第15話 服のセンスは人それぞれ
****
<side 美月>
厄介なことをしてくれたわね…。
序盤は完全に私のペースだった。
追尾型の銃弾と近接戦の二つを絡めることで完全に有利な状況を作り上げることが出来た。
しかし、シン君が煙幕を張ってから完全に状況を振り出しに戻された。
シン君の居場所が分からない以上、不用意に銃弾を撃ち込むこともできない。
シン君は何かをしようとしているのか、銃声が時々聞こえるが私はその場で防御に徹して煙幕がなくなるのを待った。
あれから4分程度の時間が経過した。
煙幕がなくなり視界がクリアになった私はシン君を視界に捉えた。
今度こそ、仕留める!
私が銃弾を撃ち込もうとしたとき、私の体は突然床に倒れた。
<side out>
***
美月さんとついでに壁にも発信機付けておいて良かったな。
そう、僕は美月さんへの最初の攻撃の時と、美月さんの銃弾を避けるために壁の近くに行ったときにあらかじめ発信機を付けておいた。
そのおかげで、視界が遮られた今でも僕は大体のこの空間のイメージがついている。
僕はワイヤーを取り出すと美月さんの周りを囲うように置いていく。
そして、ワイヤーの先を銃を使い上手く壁に埋め込んだ。
これで、準備は大体できた。
後は煙幕がなくなるのを待つだけだ。
今なら、なんとなく美月さんに勝てる気がしていた。
そして、煙幕がなくなり美月さんがこちらを銃で撃とうとしているのが見えた。
僕はすぐにワイヤーを巻き上げる。
それにより、突然足をワイヤーで縛られた美月さんは何が起こったか分からないといった表情で床に倒れた。
ここで決める。
僕は倒れた観月さんに近づき、拳銃を奪い取り美月さんのお腹に掌底をくらわした。
恐らく、美月さんの金色のボディスーツは金でできているものだろう。
だからこそ、内部にダメージを与える掌底を撃ち込んだのだが……おかしい。
美月さんには全くきいていないようだった。
「残念だったわね。シン君なら掌底を狙ってくると思ったわ。」
美月さんの体を見て、僕は気付いた。
「くそ!スーツと身体の間に少しの空洞を作っていたのか!」
「その通りよ。だからこそ、私の体にこのスーツを密着させれば…ワイヤーも脱出できる!」
そう言って、美月さんはワイヤーから見事に脱出した。
「どう?シン君?このスーツの性能を知ってもまだエロいなんてことが言えるかしら?」
言えます。
むしろ、さっきの密着するときとかめっちゃエロかったです。
だが、こんなことを言ってしまえば美月さんが怒り狂うのは当然のこと。
ここは素直に驚いたふりをしておこう。
「す、すごい!なんて素晴らしいスーツなんだ!!」
「そうでしょう?シン君もようやくこのスーツの素晴らしさに気付いたようね。」
嬉しそうにそう言う美月さんはとても可愛かった。
「それじゃ、決着を付けましょうか。」
「はい。」
そう言って、僕と美月さんは金の剣と短剣をぶつけ合った。
美月さんが剣を振り下ろす。それを予測した僕が剣を避けるのと同時にカウンターで短剣をあてに行くが、美月さんは自慢のボディスーツの硬度を上げることで防いでいた。
一進一退の攻防を繰り広げる僕と美月さん。
「はあ…はあ…やるわね…。シン君。」
「美月さんの方こそ。」
そして、再び武器を構えてぶつかり合おうとしたとき……
「そこまで!!」
おじいさんの声が響いた。
「二人ともそこまでだ。もう12時を回って13時になるぞ。ここらでやめて昼ごはんにしよう。」
おじいさんにそう言われて時間を確認すると、確かにもうすぐ13時になろうとしていた。
「そうね。この辺でやめておきましょうか。シン君、手合わせありがとうね。やっぱりあなたは強かったわ。」
「いえ、こちらこそありがとうございました。」
美月さんは僕のお礼を聞いた後、シャワーを浴びると言ってその場を後にした。
「シン君。どうだったかね?武器と装備に関しては?」
「はい。とても使い勝手が良くて助かりました。装備に関しても防御性能は特に問題ありませんでした。」
「その身をもって確かめていたしな。」
そう言って、おじいさんは笑った。
「やっぱり、おじいさんは戦闘の様子を見ていたんですね。」
「ああ。ところでシン君よ。なぜ、最後決着を付けなかった?」
やっぱり、気付いていたか…。
僕は正直、最後に一対一の状況になった瞬間いつでも決着をつけることが出来た。
僕が煙幕を張った時点でセットしたワイヤーはまだ残っており、そのワイヤーと僕のパーフェクト・ゾーンを使えば美月さんを拘束することはいつでもできたからだ。
だが、僕はそうしなかった。
「違う、と思ったんです。」
「違う…?」
おじいさんは不思議そうにそう聞いてきた。
