第12話 土日過ぎると金曜のことは忘れがち
金富さんの家を訪れた日から二日後。
月曜を迎えた僕は、一人で学校へ登校していた。
いつもは優理に出会ったりするのだが、今日からは優理と登校することはできない。
なんとなくだが、若干の寂しさを覚えた僕は優理に一言、「頑張れ。」とだけメールを送っといた。
メールで思い出したが、美月さんにもメールを送らなくては…。
美月さんに送るメールの内容を考えながら歩いていると、いつの間にか学校に着いていた。
教室に上がって、自分の席に近づくと速水が僕の席に座っていた。
やけに笑顔な速水は、僕に向かって爽やかな笑顔を向けてきた。
「おはよう!心!今日もいい天気だな。」
「そ、そうだね。ところで、どうかしたの?僕の席に座ったりなんかして?」
「俺は今日という日を待ち望んだよ。この土日は、月曜が楽しみすぎてとても長く感じられたくらいだ。」
速水は僕の質問などお構いなしに喋り続ける。
「ん?いつまで立ってんだ?とりあえず席に座れよ。」
「いや、速水が僕の席に座ってるから座れないんだけど…。」
「おお、これはすまねえ。すっかり忘れていたぜ。」
そう言って速水は僕の席を立つと、僕を僕の席に座らせた。
やっと椅子に座れた…。
すると、速水は僕の逃げ場をなくすように窓際の僕の席の横に立った。
なんだ…?
何かがおかしい…。今日の速水は僕から見ても少しおかしかった。
それに何か関係あるのか?
今日の速水は今日をとても楽しみにしていると言っていた。
今日は何がある?……ダメだ、優理と神崎が白銀学園に転校するくらいしか今日のイベントはない。
待てよ…速水は土日が長く感じられたと言っていた…。
つまり、逆に考えれば金曜に何かあったと考えるべきじゃないか…?
金曜日、優理と話して…いや、さすがにこれは速水に関係ない。
速水…金曜日…。
そこで僕は思い出した、金曜にした速水との会話を。
まずい……こいつは、僕からリバーシの復活に関する話を聞き出そうとしている。
冷汗が流れる…。
速水は依然としてニコニコとこちらを見ている。
「ご、ごめん…速水。僕、ちょっとお腹痛いからトイレ行くね。」
「ああ、いいぜ。」
速水は笑顔でそう言った。
ここで僕を逃がす、だと…?
まあいい。この調子で今日一日乗り切るしかない…。
「ああ、そうだ。心、今日の昼休みは二人でちょっとお喋りでもしないか?」
速水は席を立とうとする僕にそう言った。
「昼は、その武田先生と人生相談を…」
「今日は武田先生は出張らしいぞ。」
「その、美化委員会の仕事が…」
「今日は特に何もないみたいだぞ。」
やられた。
速水はもとより朝に僕から話を聞き出すのが目的じゃなくて、昼に僕と二人になる約束を取り付けるために僕の席で僕を待っていたんだ…。
だが、今更気付いたところでもう遅い。
速水は僕が思いつく限りの言い訳を想定して、それを全て事前に潰しているのだろう。
僕には、頷く以外の選択肢が残されていなかった。
午前中の授業が終わり、給食を食べ終わるとすぐに速水は僕のもとにやってきた。
「よし、心。屋上行こうぜ。」
「うん。」
僕らは屋上に向かった。
いつもなら何人かの生徒が屋上にいるが、もう12月ということもあり、さすがに屋上に人の姿は見えなかった。
「やっぱ寒いなあ…。」
「いや、さすがに寒すぎるでしょ。速水、お喋りなんてやめてさ、教室でストーブにあたらない?」
僕は、僅かな希望に思いを託し速水にそう提案した。
「ダメに決まってるだろ。とりあえず、風の当たらないとこで話そうぜ。」
まあ、そうだよね…。
あまり風の当たらない、まだ寒さを我慢できる場所に移動すると速水は早速本題に入った。
「さーて、心。隠していることを話してもらおうか。」
ついにこの時が来てしまった。
ここは武田先生に教わったあのセリフを使うしかない!!
