第16話 ローブ被ってるやつは大体強い

あの後、僕は一旦家に帰った。


そして、晩御飯を食べた後、19時ごろに両親にランニングと簡単なトレーニングをしてくると言って僕はコート以外のコスチュームを着用して家を出た。


最寄り駅には思ったよりも早く19時15分頃に着いてしまったが、既に美月さんは僕を待っていた。


「来たわね。それじゃ、行きましょうか。」


いつもとは違い、マイクロバスのような中型車に乗って僕らは港へ向かった。


車の中には、武装した数人の人がいた。


「あの、美月さんこの人たちは…?」


「この人たちがもしも何かあった時に、シン君を素早く救出するために用意されたF.Cの特殊部隊よ。皆、手練れだから実力に関しては安心していいわ。」


「そうなんですね。皆さん、よろしくお願いします。」


そう言って、僕は特殊部隊の皆さんに挨拶した。


すると、特殊部隊の皆さんは僕に向けて親指をグッと立ててくれた。


か、かっこいい……。


特殊な精鋭部隊というのは、大体が敵の強さを引き立てるために簡単にやられてしまうことが多いのが鉄板ではあるが、現実で見るとかなりのかっこよさと安心感があった。


無能力者だけど、精鋭部隊の一員っていうのもありだな…。


僕が自分の新たな可能性に思いをはせていると、美月さんが話しかけてきた。


「シン君、もうすぐ着くわよ。」


「はい。」


そして、しばらくしてから港近くの駐車場に車が止まった。


「着いたわ。シン君、もしやばそうなことがあればすぐに戻ってくること。必ず無理だけはしないこと。いい?」


「はい。」


「これは通信機よ。このボタンを押しながら話しかければ私たちの所につながるわ。もし何かあったらすぐにこの通信機で連絡してちょうだい。」


そう言って、美月さんは小型の通信機を僕に渡してくる。


それを受け取ると、車を降りコートを着用してから僕は美月さんの方を振り返る。


「それじゃ、行ってきます。」


「ええ。無事に帰ってきなさい。」


美月さんの言葉を聞いて、僕は港に向かってコートをなびかせながら歩いて行った。







今、僕は貿易港などにあるコンテナなどがたくさんある場所に来ている。


来てから思ったのだが、あまりにも人がいなさすぎる…。


貿易港というのは、夜でも人がそれなりにいるものだと思ったが違うのか…?


港の不気味さに、何かがあると僕はそう感じてしまったのだった。


すると、一隻の小型船が近くで停泊しているのを見つけた。


コンテナの陰から様子を伺うと、数人の怪しげな恰好をした人物が話をしているようだった。



「今回はどうも数が少ないな…。」


「ああ、30年前に比べて圧倒的に異能力者と原石を捕獲できていない。」


「あの、剛鬼様ですら金の原石の捕獲に失敗したというのだから……。」


ん?剛鬼?


剛鬼ってあの硬化の異能力者のことだよな…?


その名前が出るってことは…あいつらもしかして…。


その瞬間、背後からとてつもなく嫌な気配を感じた僕は急いで前方に回避した。


回避した結果、僕は小型船の前で話し込んでいた奴らの視界に入ってしまった。


「だ、だれだっ!!」


小型船の前で話し込んでいた奴らは突然現れた僕に驚いているようだった。


くそっ!こんな形で強キャラムーブをするのは当初のプランとは少し違うが仕方ない!


「誰とは…この僕に向けて言っているのか?」


「そうだ!その黒づくめのお前のことだ!」


「名乗ってやってもいいが……どうやら僕に用のあるお客さんがそれを許してはくれないらしい。」


そう言って、僕は僕に向かって放たれたナイフを避ける。


「おお~。俺の攻撃を二回も避けるとはな、中々やるみたいじゃねえか。」


拍手しながら、僕を攻撃したと思われる一人の男が近づいてくる。


少し細めの体型のその男はボロボロのローブを纏っていた。


「せ、戦鬼様!いらしてたんですね…。」


先ほど話し込んでいた数人の一人がそう言った。


「ん?ああ。ボスにその船に乗って一旦アジトに戻ってこいって言われたからな。」


「そうだったんですね。それなら、そこの怪しい人物は我々に任せて船の中でお待ちください。」


「ああ?何言ってんだてめえら。そいつはてめえらの手に負える相手じゃねえよ。俺がやる。」


「な!?ですが…!」


先ほどの数人は戦鬼と呼ばれる男に食い下がろうとするが…


「うるせえ。」


戦鬼という男がその一言と同時に発した殺気によって何も言えなくなっていた。



こいつはかなり強いな……。


恐らく剛鬼と同格のレベルといったところか…?


