第14話 黒はなんにでも合う
着替え終わった僕は自分の姿を鏡で確認していた。
真っ黒のジーンズに真っ黒のコート。コートの下に着る服も黒を基調としたものだった。
ここまで黒いとどうなんだろうと考えたこともあったが…悪くない。
むしろ、かなりいい…。
闇夜から現れ、闇夜に紛れて仕事をする仕事人の雰囲気が出ている。
ここに帽子や手袋、仮面を付けるのもありだな…。
僕がそう思っていると、おじいさんから声をかけられた。
「田中君、着替え終わったらそのまま外に来てくれないか?」
「分かりました。」
僕は自分が脱いだ服を更衣室の隅にまとめて、更衣室をでた。
「お待たせしました。」
僕はそう言っておじいさんの前に立つ。
「おお!正直、黒ばかりだったからどうなるかと思ったが案外いい感じにまとまっているな。」
おじいさんは僕の格好を見てそう言った。
「はい、これも全ておじいさんたちF.Cの皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。」
僕は改めてお礼を伝えた。
「喜んでもらえたよう儂らも嬉しいぞ。ところで、簡単に装備について説明しようか?」
「はい、お願いします。」
「まず、そのジーンズとコートの下に来ている黒い長袖のTシャツのようなものは特殊な繊維で作った、銃弾も通さない服だ。まあ、防弾チョッキのジーンズとTシャツ版みたいなものと思ってくれたらいい。そして、コートには要望通り武器などを仕込むところを裏地にたくさん仕込んでおいた。好きな武器を入れるといい。」
僕は言われてから、コートの裏地を確認した。
確かに、そこにはたくさんの武器をしまえるような工夫が施されていた。
「コートに関しては、君の言う通り裏地への仕込みとデザイン以外は特に何もしていないが良かったのか?」
そう、僕はTシャツとジーンズに関しては防御性能を高める要望を出したが、コートに関しては防御性能を求めたりはしなかった。
「はい。コートにまで特別な細工を施すとかなり服の総重量が重くなってしまいますから。そうなっては僕の身軽さが損なわれてしまうので、コートには何もしなくていいんです。」
実を言うと、Tシャツとジーンズに関しても一般的な服に比べると少し重い。
コートの防御性能まで上げてしまうと、僕のスピードはかなり落ちてしまうだろう。
「なるほど…。よく考えての決断というわけか。」
「はい。」
「ところで、田中君。武器にはもう目を通したかね?」
「はい。簡単にですが。」
スーツケースの中には、僕がお願いした短剣に投げナイフが数本、そして、ベレッタが一つあった。
それらの僕がお願いしたものとは別に、発信機のようなものやワイヤーのようなものがあった。
「じゃあ、分かったと思うが、儂たちの方で勝手に装備をいくつか見繕っている。ワイヤーは投げナイフと合わせて使うことで、簡単な罠を作ることが出来るし、敵を拘束することもできる。こっちのワイヤーを巻き上げるための機械を使えば、ワイヤーを使った移動も可能だ。発信機のようなものは盗聴機能も付いているため、ターゲットや守りたい人に付けておけば動向を知ることが出来るため非常に便利だ。ぜひ、使ってみてくれ。それと、これは煙幕用の煙玉だ。これも渡しておこう。」
僕はおじいさんの説明を聞いて、感動した。
「ありがとうございます!おじいさん!」
僕はその装備を見て、これらを使うことを想像してわくわくしていた。
その様子が感じ取れたのか、おじいさんは僕に話しかけてきた。
「田中君。その格好でこれらの武器を使って戦ってみたくはないかね?」
「え!?でも、そんなことできるんですか?」
「儂が若い頃に使った戦闘訓練用の部屋がある。あの奥の部屋のことだ。そこを使えば良いだろう。」
「ですが…相手は誰がしてくれるんでしょうか?」
「ああ、それなら…。」
「私がするわ。」
そう言って、美月さんは更衣室から出てきた。
「シン君、なかなかカッコいいわね。似合ってるわよ。」
僕に向けてそう言った美月さんは金色のボディスーツのようなものを身に纏っていた。
「ありがとうございます。美月さんも似合ってますよ。」
似合ってるかどうかは置いといて、正直かなりエロい…。
「シン君…。そう言う目線は女性からしたら一発で分かるから気を付けた方がいいわよ…。」
「え!?あ、いや、決して美月さんの格好をエロいなんて思ってませんよ!」
美月さんの言葉を必死に否定した。
「田中君。完全に墓穴を掘っておるぞ…。」
し、しまった!なんて恐ろしい誘導尋問なんだ!!
