第19話 幕間Ⅲ 裏

僕は今、美月さんのおじいさんと話をしている。


「なるほど…それじゃ、一年後にリバーシが白銀学園を襲撃してくるんだな?」


「はい、間違いないと思います。」


「ふむ。そうなると、色々とこれから準備していかなくてはならないな。」


「そのことで、おじいさんに一つお願いがあるのですが…。」


昨日の夜、僕は考えた。


どうすれば、一年で戦鬼や剛鬼に勝てるようになるかを。


その結果、最も必要なのは戦闘経験だということが分かった。


「お願いとはなんだ?」


おじいさんに僕の考えを話した。


「白銀学園に全国の異能力者を集めて、戦闘訓練を定期的に行ってほしいんです。」


「なるほど、異能力者同士で戦わせることによって対異能力者を想定した戦闘経験を増やして戦力の増強を図るということか。なかなかいい案だな。」


おじいさんは僕の案を気に入ってくれたようだった。


「その案、いただくぞ。早速、明日にでも国の中枢部に掛け合ってみよう。」


どうやら、僕の案は採用されるようだ。


だが、僕の本当の狙いはこれからだ。


「ありがとうございます。それと、ここからが僕の本当のお願いなんですが……異能力者同士の戦闘のデータを分けて欲しいんです。」


おじいさんは僕の発言に一瞬、顔をしかめた。


「それは難しいと思うぞ。もし、そのデータが流出してしまえばとんでもないことになるというのは君でも想像がつくだろう?」


「分かっています。それでも、欲しいんです。」


「田中君の気持ちも分らんでもない。だが、少し焦りすぎではないか?もう少し落ち着くべきじゃないか?」


おじいさんはそう言って僕を窘める。


「…僕は、今まで自分の力を過信していました。でも、足りない。そう思ったんです。今の僕じゃ、何も守れない何もできない。ただ、敵に好きなようにやられてそれを眺めることしかできない。だから、今の僕には力がいるんです。」


もう、二度と僕の目の前で僕以上の強キャラ感を出させたりなんてしない。


僕は強い覚悟を持って、おじいさんを見つめた。


おじいさんは少し僕をじっと見てから、ため息を吐いた。


「はあ。何があったのかは知らんが、今の君の目を見れば分かる。儂が止めたところで無駄だということがな。いいだろう、戦闘データは儂が何とかしよう。」


おお!


「ありがとうございます!」


僕はおじいさんにお礼を言う。


「ただし!一つ条件がある。」


「なんでしょう?」


「美月を守り抜くこと。そして、儂らのお願い事は極力聞いてもらうぞ。」


「両方とも、任せてください。ですが、僕は一度美月さんとは距離を置こうと思っています。」


おじいさんの全身から怒気があふれ出す。


「一応、理由を聞いておこうか。」


返答を間違えれば今にも殴り飛ばされそうだ…。


「ここだけの話ですが、シンとしての僕はリバーシの異能力者の二人に目を付けられています。そのことを美月さんが知れば、私も一緒に戦うと言い出すかもしれません。ですが、一年後の襲撃事件の時、美月さんは貴重な戦力の一人です。僕に構って、その戦力の一つが削られるのは悪手でしかない。だからこそ、一年後の襲撃事件が終わるまでは美月さんにはそちらに集中してもらいたいんです。」


「なるほど、君の言うことにも一理あるな。だが、それなら君はどうするのかね?」


おじいさんが僕にそう聞いてくる。


「戦います。僕を狙ってくる奴は僕が責任をもって相手します。」


僕はおじいさんの目を真っ直ぐ見てそう言い切った。


おじいさんは僕を見て、またため息を吐いた。


「本当に、港で何があったか気になるぞ。だが、分かった。君も大きな覚悟を持って、その決断をしたんだろう?なら、シン君が美月にあまり接触しないようにするのは許可しよう。どっちにしろ、これから美月も忙しくなるだろうしな。」


少しは文句を言われると思ったのだが、意外だな。


「い、いいんですか?」


「ああ。だって、田中君は美月とも関わるんだろう?」


おじいさんはニヤリと笑いながらそう言った。


気付かれてたか…。


「はい、もちろんです。」


「なら、儂からは文句はないさ。」


おじいさんは満足そうにそう言った。


そんなおじいさんに最後のお願いをする。


「おじいさん。一旦、シンは姿を消します。一年後にやりたいことをする力をつけるために。ですから、その力をつけるための手助けをお願いしても良いでしょうか?」


「当たり前だろ?儂は元々そのつもりだったよ。」


おじいさんは快く僕のお願いを聞いてくれた。


「ありがとうございます!」


僕はおじいさんに頭を下げて、部屋を出た。


そのあと、美月さんと会話したら美月さんが何か絶望していたような気がしたけど、きっと朝の星座占いで最下位だったのだろうと思って気にしなかった。




これからだ。


これから、シンの逆襲が始まるんだ。


僕は一年後に思いをはせて、F.Cを出ていくのであった。




あっ…。


美月さんに送ってくださいってお願いするの忘れてた…。





***


<side 金富銀治>



田中君と会話した後の美月は今にも泣きそうな顔をしていた。


やれやれ、田中君には可愛い孫娘を悲しませたことへの罰を与えんといかんな。


そんなことを考えながら、美月を鼓舞する。


どうやら、美月は頑張る気になれたらしい。


まあ、シン君にも一年後に再会することになるだろう…。


田中心。


一日ぶりに見た彼の顔は驚くほど変わっていた。


かつて、リバーシに立ち向かった仲間たちに似た覚悟を決めた男の目をしていた。



自分の部屋から外を眺める。


そこには、F.Cのビルから出て走って帰っていく田中君の姿が見えた。


ここから、彼の家はかなり距離があったと思うが……さすがだな。


田中君なら、もしかしたら本当に異能力者たちを倒してしまうかもしれないな。



一年後に起きる事件とそこでシンという一人の無能力者がどのように関わっていくのかを想像して、儂は年甲斐もなくワクワクしてしまうのだった。


***





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る