僕は通信機を使い、美月さんにこっそり連絡をしようとしたところで思いとどまった。


僕が憧れた強キャラはこんなところで応援を呼んでいたか?


いや、違う…。


強キャラを目指すなら、これからこいつや剛鬼のような強者とやりあっていくことを考えるならここで戦うべきだ。


他でもない、僕だけの力で。



僕は意を決して口を開いた。


「話は終わったか?」


「ん?ああ、すまねえな。待たせちまったみたいで。そっちもどうやら準備が出来てるみたいだし、いっちょやりあおうか。」


「断ると言ったところで僕を見逃すつもりなんてないんだろう?」


「分かってんじゃねえか。」


そう言うと戦鬼はニヤリと不気味な笑みをうかべた。


「ああ、そうだ。自己紹介をしておこうか。俺は戦鬼。リバーシの異能力者の一人だ。」


「そうか。僕も自己紹介しておこうか?」


「いや、いい。これから殺しちまう奴の名前を聞いても仕方ないしな。精々、少しは楽しませてくれよ?」


そう言って戦鬼はこちらに向かってきた。


僕は牽制として数発銃弾を撃ち込むが、男は手を刀のようなものに変形すると銃弾をそれで弾きそのまま僕に斬りかかってくる。


僕はすぐにパーフェクト・ゾーンに入った。


振り下ろしからの薙ぎ払い。


そう動いてくる気がした僕は、刀の間合いの外へ避ける。


戦鬼は自分の攻撃を避けられたことが意外だったのか一瞬驚いた顔をした後、楽しそうに笑った。


「いいねえ。じゃあ、これならどうだ?」


そう言って、戦鬼の左手がライフルになる。


それはやばい。


僕は急いで、近くのコンテナの後ろに隠れた。


コンテナに向けて大量の銃弾が撃ち込まれる。


右手を刀に変えて、左手はライフル……。


決まりだ。


戦鬼というあの男は十中八九「武器の異能力者」で間違いないだろう。


昔、何かの本で読んだことがある。


確か、その能力は……「身体を自在にあらゆる武器に変えられる」というもの。


爆発する。


そんな気がした僕は急いでその場を離れる。


ドオンッ!!


大きな音を残して、さっきまで僕が隠れていたコンテナが爆発した。


『シン君!すごい音がしたけど大丈夫!?何かあったの?』


焦った様子の美月さんの声が通信機から聞こえてくる。


ダメだ、こいつの前に美月さんたちを連れてくるわけには行かない。


「どうやら、港で爆発事故が起きたみたいです。もう少し見回ってから僕は帰るので安心してください。」


僕はそう言って、通信を切った。


「ん~?流石に吹っ飛んじまったか?」


どうやら戦鬼の奴は僕を見失っているらしい。


それなら好都合だ。


ただやられるだけじゃ、面白くない。


少しは反撃させてもらおう。


まずは、ワイヤーを人一人が入れないくらいの狭さで隣り合っているコンテナの間に通しておく。


そのあと、僕は煙玉を戦鬼に向かって投げつける。


「ああ?なんだこいつは?」


そして、戦鬼を包み込む煙幕の中に突っ込んでいった。


戦鬼がいるような気がする場所の近くまで来て、僕は銃弾を一発戦鬼に向かって撃ち込みすぐに移動する。


「ぐはっ!!ははは!やっぱ生きてたか!嬉しいぜ!!」


銃弾は意外にも着弾したようだった。


戦鬼は身体をマシンガンやライフルに変え、銃弾が飛んできたと思われる方向に銃弾を撃ち込んだ。


だが、その方向には既に僕はいない。


戦鬼の背後に回った僕は戦鬼の背中に掌底をくらわせる。


「がっ!?」


更に、掌底をうけて一瞬動きの止まった戦鬼にワイヤーを括り付け、その場を離れる。


先ほどワイヤーを通した二つのコンテナの裏に素早く移動して、ワイヤーを巻き上げる。


僕の身体も引っ張られるが、僕はコンテナの後ろにいるため踏ん張ることが出来る。


しかし、戦鬼の方は掌底によりうずくまっていたこともあり、踏ん張ることはできなかったようだ。


バアンッッ!!


コンテナに戦鬼がぶつかる音が聞こえた。


僕はワイヤーを切って、戦鬼の様子を見に行った。

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