第20話 幕間Ⅳ (優理視点)

冬が終わり、春が来た。


私こと、聖園優理は高校一年生になっていた。


初めのうちは白銀学園の皆と仲良くなれるか不安だったけど、今では友達もたくさんできて楽しい毎日をおくることができている。


唯一気になることがあるとすれば心君に送ったメールの返信が遅いことだ。


心くんったら、一週間は返信返してこないんだから。


私がどんな気持ちでいるかも知らずに…。


心くんに対して少しイライラしてると、後ろから抱きしめられた。


「優理!もー、またそんな怖い顔して~。また、心くんって子のこと考えとったん?」


そう言って私に声をかけたのは轟美雷とどろき みらいという女の子だ。


彼女は白銀学園で初めて私が仲良くなった子で、雷の異能力の原石である。お兄さんが白銀学園の三年生で現役の雷の異能力者であることからお兄ちゃんを追いかけて白銀学園に入ったらしい。本人曰く、兄と愛し合っているらしい…。


「ねー?話聞いてるん?」


そう言って、美雷は私の頬をつついてくる。


「ごめん、ごめん。ちゃんと聞いてるから一旦離れて。」


「んー。まあ、しゃあないな。ところで、まーた心っていう子のこと考えとったん?」


「ま、まあ、少しね。」


「そんな全然メールの返信してこんやつなんてほっといたらええねん。うちの兄貴なら、私がメール送ったらすぐに返信返してくれるで。」


「で、でも、心くんにも何か事情があるかもしれないしね。」


「まあ、優理がそれでええなら別にええんやけどな。」


美雷はまだ少し不服そうだったけど、大人しく引いてくれた。


そのあと、美雷と二人で教室まで歩いていると前から来た神崎君に挨拶された。


「やあ、優理、それに美雷。」


「おはよう、神崎君。」


「おはよう。」


私と美雷が挨拶を返す。


「二人とも元気そうで何よりだよ。でも、優理。俺のことは光でいいよって前から言ってるじゃないか。そろそろ光って呼んでくれてもいいんじゃないかな?」


神崎君は白銀学園に来てから、私に積極的に話しかけてくるようになった。


その中で、私は神崎君に名前で呼ぶようにお願いされていたのだった。


「前にも言ったけど、あまり男の人は下の名前で呼ばないようにしてるんだ。だから、ごめんね?」


私は以前から言っていることを今日も神崎君に言った。


「だが、田中のことは下の名前で呼んでいるんだろう?なら、俺のことも下の名前でいいと思うんだけど…。」


ただ、今日の神崎君は珍しく私に更に迫ってきた。


「そ、それは…。」


「あー、なんかめっちゃトイレ行きたなってきたわ。優理、着いてきて。」


私が神崎君への返答に困っていると、美雷ちゃんがそう言って私を連れだしてくれた。


「あっ。優理!」


後ろで神崎君が何か言ったような気がしたけど、気にせずに女子トイレに向かう。


「ごめん、美雷ちゃん。助かった。ありがとね。」


私は美雷ちゃんにお礼を言った。


「ええよ、ええよ。事実、神崎のやつもしつこかったしな。それよりも、今日から異能力者合同訓練に優理も参加するんやろ?」


そう聞いてくる美雷ちゃんの目は輝いていた。


「うん。」


「はあ~。ええなあ。私ら原石組は別の場所で戦闘訓練やからなあ。」


美雷ちゃんは心底羨ましそうにそう言った。


「美雷ちゃんがそんなに異能力者合同訓練に参加したがるのって、やっぱりお兄さんがいるから?」


「当たり前やろ。戦ってるとこは危ないからって言って、兄貴はあんまり見せてくれんからこういうとこでしか見れんのや。なあ、優理。こっそり兄貴の戦闘の様子を動画で撮ってくれたりとか……。」


美雷ちゃんが期待に満ちた眼差しをこちらに向けてくる。だが…


「ダメだよ。異能力者の戦闘の様子は許可なしで動画や写真に残したらいけないってことになってるもん。」


「やっぱそうか…。」


美雷ちゃんは、見るからに落ち込んでますといった感じで肩を落とした。


「でも、何か許可証みたいなものを申請すれば学園内の人なら誰でも戦闘訓練を見学できるみたいだよ?」


私は、美雷ちゃんに耳寄りな情報を伝えた。


「……もう試した。」


「え?」


「だから、もう試した。でも、第一回からずっと申請して訓練の様子を見に行き続けとったから流石に先生にしばらくは自重しろって言われて、許可貰えんかった…。」


「第一回からって……凄いね…。」


美雷ちゃんの言葉に私は苦笑いするしかなかった。


「あー!もう、しゃーない。優理!兄貴の雄姿をその目に焼き付けるんやで!ほんで、明日私にどんなことがあったか教えて!」


「わ、分かった…。」


美雷ちゃんは私の返事を聞くと、満足そうな顔を見せた。


「ほな、そろそろ教室に戻ろか。流石に神崎のやつもまた問い詰めてくることはないやろ。」


私と美雷ちゃんは教室に戻っていった。






「ほな、またなー。」


「うん、また後で。」


放課後になり、美雷ちゃんは原石の人たちが受ける訓練へと向かっていった。


さて、私もそろそろ行かなきゃ…。


私が異能力者合同訓練に向かう準備をしていると神崎君が話しかけてきた。


「優理!訓練に一緒に行かないか?」


「う、うん。いいよ。」




こうして、私たちは異能力者合同訓練が行われている大ホールへと向かった。


そこには既に参加する異能力者の人達がいた。


すると、あのF.Cの社長令嬢で有名な金富美月さんが話しかけてきた。


「こんにちは。あなたたちが今日から参加する高校生ね。もう知っているかもしれないけど私は金富美月、金の異能力者よ。一応、この異能力者合同訓練をとりまとめる役割を担っているから困ったことや気になったことがあったら何でも聞いてちょうだい。」


