第21話 幕間Ⅴ (優理視点)

金富さんに連れられて私は神崎君と轟さんの試合を観戦するために闘技場のスタンドに来ていた。


スタンドには私たち以外にも、白銀学園の生徒と思われる人たちがいた。


「始まるわよ。」


金富さんの言葉を聞き、私は闘技場に意識を向けた。


闘技場では神崎君と轟さんが向かい合っており、戦闘開始の合図を待っていた。


ビー!




戦闘開始を告げるブザーが鳴り響く。


それと同時に神崎君が轟さんに向かっていった。


神崎君の攻撃を轟さんは余裕をもって受け流す。


その時、スタンドから神崎君に声援が送られる。


「「「神崎君!頑張れー!!」」」


あれは…神崎君と仲の良い女の子たちだろうか。


その時、声援を受けた神崎君の動きが先ほどとは見違えるくらいに早くなった。


「なるほど…これが絆の異能の力なのね…。」


金富さんがそう呟いた。


あれが…神崎君の異能…。


私が神崎君の異能に関心していると、轟さんが神崎君を蹴り飛ばした。


「「「キャー!!!」」」


神崎君を応援している女の子たちの悲鳴が聞こえる。



「なんやわれ、舐めとんか?そろそろ本気だせや。」


轟さんがそう言うのが聞こえた。


え?まだ本気じゃなかったの?


私が轟さんの発言に驚いていると、神崎君が起き上がった。


「ばれていましたか…。」


「当たり前や。」


「なら、遠慮なく全力で行かせてもらいます。皆!俺に力を貸してくれ!」


神崎君がそう言うと、神崎君の身体が淡く輝きだした。



「行きます。」


そう言って、神崎君がさっきまでとは比べ物にならないスピードで動き出す。


その動きの速さには流石の轟さんでも対応しきれないようで、神崎君のパンチを直にくらって吹っ飛んでいった。


「「「キャー!!光君ステキー!!!」」」


スタンドから黄色い歓声があがる。


「どうだ!これが俺の力だ!」


神崎君はすっかり勝った気でいた。



「神崎君…凄い…。」


私がそう呟いた時、金富さんが無線で誰かと話していた。


「うん。大体データは取れたわ。轟君、そろそろ本気でやっていいわよ。」


「あ、あの?金富さん。本気でやっていいって…?」


金富さんの発言が気になった私はそう質問した。


「ああ。まあ、見てれば分かるわ。目を凝らしてよく見ておきなさい。決着は一瞬で着くと思うから。」


そう言われた私は再び闘技場に意識を向けた。



闘技場では立ち上がった轟さんと神崎君が会話をしていた。


「流石に、さっきの一撃では倒れていませんでしたか。ですが、次で決めてみせます。」


神崎君はそう言って攻撃の構えをとる。


対する轟さんは余裕そうだった。


「そーか。ほな、わいも許可がでたことやし、本気出させてもらおか。」


「ふっ。それは楽しみです…ね!」


神崎君が轟さんに走り出そうとした瞬間だった。



「え?」



気付けば轟さんは神崎君の後ろに立っていて、神崎君は静かに床に倒れていった。




「「「いやー!光君起き上がってー!!」」」


スタンドから声援が送られるが神崎君が起き上がる気配はなかった。


私は何が起こったのか分からず、隣の金富さんに何が起きたのか聞いた。


「金富さん。あの、一体何が起きたんですか?」


「轟君の異能力は知ってる?」


「はい、雷の異能ですよね。」


「そう。雷の主電撃が地上に落ちるスピードはおよそ光の速さの三分の一と言われているわ。ここまで言われればもう分かるかもしれないけど、轟君はその雷の速さに近いスピードで動くことが出来るわ。」


「そんな…それじゃ、触れるどころか視界に捉えることもできないんじゃないですか?」


「ええ。そうね。だから神崎君は轟君を捉えることが出来ずに、恐らく轟君の一撃を受けて気絶しているわ。」


「そんなの…最強じゃないですか…。」


私は思わずそう言った。



「それが、意外にそうでもないのよね。まあ、詳しい話はいずれ教えていくわ。さて、それじゃ次は聖園さん。貴方の出番よ。」


そして、金富さんは私を連れて闘技場へと向かっていった。



私はふと疑問に思ったことを聞いた。


「あの、私の戦闘相手は轟さんなんですか?」


「ああ、それはね…。」


金富さんが喋ろうとした時、轟さんがこちらに話しかけてきた。



「お!聖園ちゃんは今からか?」


「は、はい。」


「そーか、気いつけえや。美月さんは俺より強いさかいな。」


「え?」


「ほな、わいはゆっくり美雷の訓練の様子でも見てくるわ。」



そう言って、轟さんはその場を立ち去った。


私は轟さんの発言が気になって金富さんの方を向いた。


「改めて自己紹介した方がよさそうね。私が今回の聖園さんの戦闘相手を担当する日本の序列2位の異能力者、金富美月よ。ちなみに轟君は3位よ。今日はよろしくね?」


「は、はい…。」


拝啓 心君


お元気ですか?