「今は…話したくない。だから、待ってほしい…。その時が来たら、必ず僕から速水に話すから…。」
僕は哀愁を漂わせながらそう言った。
速水が僕のことを友達だと思っているのなら、これ以上聞いてきたりはしないはずだ。
現に、武田先生もそう言っていたし。
「待てるわけないだろ。ほら、早く話せよ。」
どうやら、僕と速水は友達ではなかったらしい。
「速水には、友達に対する優しさはないのか!?」
「ジャーナリストは情報に関しては貪欲なんだよ。」
「確かに。」
速水の言葉に僕は納得してしまった。
「まあ、そこまで話したくないって言うなら、話さなくていいよ。」
「本当!?」
おお!武田先生!あの言葉は確かに意味がありました!
「だけど、俺の質問に対して正直に答えてもらうぞ?」
「分かった。それくらいは譲歩するよ。」
僕は、速水のことを正直、舐めていた。
しかし、速水の情報収集能力は僕の予想を遥かに上回るものだった。
「心、全国異能適性診断の次の日に、隣町で金の異能の原石が何者かに襲撃されたという事件が起きたことは知っているか?」
知っているも何も、当事者の一人である。
「うん。」
「他にも、ここ最近で世界中で似たような事件が起きたことは知っているか?」
「うん。」
だって、リバーシの人たちが原石と異能力者を勧誘してるって言ってたし。
「お前は知らないかもしれないが、30年前のリバーシが活動し始めた時、同じようなことが世界中で起こっていたらしい。規模は今以上だったらしいが、それでも状況はかなり当時と酷似している。」
「そうなんだ。」
「ああ、だから。俺は今回の事件がリバーシによるものじゃないかと思っている。」
「でも、リバーシはもう壊滅しているんだよ?」
僕は、そう速水に質問した。
「ああ。だが、心も知っているだろ?異能は継承される。30年の時間があれば、リバーシのボスと同じ異能を持って、リバーシを復活させる奴がでてもおかしくはない。」
す、すごい…。
速水は、自分の力でリバーシの復活に関する流れをほとんど的中させていた。
「そこで、俺は心に聞きたいことがある。心、お前は金の異能の事件の現場にいただろ?」
嘘…は言えない。
「そうだけど、なんでそれを速水が知っているの?」
速水は自分で聞いておきながら、少し驚いていた。
「おお、まさか本当だったとは…。その日の夜、うちの父さんは隣町で仕事があったみたいでさ、仕事相手を待っているときに裏路地の方にお前が行くのが見えたって言ってたんだ。さすがに気のせいだろうと思ったらしいけどな。」
「それに、隣町の事件には金の原石以外にもう一人、中学生がいたらしい。その情報を知った時、半信半疑だったが、もしかしたら心がその場にいたかもしれないと思った。それに加えて、金曜日のお前の反応だ。あれでほとんど確信したよ。」
「す、すごいな…。」
偶然もあったかもしれないが、それでも速水はあの事件に関してかなりのことを自力で調べて、真実に近づいていた。
「でだ、心。あの現場にいたってことは知ってるはずだよな。金の原石を襲撃したのはリバーシなのか?」
「うん、そうだよ。」
僕は速水の質問に約束通り正直に答えた。
「じゃあ、やっぱりリバーシが復活したっていう俺の予想は当たってたんだな。」
「で、速水はその情報を知ってどうするの?」
なぜ、こんなにもリバーシ復活に関する情報を速水が知りたがったのか気になった僕は速水に質問してみた。
「なんもしないよ。」
すると、速水はあっけらかんとしてそう言った。
「え?なんか特別な事情があったとかじゃなくて?」
「ないよ、そんなん。ジャーナリストは情報を集めること、それ自体が楽しいんだからよ。」
そう言って、速水は、ハハハと笑った。
はあ、こいつにリバーシ復活のことを隠そうとしてたのが馬鹿らしくなってくるよ。
「てか、話したいことも話し終わったし、もう教室戻ろうぜ。」
そう言って、速水は屋上のドアノブに手をかけた。
「あ、そうだ。心、本当はお前にもう一つ聞きたいことがあったんだ。」
速水はそう言って、僕の方を向いた。
「心は本当に無能力者か?」
「なに、当たり前のこと言ってるんだよ。僕は無能力者に決まってるだろ。」
「ま、そうだよな。」
そう言って速水は今度こそ屋上から出ていった。
まあ、無能力者は無能力者でも、最強の無能力者だけどね。
僕は小さな声でそう呟くと、速水に続く形で屋上から出ていった。
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