第28話 準備はしっかりと
美月さんとの買い物をした次の日、白銀学園付近の高校は三日間休みになることが伝えられた。
理由に関しての説明はなかったが、十中八九リバーシの襲撃が原因だろう。
そして、僕はいよいよ明日に迫ったリバーシ襲撃に関しての最後の打ち合わせをF.Cで行っているところだった。
「…以上が白銀学園を防衛する作戦になる。分かっているとは思うが、この防衛作戦の中にシン君の名前はない。」
美月さんのおじいさんが防衛作戦について簡単に説明した後、そう言った。
「分かっています。だからこそ、僕は自由に動いても問題ない。そうですよね?」
「ああ。だが、そもそも白銀学園に潜入できない可能性もある。それに君は自由な立場である以上、リバーシと国の異能力者、この両方から狙われる可能性もある。ここで改めて聞いておくが、それでもシン君は行くのかね?」
おじいさんが真剣な顔でそう聞いてくるが、それは愚問だ。
僕のこの一年はこの時のためであるし、僕が強キャラとして名を挙げるうえでこれ以上の場は存在しない。
それに、美月さんの本当の笑顔を取り戻すためにもこの戦いは重要なものになる。
なんとなくだが、そんな気がしていた。
「はい。覚悟はできています。」
僕はおじいさんの目を真っすぐ見てそう言った。
「ふっ…。そうか、それなら儂たちは君を全力で支援するだけだ。有本!あれを持ってきてやれ。」
おじいさんがそう言うと、有本さんが何かを持ってきた。
「シン君、これを使ってくれ。」
そう言って、有本さんは拳銃のようなものと少し変わった短剣を渡してくれた。
「有本さん、これは…?」
「これは、麻酔銃と毒を付着させた短剣だよ。毒とは言っても、相手を麻痺させたり眠くさせたりするようなものだけどね。シン君はこれから複数対一で戦うことが多くなると思うから、簡単に相手を無力化するために使ってほしいんだ。」
あ、有本さん……。
僕は今まで、有本さんの実験相手のような扱いを受けることがよくあったこともあり、有本さんのことをマッドサイエンティストだと思っていた。
だが、有本さんは僕のことを考えてこんな素晴らしい武器を作ってくれた。
僕は有本さんのことを勘違いしていたのかもしれない…。
「有本さん、ありがとうござ…。」
「その毒を使って、敵をばんばん倒してよ。あと異能力者相手にどれくらい効果があるのかのデータも取りたいから、しっかり頼むね。」
前言撤回、この人は僕のことなんて心配していない。
正真正銘のマッドサイエンティストだ。
「…分かりました。」
僕はただ頷くことしかできなかった。
だが、麻酔や麻痺毒を使った武器は凄くありがたい。
言葉にはしないけど、感謝はしておこう。言葉にはしないけどね!
「ところで、シン君。白銀学園に入り込む方法は見つかったかね?」
僕と有本さんの様子を見ていたおじいさんがそう聞いてきた。
「はい。そこに関しては一応、ツテがあるのでそこにお願いしています。」
「おお!そうか、それなら良かった。すまんな、儂らの力では流石にシン君を白銀学園に勝手に入れるというのはできそうにないからの…。」
おじいさんが申し訳なさそうにそう言った。
「F.Cは大企業ですからね。F.Cが勝手に謎の人間を白銀学園に侵入させたとなると、国から疑いをかけられる可能性がありますから。仕方ありませんよ。」
僕はおじいさんにそう言った。
「そう言ってもらえると、ありがたい。シン君、美月のこと頼んだぞ。」
「分かりました。」
僕はそう言って、おじいさんと有本さんと別れを告げた。
その夕方、僕はお父さんととお母さんに友達の家に泊まりにいってくるから明日の夜には帰ってくると伝えた。
お母さんは少し心配そうにしていたが、お父さんが僕の味方をしてくれたこともあり、僕は無事に友達の家に泊まりに行けることが出来た。
ピンポーン!
