第11話 幕間Ⅱ (優理視点)
お姉さんの話は信じられない内容だった。
あのリバーシが復活した。異能力者の保護と育成を急ぎたいため、急で申し訳ないが日曜日には白銀学園の寮に引っ越してもらって、月曜からは白銀学園に通ってもらう。
そんなことを言われた。
クラスの皆や心くんと一緒に卒業できない……。
そのショックもあったが、それ以上にリバーシ復活という話が信じられなかった。
「あの、リバーシは壊滅したんじゃないんですか?」
「そうですね、まずはそこから詳しく説明しましょう。」
そう言って、お姉さんは様々な話をしてくれた。
この間、金の異能の原石がリバーシを名乗る連中に襲われたこと、リバーシが異能力者と原石たちを集めているということ。
そして、リバーシの恐ろしさと、私にもいずれリバーシと戦ってもらうことになるということ…。
気付けば、私の身体は震えていた。
リバーシとの厳しい戦い、それに巻き込まれることになるなんて……
異能力者になる以上、そういうこともあると覚悟はしていたつもりだったが、私の覚悟は全然足りなかったらしい。
震えている私に気付いたのか、お父さんがそのお姉さんに向けて言った。
「すいません。今日はもうお帰り頂けないでしょうか?娘もこんな状態ですので、落ち着いたらまた、こちらから連絡させて下さい。」
「いえいえ、こちらも急に来てしまったので、申し訳ありませんでした。また日を改めさせてもらいます。……優理さん。あなたが望むのであれば異能力者になるのをやめるという決断もできます。ですから、あなたが本当に守りたいものを、大切にしたいものを今一度考えてみて下さい。それでは、失礼します。」
そう言って、お姉さんは帰っていった。
その夜、私はリバーシと戦う恐怖で泣いてしまった。
そんな私を、お母さんは私が寝るまで優しく抱きしめてくれたのだった。
次の日の朝、お父さんに学校を休むか?と聞かれたが心くんに会って話がしたかった私は学校に行った。
その日の放課後、私は心くんと一緒に帰った。
いつもと同じように笑顔で話しかけてくる友達や心くんの姿を見て、私はやっぱりこの平和な世界を
私は、私が怖がってるのがばれないように、心くんに私の決意を言ってから白銀学園に行こう、そう思った。
そして、私は心くんに転校すること、そして、私の決意を言った。
きっと、私は心くんに背中を後押ししてもらいたかったのだと思う。
でも、心くんの口から出たのは、今の私が一番言われたくない言葉だった。
「優理、身体震えてるよ?本当は怖いんじゃないの?」
ばれていた…。
心くんは、誰よりも正確に今の私の気持ちを言い当てた。
そこから、心のどこかで無能力者は異能力者に守られるものだと思っていた私と、心くんとで言い合いになった。
言い合いになっているうちに、私はつい感情的になってしまった。
「………心くんたちに何ができるのよ!?」
しまった。これだけは言うべきでなかった…。
いや、これくらい言わなきゃ心くんには分からないんだ。
私がそんな風に思っていると、心くんは静かに私に聞いてきた。
「………優理たちのことは誰が守ってくれるのさ?」
私は、全然反論できなかった。
「一緒なんだよ。無能力者も異能力者も、……。」
心くんの一言で、私は完全に意気消沈してしまった。
「じゃあ……どうしたらいいのよ…。」
私は縋りつくようにそう言った。
心くんが、僕がお前を守ってやる。と言ってくれることを期待していた私がいた。
でも……私の期待通りにはならなかった。
「頼れよ。……優理も敵わない相手だって言うなら、そいつから優理を連れて逃げてやる。………。」
心くんのセリフは、とてもヒーローにふさわしいものとは思えないものだった。
でも、そのセリフはどこまでも自分が無能力者であることを理解してて、そのうえで、本気で私のことを心くんなりに守ろうとしていることが伝わってくるものだった。
自分の逃げ足を誇る心くんを見て、気付けば私の心の中から恐怖心はなくなっていた。
ああ、やっぱり心くんなんだ。
いつだって、暗闇の中で、一人で苦しんでいる私を外に引いてくれるのは心くんなんだ。
だから、守りたい。
義務感とかじゃなくて、心くんが笑顔でいられるこの世界を、大切な家族や友人がいるこの世界を。
もし、失敗したらとか、敵わない相手が現れたらとか、そんな不安が消えたわけじゃないけど、私が逃げたくなったら心くんが一緒に逃げてくれる。
そう思えば、私は確実に前を向いて頑張れる気がするのだった。
そのあと、私たちは家に向かって歩いて行った。
夕日に照らされる心くんの横顔を見る。
かっこいいなあ……。
きっと、私の恋心はもう後戻りすることはできない。
心くん意外に、私は好きになる相手なんて考えられるわけがなかった。
気付けば、私は心くんに話しかけていた。
「ねえ、心くん。私、もう後戻りできないとこまで来ちゃったみたい。」
心くんは私の方を見ている。
「だから、全部が終わったら……責任取ってよね?」
心くんは私の言葉を聞くと、何のことだか分からないといった顔をした。
今はそれでいいよ。
でも、いつか絶対に、嫌でも分からせてあげるから。
私が、心くんのことをすっごく好きだってことを。
そのあと、私は家族を説得して、お姉さんに連絡した。
こうして、私は異能力者になることを改めて決意して、今、白銀学園に向かうのだった。
「なあ、優理。」
今に至るまでの心くんとの思い出を振り返っていると、お父さんが私に話しかけてきた。
「正直、父さんたちはお前が異能力者として戦うことをやめさせようと思っていた。だが、あの日、学校から帰ってきた優理は、私たちでさえ引き留めることはもう不可能だと思うほど清々しい顔で、異能力者になるとはっきり言った。優理を変えたのは、きっと田中君なんだろうな…。」
「当たり前でしょ、お父さん。優理がどれだけ田中君のことを愛していると思っているのよ。」
「え?お母さんもお父さんも何でそのことを……?」
「何年、親やっていると思っているのよ。自分の娘の思い人くらい言われなくても分かってるわよ。でも、少し、寂しいわ。優理はあっという間に大人になってしまったのね。だから、優理を変えてくれちゃった田中君には責任取ってもらわなくちゃ、ね?お父さん。」
「優理、田中君は優理にふさわしい男と自信をもって言えるか?」
「うん。むしろ、私じゃ釣り合わないってそう思っちゃうくらい魅力的な人だよ。きっと、誰になんていわれたって、私は心くんのことを諦めることなんてできない。それだけは自信を持って言えるよ。」
お父さんの質問に、私ははっきりとそう言った。
「そうか。やっぱり、田中君にはうちの可愛い娘を変えた責任を取ってもらわないといけないな。優理、今度、こっちに戻ってきたときは田中君も家に連れてきなさい。」
「うん。分かったよ、お父さん。」
白銀学園に着いて、荷物を降ろした後、家に帰るお父さんとお母さんに私はあることを聞いた。
「お父さん、お母さん。私ね、頑張るよ。でもね、もし疲れちゃったら家に戻ってもいいかな?」
「当たり前でしょ。私たちの家はいつだって家族を迎え入れるためにあるんだから。いつでも帰ってきなさい。」
そう言って、お父さんとお母さんは私を抱きしめた後、家に帰っていった。
寮の部屋で一人になった時、私は心くんから貰ったロケットペンダントを開いた。
そこには、家族写真があった。
私は、その家族写真を外してその下にある写真を見た。
そこには、小さい頃の私と心くんが手をつないで笑顔で立っていた。
その写真を見て、私はこれからの新しい学園生活を頑張ることを誓うのだった。
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