎人という男に警備をしていた自衛隊が銃を向ける。


その瞬間、銃を向けた自衛隊が炎人が出した炎によって包まれた。


「ギャアアアアア!!」


自衛隊の悲鳴が聞こえる。


「抵抗する奴はこうなるぜ。」


炎人がこの場にいる全員を脅すようにそう言った。



早く治癒しないと!


私は急いで自衛隊たちのもとへ行き、治癒した。


かろうじて、彼らは一命はとりとめたようだがもう動くことはできなさそうだった。


「あん?治癒の異能力者か。これはいい手土産になりそうだ。」


炎人が私を見てそう言った。


今は、こいつは無視して皆を避難させなきゃ。


「皆さん!!一先ずこの部屋から出てください!!」


私が全員にそう声をかける。


しかし、全員が出口から出れないようだった。


「優理!ダメや!!出口がしまっとる!」


美雷が私に向けて、そう言った。


嘘…?どうして…?


私がその事実に呆然としていると、炎人が全員に聞こえるように言った。


「逃げ場はないみたいだなあ?」


この場にいる全員の顔が青ざめる。


このままじゃ……ううん、弱気になっちゃダメ。


「させない!!あなたの思い通りには絶対にさせない…!皆さん!一塊になって隅の方に逃げていてください!!」


皆が少しでも絶望しないように、そして、自分自身を奮い立たせるように私は声を上げた。



「ははは!!お前ひとりで俺を止めると?面白いじゃねえか。やってみろよ!!」


そう言って、炎人は私に襲い掛かってきた。


私は炎人のパンチを躱して、隙だらけのお腹に掌底を打ち込む。



「熱っ!?」


掌底は炎人を捉えはしたが、炎人の肉体の熱さに私は掌底を打ち抜き切る前に手を引っ込めてしまった。


「がっ!!…効いたぜ。でも、大した攻撃じゃねえな。」


ニヤニヤしながら炎人は私に近づいてくる。


ま、まずい…。


私は火傷した右手を治癒しながら炎人の動きを見る。



「あー、そっかそっか。てめえは治癒できるから多少痛みつけても問題ねえのか。」


炎人はそう言うと、ニヤァと笑った。




「……っ。」


怖い……。



「ん?なんだ?身体が震えてるぜ?」


炎人にそう言われて、私は自分の身体が震えていることに気付いた。


ダメ……。


私がやらなきゃ…。私しかいないんだから…。


私は恐怖心を押し込めて、炎人に向かっていった。



私なら多少火傷しても治癒できる。


短期決戦で一気に決める!



私が炎人に接近しようとすると、炎人は私に向かって自衛隊の人たちを燃やしたように、手から炎を放射してきた。


まずい!


私はそれを横っ飛びで躱す。


その直後、炎人が私に接近してきた。


私はすぐに炎人を迎撃するべく、掌底を打ち込もうとするが、それこそが炎人の狙いだった。



ニヤリと笑った炎人は私が掌底を打ち込むために伸ばした右手を掴んだ。



「は、放して!!」


必死に離れようとするが、炎人はそれを許してくれない。


「おいおい、折角なんだから、もっと近寄ってくれよ!」


そう言って、炎人は私を引っ張って抱きしめてきた。


「きゃああああ!!!」



熱い。炎人の熱い肉体に強制的に抱きしめられた私の身体は文字通り燃えるように熱くなった。


なんとか自身の身体を治癒し続けるが……この熱さが苦しかった。


おまけに心君以外の男に抱きしめられているという事実も私の心を傷つけていた。


た、助けて……。



私の心身がズタボロにされて、弱気になったしまった時、炎人が一旦私を引き離した。



お、終わったの……?


私が僅かな期待を込めて炎人の方を見ると、炎人は不気味な笑みを浮かべた。



「てめえは何時、心が折れるかな?」


そう言って、炎人は再び私を抱きしめてきた。


「あああああ!!」


「ははは!!ははははは!!」


私の悲鳴と炎人の高笑いが地下室に響き渡った。



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