美月さんは顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけていた。
「ところで、なんで美月さんがやってくれるんですか?もしかして、さっき言ってたみたいに僕をボロボロにするためだったりして……。」
僕は慌てて、冗談交じりに話を変える。
「そうね、それもいいかもしれないわね…。」
「や、やだなー…美月さん。冗談ですよね…?」
「私は本気よ。」
美月さんの目は本気だった。
何とか弁明しようとする僕の肩におじいさんが手を当てた。
「おじいさん…。」
僕はおじいさんに助けを求めるような視線を送る。
しかし、おじいさんは悲しそうな顔で首を横に振るのだった。
「何やってるの、行くわよシン君!」
「は、はい!」
僕は美月さんに呼ばれて、奥の部屋へと向かうのだった。
防御性能を試すつもりで、一発だけ攻撃を受けよう…。
それで、何とか許してもらおう…。
僕はそれだけ決めて、美月さんとの戦闘に臨むのだった。
部屋に入ると、既に美月さんは戦いの準備をしていた。
「み、美月さん…。あの一発だけ攻撃を受けるので許してもらえないでしょうか?」
「何言ってるの?シン君、私はもう怒ってないわ。それより、早く構えなさい。あなたが戦おうとしている異能力者の強さを教えてあげるわ。」
美月さんは真剣な目でこちらを見てそう言った。
その目を見て、僕も気持ちを切り替える。
今から戦うのは、あの時リバーシにやられていた美月さんじゃない…。
金の異能力者なんだ。
「お手合わせ、よろしくお願いします。」
「ええ。こちらこそね!」
美月さんはそう言うと同時に、僕に向けて拳銃で銃弾を撃ち込んできた。
だが、戦闘に関して直感で銃弾の軌道が予測できる僕に銃弾は聞かない。
僕は余裕をもって銃弾を避けたその時、僕の直感が伏せろ!と告げてくる。
しかし、今までにない緊急の直感に僕は反応しきれず脇からもろに銃弾をくらうのだった。
ぐっ!!
かなりの衝撃が伝わってくる。
これ、コスチュームを付けてるといっても、もろにくらうとかなり衝撃が来るな…。
それよりも、だ…。
何が起きた…?僕は確かに銃弾を避けたはずだった…。
だが、現実に銃弾は僕を捉えた。
「フフフ。驚いているみたいね。でも、容赦はしないわよ!」
そう言って、美月さんは僕に向けて銃弾を2、3発撃ち込んでくる。
とにかく避けなくては。
僕はパーフェクト・ゾーンに入り、銃弾をよけ続ける。
その時に見えた…。
銃弾がやけに金色に輝いているのを。
壁の間際で僕は銃弾を避けた。
銃弾は壁の間際で僕が避けたこともあり、壁にそのまま当たった。
僕は壁にめり込んだ銃弾を見て確信した。
「金でできた銃弾ってことですか…。」
「ええ、そうよ。私は金の異能力者だから金を操ることが出来る。ゆくゆくは金属を操ることもできるとおじいちゃんは言っていたけど、今の私には金を操るのが精いっぱい。だからこその、金の銃弾よ。これなら、私は銃弾の軌道を自由に変えることが出来る。」
「かなり、強力ですね…。」
「あなたが戦おうとしている相手の大きさが分かったかしら?」
そう言うと、美月さんは再び金の銃弾を撃ち込んでくる。
遠距離戦のままだと、分が悪いか…。
僕はコートの中から短剣を取り出し、美月さんに向かって走り出した。
「近距離戦なら勝てると思ったのかしら?舐められたものね。」
そういって、美月さんは金の棒のようなものを取り出した。
美月さんが先ほど撃った銃弾が僕に向かってくる。
僕はその銃弾が飛んでくる軌道に合わせて短剣をおき、銃弾をそらす。
そして、そのまま美月さんにとびかかった。
「シールド」
美月さんがそう呟くと同時に金の棒が盾のように変わり、僕の前に現れる。
ギインッ!
短剣と金の盾がぶつかり合う。
「カウンター」
美月さんがそう言うと、金の壁が剣のように変わりその切っ先が僕の顔面に向かってきた。
危ない!
直感であらかじめ予測していたが、それでもかなり避けるのはギリギリだった。
僕は再び、美月さんに近づこうとするがそれを美月さんが撃った銃弾が邪魔してくる。
僕がその銃弾を短剣でそらすその隙に美月さんは僕に向かって、金で作った剣で切りかかってくる。
くそ……。
とにかく、追尾型の銃弾が厄介すぎる。
あれを何とかしないことには勝ち筋は見つからない。
まだ、僕の中で美月さんに勝てる気というのは湧いてこなかった。
美月さんの剣と銃弾を直感でいなし続けながら考える。
どうすればいい!
何が使える!
その時、僕はおじいさんの説明を思い出した。
これだ!!
僕はわざと銃弾を受けて吹き飛ばされた。
「ついに、体力切れかしら。じゃあ、一気に行くわよ!」
そう言って、僕を追撃しようとする美月さんに向かって僕は煙玉を投げ込む。
持っている煙玉を全て投げ込み、部屋中が煙幕で何も見えなくなった。
「こんなことをしても、無駄よ。私には追尾型の銃弾があるんだから!!」
美月さんはそう言うが、この場面であの銃弾は使えない。
あの銃弾は美月さんが操作していると言った。
なら、そもそも美月さんが僕の位置を分かっていなければ、あの銃弾をいくら操作できたとしても僕に当てることは不可能なのだ。
「こんなことしても、動けないのはシン君も同じでしょ?あと5分もすれば煙幕は完全になくなるわ。シン君が不利なのは変わらないわよ!」
「さあ?それはどうでしょうか。」
僕はそう言い残すと、美月さんを追い詰めるために行動を開始した。
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