第22話 幕間Ⅵ

<修行>


 ある休日の昼下がり、僕はF.CのVRルームで異能力者たちとの仮想戦闘を行っていた。


金富さんのおじいさんが過去のツテを当たってくれたこともあり、VR内での僕の目の前には各国の異能力者の戦闘データをもとに作られたNPC(ノンプレイヤーキャラクター)たちがいた。


僕が一歩目を踏み出した直後、前方から炎、水、雷撃が飛んできた。


それを間一髪で回避するものの、地面が突然盛り上がって僕を捉えようとしてくる。


僕は上空へと飛んでそれを躱した。


しかし、それが悪手だったことにすぐ気づいた。


地面からは、空中で一瞬動きが取れなくなった僕をめがけて大量の炎と水と雷撃が襲ってきていた。


ああ…。


僕の目の前にゲームオーバーの文字が広がる。



「いやー、残念だったねー。」


そう言って、僕に話しかけてくるのはF.Cの研究員の有本探ありもと さぐるさんだ。


シンのコスチュームや武器を考えてくれたのはこの人で、今回の戦闘訓練に関しても金富さんのおじいさんと供にシンのレベルアップに協力してくれている。


「いや、さすがに炎と水と雷と土の異能力者を同時に相手にするのは難しすぎますよ。」


「おや?最強の無能力者であるシン君がそんなことを言うのかい?そんなんでリバーシの異能力者に勝てるのかい?」


「そんな挑発に僕は乗りませんよ。とにかく、まずは異能力者と一対一でやらせてください。」


有本さんが僕を煽ってくるが無駄だ。


優理との会話で僕の煽られ耐性は上がっている。今の僕はそんな挑発に乗ったりはしない。


「ふーん。シン君は強キャラになりたいって言ってる割に、やってることは強くなさそうだよね。」


ああん!?


僕は聞き捨てならないと思って、有本さんの方を振り向く。


「だってそうでしょ?強キャラの修行って言ったら、見てる人たちが少し引くくらいのことをやるもんでしょ?まあ、いいんだ。だって、シン君は敵に見逃されちゃう程度の強キャラだもんね。」


そう言って、有本さんは僕の肩にポンと手を置いた。



「上等だ!おらぁ!!異能力者だろうがなんだろうが何人でもかかってこいやぁ!!!」


「そうかそうか!さすがはシン君!それじゃ、次はさっき会長から貰った風と転移の異能力者のデータも加えてやってみようか!」


「おうよぉ!!」


自分のキャラを見失ってしまうほど逆上した僕は、そのあとスタートの合図と同時に転移の異能力者に捉えられ、大量の攻撃にさらされるのであった。


あああああああ!!


