第26話 嵐の前は日常イベント
あの後、おじいさんの頼みを断れるわけもなく、車に乗って、僕と美月さんは近くのショッピングモールに来ていた。
「心君、ごめんね?おじいちゃんが無茶言ったみたいで。」
「いえ、僕も昼からは特に予定がなかったので丁度良かったです。」
「そう?そう言ってもらえると私も嬉しいわ。」
美月さんは笑顔でそう言った。
相変わらず綺麗な人だな…。
「そういえば、今日はここに何しに来たんですか?」
「今日は服とか靴とかを買いに来たのよ。おじいちゃんも絶対についていくって言ってたから二人で行く約束をしていたんだけど…。」
「なら、今日の僕の仕事は荷物持ちですね。」
僕がそう言うと、美月さんは少し慌てた様子を見せた。
「そんな、悪いわよ。」
「いえいえ、美月さんとこうして買い物にこれただけで僕は満足ですから。」
「でも!」
ぐ~。
美月さんが僕に何かを言おうとした時、間抜けな音が聞こえた。
美月さんは顔を真っ赤にしながら俯いていた。
「…とりあえずご飯にしますか?」
美月さんは何も言わずに小さく頷いた。
可愛い!!
一年たってもポンコツ美月さんの可愛さに変わりはなかった。
ショッピングモールにあるイタリアンのお店で僕と美月さんは昼ご飯を食べていた。
「心君とこうして昼ご飯を食べるのも久しぶりね。」
「そうですね。大体、一年ぶりくらいですね。」
「そうね。」
美月さんは一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐに笑顔を作った。
「心君は最近どうなの?高校生活を楽しんでいるのかしら。」
「はい。楽しんでますよ。友達もそれなりにいますしね。」
「仲の良い女の子とかはいるのかしら…?」
美月さんは恐る恐るといった様子でそう聞いてきた。
「残念ながら仲が良いと言える女の子はいませんね。」
「あら、そうなのね。」
美月さんはそれを聞くと嬉しそうに笑っていた。
「美月さんの方はどうなんですか?聞けば、日本で二番目に強い異能力者って言われてるらしいじゃないですか。」
「そうね、かなりいい調子よ。異能力者の皆もリバーシとの戦いに向けて頑張っているわ。今の私たちならきっとリバーシにも勝てるわ。」
そう言う美月さんの顔は自信に満ち溢れていた。
「そうなんですね。それなら良かったです。」
僕がそう言った後、暫く沈黙が続いた。
「…心君は、今に満足しているのかしら?」
ふと、美月さんがそう聞いてきた。
「ええ。満足ですよ。」
「そう、ならやっぱり一年前の選択に後悔はないのね…?」
一年前というと、僕が暫くはシンとしての活動を休止すると言ったことだろうか?
あの選択がなかったら、僕は修行して今の強さを手に入れることはできなかったよな…。
うん!後悔なんてないな!
「はい!ありません!」
僕は笑顔でそう言った。
「そ、そうなのね…。うん、それならいいわ。心君がこれからも笑顔でいられるように私頑張るわ。」
美月さんはそう言って、少し寂しげに微笑んだ。
僕はその隠れた寂しさの理由が気になって、美月さんに質問した。
「どうして、少し寂しげなんですか?」
「…気のせいよ。それより、そろそろ買い物に行きましょ。」
美月さんはそう言って席を立った。
気のせいじゃないと思うんだけど…。
聞かれたくないのか…?
僕は疑問を無理やり抑え込んで、美月さんの後についていった。
しばらくの間、美月さんが服を見たり試着したりしていた。
「心君、これはどうかしら?」
僕は忘れていた。
美月さんの戦闘用のスーツを作ったのは美月さん自身だったということを。
「そ、それよりもこっちの服の方が似合うと思いますよ?」
美月さんの服のセンスは少し、いや、かなり独特だった。
「そうかしら?なら、そっちも試着してみるわね。」
美月さんは僕が持ってきた服を手に取って試着して見せた。
「んー。これよりさっきの方が…。」
「すごく似合ってますよ美月さん!!ただでさえ綺麗な美月さんの綺麗さが更に強調されてます!お姫様見たいですよ!」
僕は思いつく限りの言葉で美月さんを褒めた。
「ふふっ。そうかしら?なら、これも買おうかしら。」
これも!?
てことはさっき着たやつも買うつもりなのか!?
