第24話 何事もブランクは厄介
目の前には異能力者を名乗る五人組。
まずは相手の能力を把握することからだよな…。
「一瞬で終わらせてあげるよ。」
僕が考え事をしていると、五人組が攻撃の構えを取る。
僕は、その場に立って相手の行動を観察する。
「全員やれ!」
五人組のリーダーらしい男の掛け声と供に五人組が一斉に僕を攻撃してきた。
右からは銃弾、前からは斬撃、左からは槍による刺突、更に一人は僕の背中側に回り込んで爆弾を仕掛けようとしているな。
そして、最後の一人は何かをため込んでいるな。
恐らくそのため込んでいるものが切り札のようなものだろう。
直感で敵の攻撃を予測し終えた僕は最小限の動きで敵の攻撃をかわそうとする。
しかし、久しぶりの生身の戦闘ということもあり、敵との距離感を見誤った僕は銃弾、斬撃、槍の刺突の全てを漏れなく全部くらった。
ぐはっ!ちょっ、待って!
僕が何とか態勢を整えようとした時、僕の背後で爆弾が爆発した。
ドーン!!
態勢が整ってなかった僕は爆弾によって綺麗に吹っ飛ばされ、コンテナに叩きつけられた。
ああ…そういや戦鬼に吹っ飛ばされた時もこのコンテナにぶつかったっけ。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない!
一年ぶりの戦いだからといってボコボコにされすぎだろ!
そう思って、僕が立ち上がって前を見ると、先ほど何かを溜め込んでいた男がお腹から小型ミサイルを出して、僕に向けていた。
「このサイズのものを出すのにも少し時間がかかっちまうな。だが、これでてめーは終わりだ。」
目の前の男はそう言って、僕めがけてミサイルを発射させた。
やばい!!
僕は横っ飛びでミサイルから逃げる。
しかし、ミサイルとコンテナの衝突により生まれた爆発に僕はきっちりと巻き込まれた。
さっきのとは別のコンテナに僕は叩きつけられた。
ドーン!!
コンテナに叩きつけられた僕の近くに五人組が集まる。
「なんだこいつ。ただの雑魚じゃねーか。」
「口ほどにもなかったわね。」
「まあ、無能力者なんてこんなもんでしょ。」
それぞれが僕が一年ぶりの生身の戦闘ということも知らずに好き勝手なことを言う。
くっそ、大分好き放題にやられてしまった。
だが、まだ全然戦える。
この一年の修行で耐久力を上げるトレーニングを取り入れたのは正解だった。
生身での戦闘勘も大分戻ってきた。
僕はゆっくりと立ち上がる。
「ん?なんだい?まだやるつもりなのかい?君と僕らの実力差はもう分かったんだと思うけどな?」
敵の一人がそう言ってくる。
油断している敵を倒すのはあまり気が進まないけど、まあ、いい。
教えてやろう、僕の一年間の積み重ねを。
僕は、僕を吹っ飛ばしたことをまだ誇らしげにしていて隙だらけのミサイル男に向かって急接近する。
男は突然近づいてきた僕に戸惑っていた。
一撃だ。
僕は男の腹に掌底を撃ち込んだ。
ろくに防御の構えもできていなかった男は白目をむいてその場に倒れた。
男が倒れたのを見た四人は一瞬言葉を失っていたが、それをやったのが僕だと判断するとすぐに臨戦態勢に入った。
その目は先ほどまでの僕を侮る目ではなく、僕を強者として警戒している目だった。
そうだ。
まだ立て直せる。むしろ、全力の攻撃を直にくらいながらも立ち上がってきて、「その程度か?」と言い放ち、敵を驚かせる強キャラに今ならなれる。
僕は自信を持って言い放った。
「その程度か?」
一瞬、静寂がその場を支配した。
そこで、僕は自信が犯した致命的な過ちに気付いた。
しまった。
言い終わってから気付いたけど、このセリフ攻撃を受けた直後に言うべきセリフだ。
一度、反撃した後に言うセリフじゃない…。
四人も僕が何を言っているのかよく分からないといった顔をしている。
くそ!こうなったらもうどうにでもなれ!
