第29話 開幕

 ***

<side 優理>


私は今、白銀学園の地下にある講堂にいた。


そこには、日本の重要人物や原石が集まっていた。


「なあ、優理。本当にリバーシが襲撃してくるん?」


美雷が私にそう聞いてくる。


「うん。政府の方が言っていたから間違いないと思う。」


私がそう言った後、上の方から大きな音が聞こえた。


「リバーシが来ました!敵の数が想定より多いので、治癒の異能力者様と絆の異能力者様のお力も貸してください!」


黒服を着た人がそう言って講堂に入ってきた。


大丈夫。覚悟はできてる。


私は心君からもらったロケットを握りしめて、外へと向かっていった。




外では、かなり激しい戦闘が行われていた。


日本が誇る異能力者たちがリバーシの異能力者たちと戦闘を行っている。


私たち側の異能力者たちが有利に戦いを進めているようだったけど、その数の多さから疲労が見える人たちも何人かいた。


「治癒の異能力者様は味方へのサポートをお願いします!」


「分かりました!」


私はそう言って、近くの人からどんどん治癒していった。


体力が回復した私たちの陣営は一気に戦いを有利に進めている。


この調子でいけば……。


私がそう思った時だった。


封鎖されていたはずの一つの門から一人の男が現れたのは。



***


<side 戦鬼>


やっとこの日が来た。


俺は自分の高ぶる気持ちを抑えきれずにいた。


ようやく、あのシンという男とまた戦える…!


『戦鬼、どうやら偽物の異能力者たちが全然役に立っていないみたいだ。仕方ないから、ちょっと君が行ってかき回してくれない?』


無線から、贋鬼からの指示がでる。


「分かった。好きにやらせてもらうぜ?」


『うん。いいよ。』


さーて、シンが来るまでの肩慣らしと行くか。


俺は、白銀学園の封鎖されている壁をぶっ壊して堂々と中に入っていった。


***




<side 優理>


この男は、まずい…!


一目見ただけでそう思った。


白銀学園の強固な防壁が壊されたことが何より目の前の男が強いことを物語っていた。


「誰だ、お前は!」


私の近くにいた神崎君が目の前の男に向かってそう言った。


「あん?俺か?俺は戦鬼って言うんだが……てめえらシンっていう男を知らねえか?」


シン…ってまさか心君?


いや、そんなわけないよね…。


「そんな奴知らない!お前もリバーシの一員だな!お前の好きにはさせない!来い!俺が相手だ!」


神崎君が、戦鬼という男に向かってそう言った。


って、戦鬼?


もしかして、あの男って金富さんが言ってた八鬼神ってやつじゃ…?


「ダメ!神崎君、一回引いて!!」


私が急いで神崎君に声をかけるが神崎君はお構いなしだった。


「来ないならこっちから行くぞ!」


「やっぱり、シンはまだいないのか。」


戦鬼は神崎君などまったく気にしていなかった。


「はあああ!!」


神崎君は戦鬼に向かって、剣を持って斬りかかる。


「ちっ…。うぜえな。」


戦鬼がそう言った直後だった。


神崎君の持っていた剣は真っ二つに斬られていた。


え?何が起きたの…?


「な…!?」


神崎君はいきなり剣が斬られたことに動揺していた。


「あー、てめえじゃまだ力不足だな。」


戦鬼がそう言った後、神崎君は壁に叩きつけられていた。


良く見えなかったけど、きっとあの戦鬼という男が神崎君を蹴り飛ばしたのだろう。


神崎君は気を失っているようだった。



逃げなきゃ…。


私はそう思ったが、立ち止まった。


ここで私が逃げたら、誰があの戦鬼って男を止めるの?


勝てなくていい…。でも、せめて時間稼ぎくらいは…。


私は近くにいた黒服の人にこのことを金富さんに伝えてほしいと告げて、戦鬼に向かい合った。


「あん?次はお前が相手か?さっきの奴より弱そうなんだが大丈夫か?」


戦鬼がそう言ってくる。


舐められてる…。


だからこそ、初手が大事。


最初の一撃を全力で、最速で叩き込む!


私はこの一年間で鍛えた力を全力で使い、動いた。


戦鬼は驚いた顔をしている、懐には潜れた。


私は戦鬼の横腹に特性のスタンガンをあてて、スイッチを入れた。


バチッ!!


「ぐあっ」


戦鬼は超強力な電撃を前にうつ伏せで倒れた。


や、やったの…?