「はい。どんな形でも勝たなくてはいけない場面ならまだしも、あの戦いはただの手合わせでした。異能力者になりたての美月さんに対して勝てないようじゃ、リバーシや各国の異能力者に勝つなんてのは夢物語だと、そう思いました。」
「なるほど…。つまり、自らの修行のためだということか?」
「はい。僕が目指すのは異能力者にさえ勝つ最強の無能力者ですから。」
「その道は長く険しいぞ?」
「望むところです。」
「そうか、ならこれからは定期的にうちに来るといい。美月と手合わせすることは君にとっても美月にとってもかけがえのない経験になるだろうからね。」
「ありがとうございます。」
おじいさんは僕にそう言うとその場を立ち去ろうとした。
「おじいさん!」
僕はおじいさんを呼び止める。
「なんだ?」
おじいさんはこちらを振り向いた。
僕はおじいさんにどうしても聞きたかったことを聞いた。
「美月さんの、あのボディスーツは誰がデザインしたんですか…?」
おじいさんは苦虫を噛み潰したような顔をした後に重苦しく口を開いた。
「美月だ…。」
そう言って、おじいさんはその件にはもう触れて欲しくなさそうにしながら立ち去って行った。
道理で、あんな誇らしげに性能を自慢してきたのかぁ……。
僕はそう思いながら、着替えるために更衣室へ向かった。
あの後、着替え終わった僕と美月さん、そしておじいさんで昼ご飯を食べた。
そして、今はおじいさんの部屋で三人で「シン」の活動について話し合いをしているところだった。
「田中君。シンとしての活動は今日にでも始めるのかね?」
「はい。そのつもりです。」
「ちなみに、活動をすると言ってもどんなことをするかは決めているのかしら?」
美月さんがそう聞いてくる。
「最近、隣町の港に謎の船の姿がよく見えるみたいなのでそこへ行ってみようかと。」
「謎の船?それは多分、密輸船のことじゃないのかしら?ほら、最近話題になってたし。」
美月さんがそう言う。
ま、まじか…。あの噂はただの密輸船のことだったのか…。
「まあ、待て美月。シン君、君が気になるということは密輸船以外に何か怪しい動きがあるのだろう?それも異能力者が関係している何かが。」
おじいさんが僕に向かってそう言う。
「そうだったのね。ごめんなさい、シン君。私ったら早とちりしてしまったわ。」
そう言って、美月さんは僕に期待の眼差しを送ってくる。
逃げ場なんてなかった。
ここで、すいません勘違いでしたなんて、僕には絶対に言えなかった。
「その通りです。あそこで今日、何かがある気がする。だから、僕は今日港に向かうつもりです。」
「なら、私も行くわ。」
美月さんがそう言う。
ええええええええ!!??
ちょ、ちょっとそれは困るなあ…。
「いえ、今回は僕一人で大丈夫です。」
僕は内心の動揺を必死に隠してそう言った。
しかし、その言葉じゃ美月さんは納得できなかったようだ。
「なぜ一人で行こうとするのかしら?今日の戦いでまだまだ異能力者とは簡単には渡り合えないことが分かったでしょ?」
美月さんが僕を問い詰めてくる。
いや、そもそも異能力者どころか誰もいない可能性すらあるんですけど…。
僕がそう思っていると、おじいさんが美月さんを窘めた。
「美月、落ち着け。田中君は先ほど、今回はと言った。ということは今回は偵察に留めて、相手の動きを見るのが目的なのだろう。」
おお!なんか知らんが、いい感じに解釈してくれてるみたいだぞ!
「でも、おじいちゃん。いくら偵察でも…一人じゃ危険すぎるわ。」
美月さんはそれでもまだ、一人で行くことに対しては否定的なようだ。
「シン君の実力は美月も知っているだろう。それに、夜に美月があのボディスーツを着てシン君について行ってみろ。偵察どころか目立ってしょうがないわ。」
「うっ…。それは確かにそうね…。」
いいぞ!おじいさん!
僕はおじいさんを心の中で応援した。
「それに、儂もシン君を一人で行かせようとは思っとらん。もしもに備えて、港から少し離れたところで様子を見ておこうとは思っとる。」
んん?いや、でも離れたところから様子を見るだけならまだ何とかなるか…。
「分かったわ…。でも、私も待機組には入れてもらっていいわよね?」
「もちろんだ。」
どうやら、美月さんが僕に付いてくることはなくなったらしい。
ありがとう!おじいさん!
「それじゃ、シン君。現場までは儂らが送っていこう。何時に迎えに行けばいいかね?」
「それじゃ、いつもの最寄り駅に19時半でお願いします。」
こうして、僕の強キャラムーブの第一歩が踏み出されることが決まったのであった。
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