そこまで、さっきの毒キノコみたいな色合いした水玉模様のワンピースと毒キノコの傘みたいな帽子がよかったのか!?
「それじゃ、買ってくるわね。心君は外で少し待ってて。」
ああ!
待って!その毒キノコセットは置いてって!
僕の願いも虚しく、美月さんは嬉しそうに服をレジに持っていった。
な、なんてこった…。
この時、僕はおじいさんが美月さんの買い物に付いていくと言った本当の理由をなんとなく察した。
おじいさん、苦労してたんだなぁ…。
「お待たせ、心君。それじゃ、次に行きましょうか。」
買い物袋をさげて美月さんは嬉しそうにそう言った。
まあ、いっか。
美月さんの笑顔を見て僕はそう思った。
その後、靴を見たり雑貨を見たりして僕と美月さんは買い物を楽しんだ。
もう買うものもなくなってきた時、
「すいません。美月さん、少しトイレ行ってきますね。」
僕はそう言って、先ほど美月さんと行った雑貨屋へ向かった。
あの商品、もう残りの数が少なくなってたけどあるかな…。
僕がある商品を探していると、僕の前にいた人が僕が探していた商品の最後の一個を取っていくのが見えた。
「あ、あの!」
「ん?何かしら?」
そう言ってこちらを振り向いた人はとてつもないナイスバディの美人だった。
おお…。
いやいや、今は見惚れてる場合じゃない。
「すいません。その商品、僕も欲しくて…。図々しいとは分かっているんですけど譲ってもらえませんか?」
僕はそう言って頭を下げた。
すると女性は僕の顎を持って、僕の目をジッと見つめてきた。
「この商品を誰かにプレゼントするつもりなのかしら?」
「は、はい。」
「誰にあげるつもりなのかしら?」
女性の瞳はずっと見ていると吸い込まれてしまいそうで、脳が蕩けていく感覚がした。
ダメだ!
この女性の近くにいてはいけない!!
咄嗟にそう思った僕は、思わず目の前の女性を突き飛ばしてしまった。
「…っ!?」
女性は僕の行動に驚いた顔を見せた。
「あ!す、すいません!」
僕は女性に急いで謝罪した。
しまった…。
これじゃ、商品を譲ってもらえるわけないよな…。
「ふふっ。あなた、おもしろいわね。いいわよ。これ、譲ってあげる。」
意外なことに、女性は怒るどころか僕に商品を譲ると言ってくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「別に構わないわ。それじゃ、私はもう行くから、またどこかで会いましょ。」
そう言って、女性はどこかへと言ってしまった。
綺麗な人だったなぁ…。
あ、早く美月さんのとこに戻らなくちゃ。
僕は女性に譲ってもらった商品を購入して美月さんのもとへと戻っていった。
***
<side 謎の美人な女性>
ふふっ。
面白いもの見つけちゃった。
pipipipi!
あら、贋鬼からの電話…珍しいわね。
「は~い!どうかしたの?」
『やあ!淫鬼、ずいぶん機嫌が良さそうじゃないか!何かいいことでもあったのかい?』
「ええ。少し面白いもの見つけちゃったの。」
私は笑いながらそう言った。
『うわぁ。その人には同情するよ…。』
「ちょっとそれは失礼じゃない?少しばかり玩具として遊ぶだけよ。」
『それが僕には理解できないんだよねえ。まあ、いいさ。それより作戦が決まった。二日後に決行するから準備しといてね。』
「分かったわ。」
そう言って、私は電話を切った。
すると、何人かの男が声をかけてきた。
「ねえねえ、お姉さん一人?俺らと楽しいことしない?」
欲望に満ちた瞳、がっついた男の子は嫌いじゃないわよ。
「そうねえ。いいわよ。お姉さんと楽しいこと、しましょうか。」
私はそう言って男たちの目をじっと見つめる。
男たちは初めは興奮していた様子を見せていたが、段々と大人しくなっていった。
「あら、この程度で落ちちゃうなんてつまらないわね…。そうね…二日後、白銀学園で欲望のままに暴れなさい。」
私がそう言うと、男たちは頷いてからどこかへ行った。
はぁ、つまらない。
やっぱり、あの男の子が特別なのね。
ふふっ、絶対に逃がさないから。
私はあの男の子に再び会う日を楽しみにしながらその場を立ち去るのであった。
***
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