とにかく、拘束しなきゃ。


私は戦鬼をワイヤーで拘束し、金富さんが来るのを待つことにした。


「これでよし。うん、大丈夫…だよね?とりあえず、神崎君を治癒しなきゃ。」


私が神崎君の治療をしに行こうとしたその時だった。


「いやー、さっきの攻撃は良かったぜ。完全にあんたのことを侮ってた。でも、甘いな。この程度の拘束じゃ、俺は縛れねえよ。」


後ろを振り向くと、そこには全身を刃物のように変形させ、何事もなかったかのように立っている戦鬼がいた。


「嘘でしょ…?」


思わず、そう呟くが現実は変わらない。


「さて、次は何を見せてくれるんだ?楽しみにしてるぜ。」


戦鬼はそう言って、一気に私との距離を詰める。


早い!?


「くっ!」


私も急いで対応しようとするが、戦鬼は常に私以上のスピードで動いてきた。


「おいおい、もしかしてこれが限界か?それはつまんねえ…ぞ!!」


戦鬼がそう言って、刃に変えた腕を渡しに振り下ろしてくる。


もう、ダメ!!


キインッ!!


私がもう駄目だと思った時、戦鬼の刃から私を守る様に金色の壁が現れていた。


「あなたが戦鬼ね。これ以上あなたの好きにはさせないわよ。」


声がした方を向くと、そこには金色のボディスーツを身に纏った金富さんがいた。


***



<side 美月>


「金富様!」


私が白銀学園を襲撃しに来た異能力者たちを同時に相手していると、黒服を着た男の人が私のもとへやってきた。


「どうしたのかしら?」


私は私に斬りかかろうとする男を金の異能を使って拘束しながらそう聞いた。


戦況は聖園さんが加わってくれたこともあり、かなりこちらが有利になっている。


この調子なら、一時間もすれば制圧できるだろう。


「ほ、報告します!ただいま、戦鬼と名乗る男が南口から現れました!絆の異能力者様が交戦し敗北、現在は治癒の異能力者様が足止めしてくれていますが…それもいつまでもつか…。」


戦鬼…?もしかして、八鬼神?


やっぱり来たのね…。


それに、まだまだ力不足とはいえ神崎君を簡単に倒すなんて…。


「私が行くわ。案内してちょうだい。」


「い、いいのですか!?」


「ええ、轟君!私の範囲もよろしく頼むわよ。」


「緊急事態ってことですかい。分かりました、できるだけ早う戻ってきてくださいね。」


轟君はそう言って、異能力者たちを蹂躙しに行った。


「ええ。」


そう言って、私は黒服の人と供に戦鬼という男がいる場所へと向かった。





私が現場に着いたのは、聖園さんが戦鬼という男に斬られる瞬間だった。


間に合って!!


私は急いで金の異能力を使い聖園さんを覆うように防御壁を張った。


キインッ!!


良かった…。どうやら間に合ったみたいだ。



「聖園さん!こちらに来て!!」


私は急いで聖園さんをこちらに呼ぶ。


聖園さんは何とか立ち上がって、こちらへ来た。


「金富さん、ありがとうございます!」


「ええ、ここは私に任せてあなたは神崎君を治癒して、私が担当しているところの援護に向かってくれないかしら?」


「え!?金富さんは一人で大丈夫なんですか…?」


聖園さんが心配そうにそう聞いてくる。


「ええ。安心してちょうだい。」


「…分かりました。必ず後から援護に来ます…。」


そう言って、聖園さんは神崎君を回収してその場を離れた。




「あー。よく分かんねえけど、お前が俺の相手をするってことでいいのか?」


戦鬼が私に向かってそう聞いてくる。


「ええ、そうよ。私があなたを倒す。覚悟しなさい。」


私はそう言って、いつでも攻撃に転じられるように構えをとる。


「戦いの前に一つだけ聞きたいことがある。シンって男を知らねえか?」


戦鬼のその言葉に心が少しざわついた。


「…っ!なんで、あなたがその名前を…?」


「その様子じゃ、知ってるみたいだな。俺はあいつを探してるんだ、一年前からずっとあいつと戦える日を楽しみにしてきた。居場所を教えてくれたら、てめえは見逃してやってもいいぜ?」



一年前…?


もしかして、シン君が戦いをやめることになったのはこいつのせい?


あの日、シン君の心身をボロボロにして追い詰めておきながら、こいつはまだシン君を狙っているの?


許せない…!


こいつだけは、この男だけは…今の心君に会わせるわけにはいかない。


パンッ!!


戦鬼の頬を銃弾がかすめた。


「おいおい、返答がちょっと手荒じゃねえか?」


戦鬼がのんきな顔でそう言ってきた。


「黙りなさい。あなただけには心君の居場所は教えないわ。あなただけは…ここで絶対に倒す!」


私はそう言うと同時に戦鬼に向かっていった。


「どんな理由があるか知らねえが、いい殺気だ。シンが来るまで遊び相手になってやるよ。」


戦鬼はそう言って、構えをとった。

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