第13話 バーサーカーソウッ!!

速水と話し合った日から一週間が経過していた。


あれ以来、速水は僕にリバーシに関する話を聞いてくることはなかった。


そして、僕は今、夜の街を走っていた。


ついこの間、僕は21時までに家に帰ることを条件に夜のランニングの再開を両親に許可してもらうことが出来た。


今は、街の中で問題が起きやすいスポットや人気のない場所を探しながら走っているところだ。


なぜそんな場所を探しているかというと、僕がシンとして活動するときの活動範囲を決めるためだ。


ここ数日の夜のランニングで、最も問題が起きやすいのはやはりリバーシと遭遇した隣町だということが分かった。


更に、最近はその隣町の港に謎の船の目撃情報があるらしい。


僕はシンとして隣町で活動することが今から楽しみだった。


それにしても美月さんからの連絡遅いなあ。


そう思っていると、僕の携帯に知らない番号から着信があった。



「もしもし。」


「田中心君かね?」


電話からは聞き覚えのある声が聞こえた。


「はい、そうですけど……もしかして、美月さんのおじいさんですか?」


「ああ、そうだ。君に依頼されていたものだが、用意ができた。明日にでも渡したいと思っているのだが、田中君の明日の予定はどうなっているかね?」


「本当ですか!?明日は開校記念日で学校は休みなのでいつでも大丈夫です。」


「そうか。なら、以前と同じ10時に田中君の家の最寄り駅で待っていてくれ。」


「分かりました。」


「……田中君。君はあまり携帯は見ないタイプかね?」


おじいさんがなぜかそんなことを聞いてきた。


「え?まあ、あまり携帯をいじるタイプではないですね。」


僕は、家では日々の勉強と身体を鍛えるトレーニングをやっているためあまり携帯だったりテレビだったりを見るタイプではない。


「そうか……。これからはもっと携帯を見て誰かにメールなどを送るといい。」


そう言うと、おじいさんは電話を切った。


誰かにメールを送る?なんで美月さんのおじいさんがそんなことを……?


この時、僕の直感は全力で警報を鳴らしていた。


ただ、明日のことが楽しみすぎた僕は、まあ、いいかとおじいさんの発言について考えることをやめたのであった。


それが…おじいさんからの警告だったということに気付いたのは次の日の10時を過ぎてからだった。




今、僕は迎えに来てくれた美月さんの車の助手席に座っていた。


美月さんは先ほどからニコニコと作り上げたような笑顔で話しかけてくる。


「ねえ、。あなたは約束を破ることについてどう思うかしら?」


グサッ


「とても、良くないことだと思います…。」


僕は声を震わせながらそう答えた。


「じゃあ、男の子に自分から連絡をすると言われて1週間以上放置された女性はどんな気持ちだと思うかしら?」


グサッグサッ


「すごく…悲しい気持ちだと思います…。」


不味い…完全に怒っている。


美月さんが駅に僕を迎えに来たときからずっとこの調子だ。


美月さんは、僕が美月さんにメールを送らなかったことをかなり根に持っているようだった。


「あら、さすが田中君ね。それだけ女性の気持ちが分かる田中君なら、きっと連絡を待つ女性を放置したりなんてしないでしょうね。」


グサッグサッグサッ


美月さんは依然として、ニコニコしながらそう言った。


もうやめて!心のライフはとっくに0よ!!