私は…早くも逃げたくなってきました。






時間とは無情なもので気付けば私は闘技場にいて、目の前には金富さんがいた。


「そんなに硬くならないで、聖園さん。貴方の全力を見せてくれたらいいわ。」


「分かりました。全力で行かせてもらいます。」


そして、試合開始のブザーがなった。



いつかはこうなる日がくると思っていた。


どうしても誰かと戦わなくてはいけない時、治癒の異能が直接的には役に立たない時。


そんな時、どうすれば良いか?


私は考えた。心くんにも相談した。


その結果見つけた。


私の治癒の異能は常に傷ついた私の身体の細胞を修復している。


だったら…私の身体は人間の身体が耐えられない動きも私の身体を治癒し続けることで、できるようになる!


私は常人にはできない動きで金富さんに近づく。


「…!」


私の動きに金富さんは驚いているようだった。


完全に不意は付けた。


私は金富さんのお腹にパンチをくらわせた。


しかし、ダメージを受けたのは私の手のほうだった。


「いっつ…!」


私は急いで距離を置いて、手を治癒する。


金富さんは私のさっきの動きについて分析していた。


「なるほどね…。身体を治癒し続けることで人間では耐えられない動きを可能にしたわけね…。うん。予想以上よ。さあ、もっと貴方の力を見せて頂戴。」


そう言った、金富さんの身体の周りには金色の物体が浮いていた。


あれは…金?


そうか。


金富さんは金の異能力者だから、あの金を操って攻撃を防いでいたんだ。


正直に言うと、初手が防がれた時点で私の負けは確定していた。


今の私にこれ以外の戦闘手段なんてないからだ。


それでも…見てて心君。


大切な人を思い浮かべれば自然と足は前に出た。



「行きます!」


そう言って、私は再度金富さんに攻撃を仕掛ける。


蹴り、ダメ。投げ技、ダメ。掌底での内部破壊、ダメ…。


心くんがメールで教えてくれた掌底も効かないなんて…。


私は文字通り最後の切り札を切った。


金富さんに近づき、投げ技で床に倒れさす。


そして、私は美月さんに関節技を仕掛けた。


「くっ…!これは…!?」


美月さんが今までとは違う攻撃に戸惑っているようだ。


これなら…!


私が希望を見出したその時…



「着眼点は悪くないわ。でも、まだまだ甘いわね。」


次の瞬間、私の身体に金が巻き付き私は拘束されていた。




「う、動けない…。降参です…。」


私が降参を告げると、金による拘束は解かれた。



「あの、どうでしたか?」


私は戦闘についての評価を金富さんに聞いた。


「正直、予想以上よ。最後まで諦めなかったということも非常に評価できるわ。誰かから戦い方は教わったのかしら?」


「私の幼馴染がそういった戦い方とかに少し詳しくて、教えてもらったんです。」


「そうなのね。その幼馴染も異能力者なの?」


金富さんは興味深そうにそう聞いてきた。


「いいえ。でも、彼は無能力でも私たちと一緒に戦うと言ってくれました。だから、私は強くなりたいんです。」


「なら、頑張らなきゃね。その幼馴染の子は強いのね…。」


金富さんは少し寂しそうな顔でそう言った。


ただ、心君を褒められたことが嬉しかった私はそのことをあまり気にしなかった。



「はい!心くんは私の自慢の幼馴染です!」


私がそう言うと金富さんは少し目を見開いた後、小さな声で何かを呟いていた。


「心…君…?しかも…無能力って…。いや、まさか…ね…。」


「あ、あの!聖園さん少し聞きたいことがあr……『金富さん、金富美月さん。轟雷雅君が原石の訓練所で不審な動きをしているという報告がありました。至急、回収に向かってください。』はあ、あのバカ…。ごめんなさい、聖園さん。今日はこれで訓練はお終いよ。また明日からよろしくね。」



闘技場に響いたアナウンスを聞いて、金富さんは走り去っていった。


結局、金富さんは何が聞きたかったんだろう?


まあ、いっか。


とにかく、これから頑張らないとね。


心君、私頑張るよ。


私は心君から貰ったロケットペンダントを握りしめてそう誓った。





この時、きっちり金富さんと話しとけばよかったと後悔することになるのだけど、それはまだ先の話。

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