金富さんはそう言ってこちらに微笑みかけてきた。


「はい、私は治癒の異能力者の聖園優理です。よろしくお願いします。」


「俺は絆の異能力者の神崎光です。よろしくお願いします。」


私たちの挨拶を聞くと金富さんは早速私たちに指示を出した。


「それじゃ、早速だけど二人には戦闘訓練に混ざってもらうわよ。」


「え?いきなりですか?」


私は最初から戦闘することになると思っていなかったため、思わずそう質問した。


「ええ。そうよ。もう聞いていると思うけど、リバーシが白銀学園を襲撃してくるまであと半年とちょっと。悠長にしている余裕はないわ。あなたたちには申し訳ないけど戦いの中で成長してもらうわよ。」


「わ、分かりました。」


「むしろ、俺はありがたいです。早く、俺の力を皆さんに披露したかったので。」


焦る私とは別に神崎君は自信有り気にそう言った。


「そう、それは楽しみね。」


そう言って美月さんは私たちの戦闘の相手になってくれる人を探しに行った。




「優理、君は治癒の異能力者だからね。無理に戦う必要はないさ。いざという時には俺が君を守るしね。」


神崎君は先ほどの私の様子を見て、私が戦うことを怖がっていると勘違いしたのか私にそう言ってきた。


「ありがとう。でも、私にも守りたいものがあるから大丈夫。」


「そうかい?でも、困ったらいつでも俺に言いなよ?」


丁重にお断りした私に、神崎君は私が断ったことを照れ隠しだと思っているかのようにそう言ってきた。


「ありがとう。」


私は神崎君にお礼だけ言った。


すると神崎君は満足そうな顔を見せた。


「ああ!任せてくれ!」



私が神崎君とそんな話をしていると、金富さんに呼ばれた。


金富さんの方に行くと、金富さんと短めの髪に細マッチョといった言葉がよく似合うような男らしい顔つきの男性が一人いた。


「お待たせ、神崎君。こちらが今からあなたの相手をしてくれる轟雷雅とどろき らいが君よ。」


「紹介してもらった通り、わいが轟雷雅や。」


「俺は神崎光です。雷雅さん、お手合わせよろしくお願いします。」


そう言って、神崎君は頭を下げた。


ところで…轟ってことは…。


「あの、もしかして、美雷ちゃんのお兄さんですか?」


「ん?もしかして、美雷の友達か?」


「はい。私、美雷ちゃんの友達の聖園優理と言います。」


「おー!そーか、そーか。あんたが美雷の話によく出てくる聖園ちゃんか。いつも妹と仲良うしてくれとるみたいやな。」


「優理、雷雅さんは美雷のお兄さんなのか?」



神崎君が私にそう聞いてきたときだった。


気付いた時には神崎君は地面に倒されて、轟さんに胸倉を掴まれていた。


「あーん?われ、誰の許可を得て美雷のこと呼び捨てにしてんねん。」


「い、いや。美雷とは友達なので…。」


神崎君はいきなりの出来事に何が起きたのか分かっていないようだった。


「友達なら苗字で呼べや。美雷と同じクラスになれたからって調子に乗っ取ったら張り倒すで。」


あっ。名字で呼べってところには私も賛成です。


もの凄い気迫で神崎君に迫る轟さんを見て、金富さんが轟さんの頭を叩いた。


「いい加減にしなさい。シスコンも行き過ぎると妹さんに嫌われるわよ。」


「あいたっ!な、なんてこと言うんですか!美雷がわいのこと嫌いになるわけないでしょ!いや、でも…もし美雷がわいのことを……。」


轟さんは美雷ちゃんに嫌われた未来でも想像してしまったのか頭を抱え込んでしまった。


「ごめんね。見て分かったと思うけど、轟君はシスコンなの。だから、彼の前で不用意に妹さんの話はしない方がいいわよ?」


「よ、よく分かりました…。」


神崎君は起き上がりながらそう言った。


「でも、実力は本物よ。彼との戦闘はきっといい勉強になるわ。」


「わ、分かりました。」


「じゃあ、そろそろ始めましょうか。轟君!始めるわよ!」


まだ頭を抱え込んでいる轟さんを金富さんが呼ぶ。


「はっ!わいは一体何を…?」


「今から戦闘訓練よ。神崎君の相手をしてあげて頂戴。」


「あー、分かりました。ほな、闘技場の方に行こか。」


そう言って、轟さんと神崎君は闘技場の方へ行った。

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