第25話 主人公は強い敵キャラと遭遇しがち

「僕かい?僕は贋鬼。さっき、そこの偽物が話していた存在さ。」


そうか…こいつが。


目の前にいる男を見定めるため、僕はじっくりと男を観察した。


「そんなに見つめないでくれ!照れるじゃないか!いや、やっぱりもっと見てくれ!!僕の姿を!」


変態だ。


僕の贋鬼という男への評価は決定した。


その時、ふと贋鬼のリュックが目についた。


「お前のその背中に背負っているものはなんだ?」


「ん?ああ、これらは今日コミケで入手した僕のお宝たちさ。せっかく日本にこれたんだ、日本のアニメ・漫画文化を満喫しようと思ってね。」


外国人観光客かよ…。


僕は少し拍子抜けしてしまった。


「が、贋鬼様!!た、助けてください!ははは!贋鬼様がいればてめえなんて一瞬で殺されちまうぜ!」


捕らわれていた男は贋鬼という奴が自分たちを助けに来たと思ったらしく喜んでいた。


「ちょっと黙ってくれないかな?てか、君は誰?」


しかし、贋鬼は捕らわれている男など眼中にないようだった。


「なっ!俺ですよ!あなたから異能力を授かった男です!」


「あー、僕が力をあげた偽物たちか…。で?そんな偽物を何で僕が助けないといけないの?久しぶりの本物との会話を楽しんでいたのにさぁ。」


そう言って贋鬼は全身から殺気を出す。


その殺気は戦鬼や剛鬼に並ぶレベルのものだった。


その瞬間、僕は贋鬼への評価を改める。



「ひっ…!す、すみませんでした!」


そう言って、男は頭を下げる。


その時、僕は男の前に移動して男めがけて放たれたナイフを短剣で弾いた。


「どうして攻撃を阻止したんだい?そいつは君の敵だろう?」


ナイフを投げた張本人である贋鬼は、笑顔のままそう聞いてきた。


「こいつは貴重な情報源だ。こんなところで殺させるわけにはいかない。」


「へえ。邪魔をするならお前も殺す、って言っても邪魔をするつもりかい?」


「ああ。その時はお前を返り討ちにするだけだからな。」


贋鬼は僕の発言を聞くと、笑い出した。


「ははははは!!久しぶりだよ君みたいな人は。うん、やっぱり君は本物だ。もっとお話ししたいところだけど、邪魔者が来るみたいだし僕は帰るよ。」


そう言って、贋鬼はそこから立ち去ろうとする。


僕は贋鬼に向かって一つだけ宣言した。


「贋鬼、お前らが白銀学園を本気で襲撃するつもりかどうか知らないが、気を付けるといい。異能があるから強いなんて勘違いはしないことだ。」


贋鬼はそれを聞くとニヤっと笑った。


「そうみたいだね。だけど、僕らは止まる気はないよ。三日後、最高に楽しい時間を過ごそうじゃないか!」


そう言って、贋鬼はどこかへ立ち去っていった。



あれが贋鬼か…。


異能力者を複製する男。


白銀学園での戦いは苦しいものになりそうだな…。




僕がそんなことを思っていると、増援を呼びに行っていてくれたリーダーが戻ってきた。


「シン!大丈夫…みたいだな…。」


リーダーはワイヤーに繋がれて地面に横たわっている四人と、先ほどから頭を地面にこすりつけた状態の一人を見てそう言った。


「はい。それより、こいつらに襲撃された他のメンバーの方たちは…?」


「ああ。あいつらも命に別状はないみたいだ。どうやら咄嗟に死んだふりをしてやり過ごしていたらしい。」


「それなら良かったです。」


僕は安堵のため息をついた。


その時、リーダーがポツリと呟いた。


「我々は、まだまだ力不足だな…。」


リーダーは悔しそうに唇を噛み締めた。


その姿が、どこか一年前の僕の姿に似ていて、気付けば、僕はリーダーに声をかけていた。


「…最初から強い人なんていません。今日のことをきっかけに皆さんは強くなればいい、僕はそう思います。」


リーダーは僕の言葉を聞くとハッとした顔をした後にフッと笑った。


「確かにそうだな。ありがとうシン。君のおかげで我々は助かった。困ったことがあった時はいつでも我々に言ってくれ。必ず力になることを約束しよう。」


リーダーは顔を上げて僕にそう言った。


その瞳は真っすぐと前を見つめていて、自分のやるべきことが分かっているようだった。


「ありがとうございます。その時が来れば、よろしくお願いします。」


直感だが、この人たちは強くなるような気がした。


ここにも、また新たな今日キャラが生まれてしまうかもしれないな。


僕も負けないように精進しなくては。




その後、僕らは車に乗って、僕は自宅に、部隊の方々はF.Cへと戻っていった。


別れ際、僕はリーダーの方におじいさんに向けて伝言をお願いした。


「明日、今回の調査の件で話したいことがある。」と。



なんとか21時前に家に着いた僕は両親に怒られることもなく無事に布団に入ることが出来た。






そして、翌日になった。


学校が休みということもあり、僕は朝からF.Cへと向かっていた。


F.Cに着き、おじいさんの待つ部屋へと向かうとおじいさんと有本さんがその場にいた。


「おはようございます。」


僕はおじいさんと有本さんに挨拶した。


「おはよう、シン君。それで私に話したいこととは何だね?」