僕がやられる様子を見てケラケラと笑う有本さんを絶対に殴ると僕は心に誓うのであった。





***

<進路>


「なあ、心。お前は進路どうすんの?」


中学の三年の三学期が始まった1月の昼休み、速水と教室のストーブの前で温まっていると速水が突然そんなことを聞いてきた。


「僕は近くの平凡高校に行くつもりだよ。」


「え?そうなのか?心は頭がいいから、もっと頭のいい進学校に行くと思っていたぜ。」


そう。こう見えて僕の成績はかなりいい。


「家から近いからな。あと、速水もいるしな。」


友達の少ない僕にとって速水といういろんな情報をくれる友人は貴重である。


「心…。嬉しいぜ!俺はてっきり心は俺のことなんてどうでもいいと思っていると思ってたからな!」


そう言って速水は僕に肩を組んできた。


「ちょ、ウザイ…離れろよ…。」


僕はそう言って速水を引き離そうとする。


しかし、速水はそんなことはお構いなしに僕の手を取って天につきあげる。


「よーし!二人で平凡高校に合格するぞ!エイエイオー!!」


なんだこいつ…。


ただ、不思議と悪い気はしなかったのだった。



その時、背後から不穏な気配を感じたが知らないふりをした。


将来、僕はこの選択を後悔することになるのだが…それはまた別の話。



<一部の女子たち>


「今日、教室内で速水君と田中君が見せつけるかのようにイチャイチャしていたわ。」


「え!?公然の前でハヤ×タナが!?」


「嘘でしょ!?教室にいればよかった…。」


「私はタナ×ハヤ派なんだけど、見たかったなぁ…。」


「落ち着きなさい。そして、ここからが本題なんだけどあの二人は平凡高校へ行くそうよ。」


「「「え!?本当!?」」」


「間違いないわ。」


「やったわ!私も平凡高校なら行ける!」


「うう…。私、ちょっと厳しいかも…。」


「私も勉強教えるからがんばろ?これからもあの二人を見守ろ?」


「私も手伝うわ。」「私も!」


「みんな…。ありがとう!私、頑張ってみるよ!!」



この日、進路希望調査票を提出する女子に平凡高校と書く人が増えたとか、増えなかったとか…。





***


<作戦会議>

***

 うす暗い部屋に8人の人が集まって会議をしていた。


「よし、全員大体の流れは確認できたかの?」


最年長の邪鬼とよばれるおじいさんによる説明が終わったようだ。


「大丈夫だ、じーさん。それより、早くやろうぜ。俺はこのために来たんだ。」


戦鬼と呼ばれている男が邪鬼を急かすようにそう言った。


「そうじゃの。じゃあ、早速始めようか。」


「班決めを!!」



話し合いを聞くに、この8人は日本、アメリカ、ロシアの三ヶ国にそれぞれ分かれて仕事をしなくてはいけならしい。


どうやら、今からその班決めを行うようだ。


「とりあえず俺は日本に行かせてもらうぜ。」


戦鬼が真っ先にそう言った。


「何言ってるの?公平にジャンケンで班は決める約束でしょ?全員、日本に行きたいんだから。」


「…あたりまえ。」


淫鬼と呼ばれている女性と雪鬼と呼ばれている女の子が戦鬼に言い返す。


「僕も日本が良いから、戦鬼君の意見には賛同できないね!」


「…。」


贋鬼と呼ばれている男も反対し、陰鬼とかいう人物も首を振って戦鬼の考えを否定する。


「ひひっ、僕は日本じゃなくていいよ。」


どうやら厄鬼という男は日本じゃなくていいようだ。


「なんだてめえら!揃いもそろって日本って、そんなに行きたい理由があるのかよ!?」


戦鬼がそう吠える。



「当然でしょう?私に魅了されてる日本の下僕が唯一正常になるのがメイド服に関するときなのよ。私が魅力でジャパニーズメイドに負けてるとは思わないけど、一度は目にしておきたいわ。それに美容に良いものがたくさんあると聞いたしね。」


どうやら、淫鬼はメイドに興味があるらしい。


「…日本はフリピュアの聖地だから。」


雪鬼は日本の朝にやってる女児向けアニメが好きなようだ。


「日本の女性には多くの百合の文化が根付いているからね!行かない手はないよ!!」


贋鬼は百合?とかいうものに興味があるらしかった。


「…シノビ…陰に潜み敵を屠るもの。…憧れ。」


陰鬼は忍に憧れているみたいだ。


「儂は、温泉かのぅ。日本には有名な温泉が多いらしいからの。一度は行ってみたいわい。」


どうやら邪鬼も日本に行きたいようだ。


「ち、ちょっと待てや!お前ら全員ふざけた理由じゃねえか!」


戦鬼が声を荒げる。


「私にとっては重要な用事なんだけど?」


「…フリピュアを馬鹿にするのは許せない。」


「百合の良さを教えてあげた方がいいみたいだね?」


「…。」


邪鬼を除く4人が戦鬼に向けて攻撃の構えを取る。


「じゃあ、戦鬼よ。お主にはたいそうな理由があるのか?」


邪鬼がそう聞いた。


「あ?当たり前だろ。俺はお前らとは違うんだからよ。」


ビキッ


攻撃の構えを取っている4人の額に軽く血管が浮かび上がった。


「ほう…それはなんじゃ?」


邪鬼が代表してそう聞いた。


「シンとの戦闘だよ。ライバルとの戦い。これが俺の理由だ!」


戦鬼は自慢げにそう言った。


「なによそれ!そっちの方がどうでもいいじゃない!」


「…んだとオラァ!!」


そう言って、戦鬼が戦闘態勢に入る。


「どうやら話し合いでの解決は無理そうじゃの…。」


邪鬼も臨戦態勢に入る。


そして、剛鬼という男も攻撃の構えをとった。


「なんだよ剛鬼?てめえも参加すんのかよ?」


「ああ。」


戦鬼の問いかけに剛鬼は小さく頷く。


「しゃあ!行くぞ!!」


その場にいる疫鬼を除く全員が集中する。




「「「「「「「ジャンケン…」」」」」」」


「「「「「「「ポイッ!!」」」」」」」



「しゃああああ!!!」


「やったわ!!」


「ん~!!やったね!!」


どうやらジャンケンの結果、戦鬼、淫鬼、贋鬼が日本に行くことが決まったようだ。



「ねえ。」


「なんだ疫鬼。」


「何でジャンケンしてるの?明らかに戦う流れだったじゃん。」


「何言ってるのよ疫鬼。最初に言ってたじゃない、ジャンケンで決める約束だって。それよりあなたの方こそ、キャラが壊れているわよ?大丈夫?」


「ええ…?僕がおかしいの…?」


疫鬼は頭を抱え込んでいた。


「そういえば、剛鬼よ。なんでお主は日本に行きたかったんじゃ?」


邪鬼が剛鬼にそう聞いた。


剛鬼は頬を少し赤らめてから言った。


「実は…俺はシンという男のことが気になっているんだ…。」


「え?それって…。」


どうやら察しの良い淫鬼は気付いたようだ。


「俺はシンのことを……。」


***



ハア!!!


布団から起き上がるとそこは僕の部屋だった。


さっきの夢は何だったんだ…。


てか、戦鬼と剛鬼がいたような気がする。


それで、剛鬼は僕のことが気になってるって……。


「心ー!ご飯よー!!」


「は、はーい!」


うん!朝ごはんを食べよう!僕は何も知らない!!


所詮、夢だしね!


僕は嫌な予感を振り切って、朝ごはんを食べに行くのであった。


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