学園襲撃編

第23話 高一の冬

 時の流れというのは早いもので、戦鬼と戦った日からもうすぐ一年がたつ。


この一年はとにかく自分を鍛えた。おじいさんとF.Cの研究員である有本さんの手伝いのもと戦闘経験はかなり積むことが出来たと思う。


もちろん、筋トレやランニングなどをして基礎体力を向上させることも忘れなかった。


今の僕は一年前と比べると天と地の差がある。そう思えるくらいには強くなっていた。


「一年か……。」


高校の屋上の上でそう呟いた。


「一年かー。懐かしいな、そういえば一年前、リバーシが復活したって話したっけ?まあ、結局一年間何もなかったけどな。」


隣にいた速水がそう声をかけてくる。


「なんだよ。速水はあの話は嘘だったって思ってるのか?」


「いや、本当だって思ってるよ。だからこそ怪しくないか?白銀学園では異能力者を集めた合同訓練が行われているらしいし、俺はここから何かが始まると思ってるぜ。」


相変わらずこいつの情報収集能力と考えはすごいな。


「まあ、そうかもな。」


深追いされるのも困るので、僕は適当に返事をした。


「適当だなー。まあ、無能力者の俺らにはそんなに関係のない話か。」


「僕もそう思うよ。寒くなってきたしそろそろ教室に戻るか。」


そう言って、僕は屋上から出ようとする。


「ああ、そうだ。一年前で思い出したけど、また隣町の港に怪しい船が停泊してたみたいだぜ。」


屋上から出ようとする僕に向かって、速水はそう言った。


「そうなんだ。」


僕はそう言って屋上をあとにした。






その日の放課後、僕はいつも通りF.Cの戦闘訓練室に向かっていた。


戦闘訓練室に入ると、おじいさんと有本さんが何かを話し込んでいた。


「こんにちは。何をやってるんですか?」


僕は挨拶をして、会話に混ざっていった。


「おお、シン君。いやな、最近隣町の港に謎の船が停泊しているという情報を入手したから調査を行おうかという話をしていたんだ。」


おじいさんが僕の質問に答えてくれた。


「それって、もしかしてリバーシですか?」


「いや、それはまだ分からないが時期的に考えても可能性は十分にある。」


「そこで調査をしようってなったんだ。」


おじいさんと有本さんがそう言った。


「なるほど。そうなんですね。」


「ああ。シン君、すまないがその調査を手伝ってもらっていいか?」


おじいさんが僕に向かってそう言ってきた。


「いいですよ。それに、おじいさんのお願いはできるだけ聞く約束ですからね。」


「ありがとう。すまんが頼むよ。また、夜になったら迎えをよこすからそのまま現場に向かってくれ。」


「はい。」


おじいさんのお願いを了承した後、有本さんに何かの機械を渡された。


「有本さん、これは…?」


「これは超高性能の小型カメラだよ。これを持って行って欲しいんだ。できたらリバーシの異能力者と交戦してくれると一番嬉しいね。」


有本さんはどこまでも研究熱心だった。


「あの…。調査なんで交戦することはないと思うんですけど…。」


「え?でも、シン君は一年前に調査と言いながら交戦してたじゃないか。今回もどうせそんな感じになるだろうから、よろしく頼むよ。」


この人は人の神経を逆なでするような喋り方しかできないのだろうか。


「分かりました。」


僕がそう言うと、有本さんは嬉しそうに笑った。


「いやー!助かるよ!それじゃ、今日も元気に戦闘訓練やってみようか。」


「はい。」


こうして、僕が一年越しに隣町の港に調査に行くことが決まったのだった。






そして夜がきた。


両親にランニングをしてくると言って、僕は駅でF.Cからの迎えを待っていた。


しばらくすると迎えがきて、僕らは現場に向かった。



車内には一年前の時にいた人たちと同じ人たちがいた。


「お久しぶりです。今日もよろしくお願いします。」


僕はそう言って挨拶した。


一年前と同じく、黙って親指を立てるだけかと思ったが、一年前とは違いリーダー格のような人が話しかけてきた。


「一年ぶりか…。我々は一年前、君のことをあまり良くは思っていなかった。無能力者の中三が夢に憧れて無謀なことをしていると思ったからだ。」


え?喋っていいの?


てっきり、無口キャラだと思っていた人は割と饒舌に続きを話す。


「だが、違った。君は勇気と力をもった勇敢な少年だった。君と美月お嬢様は知らないかもしれないが、あの時君のスーツには小型カメラが仕込まれていたらしい。まあ、我々がそれを知ったのはあの事件の三日後だったがね。」


まじで?


じゃあ、僕が無様に敵に負けた瞬間をこの人たちに見られてるの?


「君が戦鬼とかいう男と戦う映像は我々にとってとても衝撃的だった。それと同時に恥ずかしく思った。私たちはあの時何をしていたんだろう。と。今回の調査は我々も同行する。あの時のようなことは絶対にもう起こらせない。君を…一人で戦わせたりはしない。」


リーダー格の人はそう言うと、再び黙り込んでしまった。



え?


あの時の負け姿はそんなに無様だったの?


僕を一人で戦わせたらまた無様に負けるって心配されてるの?


くっ!悔しい!