友達の家の前に着いた僕はその家のインターホンを鳴らした。
ドアが開くと、中から速水が出てきた。
「心、いらっしゃい。とりあえず、中に入れよ。」
「お邪魔します。」
そう言って、僕は速水の家に入っていった。
そう、僕が泊まる友達の家とはこの速水の家だ。
「今日、明日はうちの親は仕事でいないからくつろいでくれ。」
「そうなのか?折角、お土産を用意したんだけど…。」
「わざわざ悪いな。まあ、台所にでも置いといてくれよ。また、家族で食べさせてもらうからさ。」
僕は速水の言葉に頷いて、台所にお土産を置いた。
「とりあえず、寝るときは客室を使ってくれ。外は寒かっただろうから、とりあえず風呂に入って来いよ。風呂から上がったら、二階にある俺の部屋に来てくれ。」
「分かった。」
僕は荷物を客室に置いてから、速水に言われた通りお風呂へと向かった。
お風呂から上がった僕は速水の部屋へと来ていた。
「速水、お風呂あがったぞ。」
「おお。それなら、早速だけど例の件について話すか。」
速水は座布団を出してきて、僕にそこに座る様に指示した。
「例の件ってことは白銀学園への侵入ルートが分かったのか?」
そう、僕は速水に白銀学園への侵入経路を調べてもらっていた。
速水は最初こそ疑いの眼差しを向けていたが、僕が何も言わずに助けてほしいと言うと、ため息を吐きながらも了承してくれた。
「はっきり言うと、侵入は諦めた方がいい。今、白銀学園の警備はかなり凄いことになってる。本来なら解放されてる四つの門の内、三つは封鎖されてるし、残った一つに至っては異能力者が監視しているみたいだ。正直言って、今のままじゃ侵入は無理だろうな。」
速水は僕にそう言った。
今のままじゃ、無理…か…。
「今のままってことは、状況が変わればいけるのか?」
僕は速水にそう聞いた。
「そうだ。白銀学園があれだけの警備体制を整えるということはそれだけの何かがあるってことだ。情報を集めてみた感じ、異能力者もたくさん集められてるみたいだし、それこそ異能欲者を動員しなくては解決できないほどのことがあるんだろうな。だから、その事件の混乱に乗じて白銀学園に侵入すべきだ。」
速水はそう言った。
相変わらず、こいつの情報収集能力は凄いな。
「ここまで来たら、何で心が白銀学園にこのタイミングで入りたがっているのかとかを聞くつもりはない。聞いても言うつもりなんてないんだろうからな。だから、ここからは作戦だ。明日、白銀学園の近くにある丘から俺は白銀学園の様子を見て、心に指示を伝える。心は指示を受けたら、俺を信じて行動してくれ。何としても、心を白銀学園に侵入させてやる。」
唖然とした。
速水はどうしてここまで僕に協力してくれるんだろう。
そう思った僕は速水に質問してみた。
「なあ、何で速水はこんなに僕の力になってくれるんだ?」
速水は少し考え込むような素振りを見せた。
「んー。まあ、そうだな。心には分からないだろうけどそれが必要なことだから、かな。」
「必要なこと…?」
「まあ、気にすんな。心は親友だからな!親友のことを助けるのは当たり前だろ?」
速水はそう言って僕に笑いかけたが、僕は速水の必要なことという発言が引っかかるのだった。
「なあ、速水……。」
「心。俺もお前が白銀学園に侵入したがってる理由は聞かないんだ。だから、な?」
そう言った速水は少し困ったような顔で笑っていた。
そっか。
誰にだって隠したいことはあるよな…。
武田先生も友達が話したくないと言っているときには、黙って待てって言ってたし、僕も速水が言ってくれるのを待とう。
あれ?でも、一年前の速水は待ってくれなかったような……。
『過去のことは気にしてはダメよ。』
え!?武田先生?なんで僕の心の中に?
『過去のことを気にする男は最低よ。…本当、あの男は人の過去ばっかり見て……。』
ひっ…。う、うん。過去は過去!今は今だよね!気にせずに行こう!
「速水、何かあったらいつでも僕に言えよ!」
僕は速水に向けてぐっと親指を突き出した。
「何でそんなにテンション高いんだよ。まあ、その時がきたらな。」
速水はそう言って笑った。
「じゃあ、そろそろ寝るか。」
「そうだな。」
そう言って、僕は速水の部屋を出ようとする。
「…なあ、速水。武田先生ってもう結婚したのかな…?」
僕はふと気になって、速水にそう質問した。
「なんだ急に?えーと、そうだな。この間、お見合いをして失敗したみたいだぞ。何でも、先生が昔、居酒屋で酔いつぶれて暴れてたのを偶々お見合い相手が見てたのが原因だと。」
ああ、道理で…。
「そっか。急に変なことを聞いてごめんな。おやすみ。」
僕はそう言って、客室へと戻っていった。
武田先生が結婚できますように…。
僕は客室の窓から星に向かってそう願ってから眠った。
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