「お前らの力はその程度なのか、と聞いているんだ。その程度だと言うなら今度はこちらから行かせてもらうぞ。」
「え?いや、もう反撃s…ぐはっ!」
僕の発言に反論しようとしたやつに近づき掌底を腹に叩きこんだ。
「この程度なのか?もっと見せてみろ…お前たちの力をな。」
僕がそう言うと、残った三人は黙って僕に襲い掛かってきた。
右からの斬撃と、左から来る槍での刺突を避ける。
更に、避けた槍を掴む。
そして、そのまま腕を槍に変化させている異能力者を槍ごと振り回して、手を剣に変えている異能力者を倒す。
槍の異能力者は剣の異能力者を倒した後に地面に叩きつけて、両足に銃弾を撃ち込んで動けないようにした。
その時、僕の背後から銃弾が迫ってくるが、パーフェクト・ゾーンの前には背後からの攻撃は意味をなさない。
僕はその銃弾を躱すと、残り一人になった男に向かい合った。
男はもう戦意喪失しているのか、銃に変えた手を震わせていた。
「さて、お前にはいくつか聞きたいことがある。」
「く、くそ!なんなんだよ、お前!無能力者じゃないのかよ!」
「僕は無能力者だ。だが、今はそんなことはどうでもいいんだ。僕の質問に答えろ。」
「お前さえ、お前さえいなければ僕たちは…!!くそ!」
どうしよう…全く話を聞いてくれない。
「お前にやられて政府に捕まるくらいならここで自殺してやるさ…!もちろん、お前も一緒にな!」
そう言って、目の前の男は服の中から手榴弾を取り出し、それを起爆させようとする。
しかし、それよりも早くその行動を直感により察知した僕はそいつに掌底を叩きこみ気絶させた。
あ…。
聞きたいこと聞けなかった…。
とりあえず、僕はワイヤーで五人を縛って五人の誰かが目を覚ますのを待つことにした。
暫くして、僕が一番最初に気絶させた男が目を覚ました。
「んあ。くっ!なんだこれ?一体どうなってやがる?」
「おはよう。気分はどうだい?」
僕は男にとりあえず挨拶した。
「てめえは!…くそ。そういうことかよ…。」
どうやら男は僕を見て状況を察知したようだった。
状況が把握できているなら話は早い。
早速聞きたいことについて聞かせてもらおう。
「少し聞きたいことがあるんだが質問に答えてもらっていいか?」
「あん?なんで俺がてめえの言うことを聞かないといk…ゲボァ!?」
男は突然腹パンを食らい、胃袋の中にあったものを吐き出していた。
「次断ったら、もう一発殴る。もしお前が気を失ったら海に落としてでも意識を取り戻させる。お前が僕の質問に答えるまでやり続ける。」
僕がそう言うと、男は顔を青くさせた。
「わ、分かった!質問には答える!だから、もうやめてくれ…。」
「いいだろう。」
僕がそう言って拳を降ろすと、男は安どのため息をはいた。
「じゃあ、まずは一つ目の質問なんだけど、お前らはリバーシの一員で誰かに命令されて僕らを襲ったってことでいいんだよな?」
「ああ。そうだ。お前らが今日この港に現れるだろうから襲撃しろって命令だった。」
「それは誰に言われたんだ?」
「知らねえ。」
僕がすっと拳を見せる。
「ほ、本当に知らねえんだ!突然、差出人不詳のメールが来て指令だけが書いてあったんだ!」
ふむ、どうやら本当らしいな。
てことは、F.Cの内部のリバーシとつながっている人がいるかもしれないな…。
「次の質問だ。お前らの異能力は、もしかして武器の異能力に近いものなんじゃないか?」
僕が本当に気になっていてのはこの部分だ。
こいつらが使っていた異能は、どれも自身の身体を何らかの武器に変えるという武器の異能力の下位互換のようなものだった。
「これは、贋鬼様から授かった力だ…。俺も詳しいことは分からねえから何とも言えねえ。」
「贋鬼?そいつは誰だ?」
「贋鬼様は、リバーシの最強の八人の異能力者、八鬼神の一人だ。」
八鬼神、か。聞いたことはある気がするな。
今度、おじいさんにでも聞いてみよう。
「その贋鬼から力を授かったといったな、お前は元々は無能力者だったのか?」
「ああ、そうだ。あの方は俺たちみたいな無能力者に力をくださった。短い時間だったが異能力者としての時間は楽しかったぜ。」
男が語った話はにわかには信じがたい話だった。
無能力者を異能力者にできる異能が存在する、ということか?
そんな異能が存在したか…?
いや、一つだけあった。
小さい頃に見た異能図鑑に載っていた「模倣の異能」。
あの異能がもし、異能力でさえコピーできるのであれば可能かもしれない。
それなら、僕が倒した五人組の異能が武器の異能に似ていたことにも説明がつく。
僕の頬に冷や汗が垂れる。
「ははは。気付いたみたいだな。贋鬼様の異能力のやばさに。今、俺たちリバーシはもの凄い勢いで異能力者を増やしている。更に、世の中には異能力者に憧れる無能力者なんてたくさんいるからな。リバーシの勢力は急激に拡大してるぜ。お前も無能力者なら俺らの仲間にならねえか?」
男が僕を誘ってくる。
「断る。」
異能適性診断を受けた直後の僕なら、もしかしたら誘いに乗っていたかもしれない。
だが、今の僕に異能力なんて必要ない。
「一つ、教えておこう。僕はシン、最強の無能力者だ。僕に異能力は必要ない。」
パチパチパチ。
夜の港に拍手の音が広がった。
僕が拍手の音がした方を向くと、そこにはチェックのシャツをジーンズにきっちり入れ、ポスターなどが入った大きなリュックを背負った男がコンテナの上に座っていた。
「んー!かっこいいね~。無能力でありながら異能力者たちに抗おうとするその姿!まるで物語の主人公だ!!君は紛れもない本物だね。」
全然気づかなかった。
突然現れた謎の男に僕は警戒した。
「お前は誰だ?」
「僕かい?僕は贋鬼。さっき、そこの偽物が話していた存在さ。」
僕の前に現れたのは、先ほど名前があがった贋鬼だった。
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