これ以上の追撃には耐えられないと思った僕は美月さんに謝ろうと思った。


「あ、あの…。」


「なにかしら?」


「本当にすいませんでした!!」


「何言ってるの、田中君。急に謝ったりして、ほら、もうすぐ私の家に着くわ。すぐに出れるように準備しといてね?」


美月さんは僕の謝罪を見事なまでに受け流した。


取り付く島もないっていうのはこういうことを言うんだろうなあ…。


僕が現実逃避しようとしたとき、僕宛にある通販サイトからのメールが届いた。


どうせ謝罪を受け取ってもらえないなら…。


僕は新規メール作成の画面を開くと本文を打ち込んで保存した。


そして、そのあとF.Cに着くまで僕と美月さんの間に会話はなかった。





F.Cに着いた僕と美月さんは車から降りた。


そこで僕は先ほど保存したメールに宛先を付けて、送信と書いてある画面を押した。


ピロン!という着信音が美月さんの方から聞こえた。


美月さんは自分の携帯の画面を見て少し目を見開いた後、先ほど届いたと思われるメールを読み始めた。




美月さんはメールを読み終わったのか、顔を上げて僕の方を向いた。


僕は何か言おうとしている美月さんに頭を下げた。


「美月さん、ごめんなさい。約束を破ってしまったこと、そして知らず知らずのうちに美月さんを傷つけてしまったこと。本当にすいませんでした。」


「…メールに書いてあったことは、本当に田中君が思ってること?」


「はい。正真正銘、僕の本心です。」


僕は美月さんの目をまっすぐ見てそう言った。


「はあ…。私、かなり傷ついたのよ?」


「本当にすいませんでした。」


そう言って、僕はもう一度頭を下げる。


「田中君、顔を上げて。」


僕が顔を上げると、美月さんは手を振り上げていた。


ああ、ぶたれるのか…。


僕はそう思って、目をつむった。


しかし、美月さんは優しく僕の頬に触れて微笑んだ。


美月さん……。


僕が美月さんの優しさに感動していると……美月さんは思いっきり僕の頬を引っ張った。


い、痛い!!


耐えられないほどじゃないけど、地味に痛い!


「みづきひゃん…いひゃいでふ…。」


「んー?何言ってるか分からないわね?」


こ、これは…。


いや、これくらいの罰は喜んで受け入れるべきだな…。


だが、一応言っておこう。僕はマゾではない。


僕はしばらくの間、美月さんの玩具にされるのだった。


そして、美月さんは最後に僕の引っ張られてる顔を携帯のカメラで撮ってから、僕の頬から手を放した。


「これくらいで勘弁してあげるわ。でも、次からはたまには連絡しなさいよ。」


「はい。」


「じゃあ、行きましょうか。おじいちゃんも待ってることだしね。」


そう言うと、美月さんはF.Cのビルに向かって歩き出した。



良かった~。


いや、さすがに今回はもうダメかなと思ったけど許してもらうことが出来てよかった。


もし、あの調子で今日一日過ごしてたらストレスで胃が凄いことになってた気がするよ…。



、何やってるの?早くいくわよ!」


「はい!今行きます!」


僕は、先ほどとは打って変わって機嫌が良さそうな美月さんを追いかけた。





ビルに入った僕らは、美月さんのおじいさんの部屋に来ていた。


「ん、ようやく来たか。見る限りだと、美月の機嫌を取ることには成功したみたいだな。」


「やっぱり、おじいさんの電話の最後の言葉はそう言う意味だったんですね。」


僕は、あの時に自分の直感を気にしなかったことを今更ながら後悔する。


「田中君がメールを送らなかった間の美月はかなり凄かったぞ…。正直、儂は田中君はボロボロの状態でここに来るかと思っとった。」


「さ、さすがにそこまで酷いことなんてしないわよ。」


おじいさんの発言に美月さんは慌てて否定する。


「だが、田中君からのメールだと思って携帯に飛びついたら迷惑メールだった時の美月の顔は凄かったぞ…。事実、携帯を握りつぶすんじゃないかというくらいの怒りようだったしな。」


おじいさんは笑いながらそう言った。


「まあ、もし約束自体を完全に忘れてるようだったら、異能を使って気絶させるくらいはしようかと思ってたけどね。」


異能の練習にもなるしね。美月さんは笑顔でそう言った。


いや、それだったら僕ボロボロになってますって…。


二人で笑うおじいさんと美月さんを見て、僕の口からは乾いた笑いしか出てこなかった。


もう、絶対に美月さんを怒らせないようにしよう…。


僕はそう胸に誓うのだった。




「ところで、おじいちゃん。早く心君にあれを見せてあげたら?」


「おお!そうだったな。じゃあ、田中君こっちに来てくれ。」


そう言っておじいさんは僕と美月さんを連れて二つ下の階に向かった。


「ここだ。」


そう言って、おじいさんは少し大きめの扉がついた部屋に入っていく。


僕と美月さんもおじいさんに続いて部屋に入る。


部屋の中は思ったより広くなかったが、様々な器具やコンピューターがあり部屋の奥に扉が一つあった。


そして、部屋の真ん中には大きめのスーツケースが一つあった。


「あのスーツケースの中に、君にお願いされたものが入っている。自分の手に取って確認してくれ。」


おじいさんにそう言われた僕はスーツケースに近づき、スーツケースを開けた。


中には、僕が依頼したコスチュームといくつかの武器が入っていた。


おお…これはいい…。


「このコスチューム着てみてもいいですか?」


「もちろんだ。すぐそこに更衣室があるから着替えてみたまえ。」


そう言っておじいさんは更衣室と書いてある扉を指さした。


「ありがとうございます。」


そう言って、僕はウキウキする気持ちを抑えながら着替えに行くのだった。


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