こうなったら今回の調査で僕が一人でも大丈夫だってことを証明しなくちゃな。



僕は心の中で今回の調査で自分の力を証明すると決めたのだった。





そして、現場に着いた。


リーダー格の人の指示で三人一組の班が三つ作られた。


そして、僕はその中の一つに配属されていた。


「それでは、30分後にまたここで。」


リーダーの人がそう言って、各班ごとにそれぞれ行動を開始した。



「我々の班はコンテナ付近の調査だ。行くぞ。」


僕の班には車内で少し会話をしたリーダーの人がいて、その人の指示に従って行動することになった。


一年前、戦鬼と戦ったコンテナ付近で調査をして10分程度の時間が過ぎたが、特に収穫はなかった。


「ここには何もなさそうだな…。次のポイントに移動しよう。」


リーダーの人がそう言って、移動しようとしたその時だった。



「ぐあっ!」


突然、もう一人の班員が何者かに撃たれた。


「大丈夫か!?」


リーダーがすぐに撃たれた班員のもとへ向かう。


僕はリーダーと班員を守る様にして、臨戦態勢に入る。



右から銃弾。


パーフェクト・ゾーンに入ることで次に何が起きるか予測した僕は、向かってくる銃弾を弾いた。


すると、コンテナの裏から一人の男が現れた。


「へ~。僕の攻撃を弾くなんて中々やるじゃん。君は何の異能力者なんだい?」


男は三対一という状況にも関わらず、余裕そうな態度でそう言った。


「僕は無能力者だ。」


僕はその男に向かってはっきりとそう言った。


「え…?じゃあ、その後ろの三人は?」


「彼らも無能力者だ。」


僕がそう言うと、目の前の男は突然笑い出した。


「…はは、ははははは!!あー、ごめんね?急に笑っちゃったりしてさ。でも、無能力者が三人って今日の仕事は簡単だなぁ。」


どうやら、目の前の男は僕らのことを馬鹿にしているらしい。


僕の後ろにいるリーダーと撃たれた班員の様子をちらっと見る。


どうやら撃たれた班員は無事なようで撃たれた部位を痛そうにはしているものの動くことはできるようだ。


そして、リーダーは無線で仲間と連絡を取っているようだが…様子がおかしい。


「お、おい!どうしたんだ!?返事をしてくれ!」


リーダーの声は目の前の男にも聞こえたようで、男は取り乱しているリーダーを見ると口元をニヤつかせながら話しかけてきた。


「どうやら、他の奴らはみんな戦闘を始めたみたいだね。君たちの仲間は今頃、僕の仲間にボコボコにされているんじゃない?」


「な、なんだと!?我々は対異能力者を想定した特殊部隊だぞ!例え異能力者が相手でもそう簡単にはやられたりはしないはずだ!」


リーダーがそう言うが、目の前の男は心底おかしそうに笑っている。


「それじゃ、その異能力者が複数人いても勝てるのかい?」


どういうことだ?


僕がそう言おうとした時、目の前の男の隣に4人の男女が現れた。


「こっちは全部終わったよー。」


「楽勝だったな。」


「だな。」


「えー?こっち全然終わってないじゃん。早くやっちゃいなよ?」


突然、現れた四人にリーダーは驚きを隠せないようだった。


「な、なんなんだお前らは!?」


リーダーがそう聞いた。


「ん?僕らかい?僕らは贋鬼様の力を借り、異能力を手に入れたものたちさ。まあ、異能力者だと思ってくれていいよ。」


目の前に現れた異能力者を名乗る5人は余裕そうにこちらを見ている。


「く、くそ!」


リーダーが銃を構えて撃とうとするが、遅い。


リーダーが銃を撃つより早く敵の手から放たれた銃弾がリーダーたちを捉えようとしたその時、僕はその銃弾を一つ残らず弾き飛ばした。


「ひゅう。やるじゃん。」


銃弾を放ったであろう男がそう言った。


「リーダー、一度撤退して増援を呼んできてください。」


僕は呆然としているリーダーにそう言った。


「だ、だが!君はどうするんだ!?」


リーダーが僕に向かってそう言ってくる。


「どうせ、誰かが残らなくてはいけません。僕は負けはしましたが戦鬼という異能力者と戦った経験があります。ここは僕が残るのが一番いい。」


「く!すまない…。すぐに増援を呼んでくる。」


不本意ながらも納得してくれたのだろう。


リーダーは悔しそうに唇を噛み締めながらも、もう一人の班員を連れてその場を立ち去ってくれた。



「おいおい、僕らがそれを許すと思っているのかい?」


そう言って、異能力者を名乗る五人組のうち三人が逃げようとするリーダーたちを襲おうとする。


まあ、そうなるような気はしていたよ。


僕は目の前の五人組の視界を遮るように煙玉で煙幕を張ると、リーダーたちを襲おうとした三人の居場所に直感であたりをつけて、そいつらを蹴り飛ばした。



「くそ、厄介なことをしてくれるね。」


五人組の一人が悔しそうにつぶやいた。



そして煙幕がはれ、目の前にさっき僕が蹴り飛ばした三人を含む五人組が立っていた。


「いたたた、絶対に許さないからねー。」


「さっきは油断したが、次はこうはいかない。」


「だな。」


「二人も逃がされちゃうなんてびっくりだよね。」


「無能力者一人で僕らを足止めするって?舐めるなよ、この雑魚が!」



異能力者を名乗る五人組は、どうやら全力で僕を倒すつもりらしい。


まあ、丁度いい。


僕もお前ら程度の奴らを相手にして、実践感覚を掴みたかったところだ。



「それはやってみないと分からないさ。さあ!始めようか!」



シンの物語が一年越しに再開された。

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