「はい、昨日の襲撃事件に関することなんですが……………ということがありました。」



僕はおじいさんと有本さんに、異能力をコピーして異能力者を増やすことが出来る異能力者の存在と贋鬼という八鬼神の一人を名乗る男に出会ったことを伝えた。


それを聞いたおじいさんが軽く頭を抱えていた。


「八鬼神か…。やはり、今のリバーシにも存在していたか…。」


「その八鬼神について詳しく教えてくれませんか?」


八鬼神のことを知っている様子のおじいさんに僕は質問した。


「八鬼神は、文字通り鬼神のように強いリバーシの八人の異能力者たちのことを言う。奴らは、一人ひとりが圧倒的な力を持っていて、儂らも八鬼神一人に対して、異能力者を最低三人以上はぶつけないと戦いに

ならなかったくらいだった。」


「ほ、本当ですか!?」


有本さんが驚いたようにそう言った。


「ああ、奴らの異能力は他の異能力者の異能より一歩先を行っている。シン君も気を付けるといい。ああ、それと奴らは全員呼び名があって、その呼び名には必ず鬼がついていたな。」



ん?鬼が呼び名につく…?


贋鬼、剛鬼、戦鬼…。


贋鬼はともかく、剛鬼も戦鬼も八鬼神のメンバーじゃん!


え?僕、そんな奴らに目付けられてるの?


やばくね?


い、いや、僕も一年修業したんだ!きっと勝てるはずだ!勝てる…よね?


「そ、そうなんですね!ありがとうございます!」


僕は自分を奮い立たせるため大きめの声をだした。



「うおっ。どうしたんだね急に大きな声出して。まあ、八鬼神に関してはこんなものだ。まあ、問題はそれよりも…。」


「「異能力者を意図的に増やせること、ですね(だな)。」」


僕とおじいさんの意見は一致していたようだ。


「僕もそこが気になるな。無能力者を異能力者にできる異能、研究のやりがいがありそうだ。」


有本さんはどこまでも有本さんだった。


「まあ、この件に関しては政府や白銀学園側とも話し合う必要があるな。ひとまず、ここでの話は終わりだ。」


おじいさんがそう言った。


「それなら、昨日の僕の戦闘データがあるので有本さんにそれを解析してもらってから、政府と話し合いを行うといいんじゃないですか?」


僕はそう言って、コートについていた小型カメラを出した。


「おお!そういえば渡していたね!」


有本さんが喜ぶ。


「確かに、データがあった方が対策も考えやすいな。ただ、このデータを提出すればシン君の存在も知られてしまうが良いのかね?」


おじいさんが僕にそう聞いてきた。


「はい、大丈夫です。どうせいつかは見つかるんですから、それが早いか遅いかってだけですよ。」


「そうか。ありがとう。なら遠慮なく使わせてもらうよ。有本、解析頼むぞ。できるだけ早くしてくれ。」


「はい!任せてください!」


有本さんはそう言うと、嬉しそうに小型カメラを持って部屋を出ていった。




有本さんが部屋を出ていくのを確認した後、僕は再びおじいさんに向き直った。


「おじいさん、調査を行うということを知っていたのは誰ですか?」


「それは、私と有本君、それと政府の一部の人間だ。だが、それが一体どうしたというのだ?」


「昨日、調査隊を襲撃してきた奴らは全員誰かに命令されたと言っていました。あの時間に港に来る連中を始末しろ。という命令だったそうです。」


おじいさんは僕の話を聞いて、目を見開いた。


「ということは、もしや!」


「ええ、恐らくですがスパイがいます。もしくは、たまたま誰かに聞かれたかですが…。」


「たまたま聞かれるということは絶対にありえない。」


おじいさんはそう言い切った。


やっぱりか…。


「なら、やはりスパイがいる可能性が高いと思っていてください。」


「そうか…。まさか、スパイが出てくるとはな。情報ありがとう、シン君。これからはこちらもそのつもりで動くことにしよう。」


おじいさんは少しショックを受けていたようだが、すぐに切り替えてそう言った。




おじいさんに伝えたいことを伝え終わった僕はそろそろ帰ろうかなと思っていた。


その時、おじいさんに声をかけられた。


「ところで、田中君。昼からは何か予定があるかね?」


「昼からですか?ちょっとトレーニングをしようかなとは思ってましたけど、特にはないですね。」


なんで昼からの予定を?


何か企んでるのか?


おじいさんは僕の返事を聞くと嬉しそうにした。


「おお!なら丁度良かった。すまんが、一つお願いごとを頼まれてくれんかね?」


頼み事…?


「その頼み事っていうのは…。」


僕がおじいさんに質問しようとした時、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。


「おじいちゃん。もう時間だからそろそろ行きま…しょ…って心君?」


僕が懐かしい声に反応して振り向くと、そこにはこの一年間ほとんど出会うことのなかった美月さんがいた。


「おお、来たか美月。頼み事というのは簡単だ。昼から儂の代わりに美月と買い物に行ってきて欲しいんだよ。君、頼まれてくれるね?」


おじいさんはニコニコしながら僕にそう言った。


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