第10話 幕間Ⅰ (優理視点)
「優理、もう忘れものはないな?」
お父さんが、最後の荷物を車に乗せた後そう聞いてくる。
「うん、大丈夫。」
「そうか、じゃあ、そろそろ出るか。」
お父さんはそう言うと、私とお母さんが車に乗ったのを確認してから車を走らせ始めた。
私、聖園優理は今日から白銀学園の寮に入る。
そして、明日からは白銀学園の生徒となる。
昨日は、別れを惜しんだ友人たちが家に来てくれたりもした。
この街で過ごした、たくさんの思い出がよみがえる。
車が心くんの家の前を通る。
田中心くん。私の…大切な幼馴染。
初めて出会ったのは私たちが5歳のころ。今とは違って、小さい頃の私は人見知りなところがあったため、友達がほとんどいなかった。
その日も、自分から友達に声をかけることが出来ずにいた私は、一人で公園でおままごとをしていた。
そんな時だった、一人の少年が私に話しかけてきたのは。
「なんだよー!戦隊ものは絶対、レッドよりも仲間になる前のゴールドとかシルバーの方が格好いいよな?」
「え?」
私は全く状況を理解できていなかったが、その少年の話を聞いているうちに、その少年が友達と戦隊ごっこをすることになったが、配役の中に彼が好きなゴールドとシルバーがなかったため戦隊ごっこをやめてこちらに来たということを理解した。
「も、戻りなよ…。みんなと一緒に遊んだほうが楽しいよ?」
私はその少年にみんなのもとに戻ることを勧めた。
「えー?でもさ、それって君にも言えることじゃないの?」
彼は一人でいる私を見てからそう言った。
「私は…平気だから…。早く、行ってきなよ。」
私は寂しい気持ちを押し殺してそう言った。
しかし、その少年はその言葉に頷くことはなかった。
「んー。そうだ!僕はゴールド、そんで君はシルバーね!!今から、あいつらのとこに混ざりに行こう!」
そう言って、その少年は私の手を引いて戦隊ごっこに乱入していった。
私は初めのうちこそ混乱していたが、そのグループの中に女の子がいたこともあり、気付けば普通にみんなに混ざって楽しんでいた。
それからも、私はその少年に誘われて遊びに混ざりに行ったりした。
気付けば、私が一人で遊ぶことはなくなっていた。
私にたくさんの出会いをくれた少年。
それが、田中心くんだった。
私の中ではっきりと心くんへの思いが変わったのは、私たちが10歳のときのことだった。
その日、私はいつもと同じように友達と一緒に家の近くの公園で遊んでいた。
その日は、いつもより少し早めに解散ということになって、私は友達と別れて家に向かって歩いていた。
その時だった、私が当時、大事にしていたウサギの髪留めをどこかに落としたことに気付いたのは。
幸い、まだ夕日も沈んでなかったので、私は公園に向かってきた道を戻りながら髪留めを探した。
残念ながら、公園までの道の途中には落ちてなく、私はまだ何人かの子供たちが遊んでいる公園で髪留めを探し始めた。
髪留めを一生懸命探していると、誰かが、
「なんだこれ?ウサギの髪留め…?」
そう言ったのが聞こえた。
見つかったことに安堵しつつ、その見つけた人たちに事情を説明して、髪留めを渡してもらおうと思った私は、私よりも上級生に見える3人組に話しかけに行った。
「あの…すいません。その髪留め、私のなんです…。」
「ん?お前、聖園優理じゃん。これ、お前のなの?」
私の方に振り向いてそう言った上級生の人たちは最近、私によく意地悪をしてくる3人組だった。
「は、はい。そうなんです。だから、返してもらえませんか?」
「えー?でも、これがお前のだって証拠ないし、これは俺が拾ったからもう俺のもんじゃない?」
「そ、そんな…。困ります。それはお母さんからもらった大事な髪留めなんです!返してください!」
「うるせーな!知らねえよ、そんなこと。これは俺が拾ったから俺のもんなの、さっさと帰れよ!」
「い、嫌です!返してください!」
そう言って、私は髪留めに向けて手を伸ばして、その上級生の人と髪留めの取り合いをした。しかし、女で下級生の私が力でかなうはずもなく…
「しつけーんだよ!!」
「きゃあ!!」
上級生の人が私を振り払おうとした手がたまたま私の顔に当たってしまい、私は地面に倒れてしまった。
「ふん!弱い癖に俺様に歯向かおうとしやがって、お前には汚い地面の上で寝転がってるのがお似合いだぜ!!」
そういって私のことを笑う3人に対して、私はもう顔の痛みと今の自分の惨めさから、なにも言えず、ただ泣くことしかできなかった。
「ビービー泣きやがって!本当、弱虫は見てるだけで気分が悪くなるぜ!」
「誰か…助けてよ…。」
友達はもうみんな家に帰ってしまったし、夕暮れの公園には私たち以外のだれもいないことは分かってた。
だから、どれだけ助けを求めたって助けてくれるヒーローはいn
「なにやってるの?」
私たち以外いないはずの公園に、よく聞きなれた声が響いた。
私が、恐る恐る顔を上げると、私の目の前に、心くんが私を守る様に立っていた。
何でここに心くんがいるの…?そんなことを考えていると、心くんと上級生たちが会話を続けていく。
「なんだ、お前?」
「僕は、田中心だけど、それより、今、君が持っている髪留めは優理が持っていたものだと思うんだけど、どうして君が持ってるのかな?」
「あん?そんなん俺がこれを拾ったからに決まってんだろ。俺が拾ったもんはもう俺のもんだからな、俺が持つのはとーぜんってわけだ。」
「ふーん。それを優理に返せって言ったら?」
「やだよ。あんまり生意気なこと言ってっと、お前もそこの女みたいに泣かせちまうぞ?」
そういって、上級生たちは心くんを脅してきた。
私一人が傷つくにはいいけど、心くんまで傷つく必要なんてない!そう思った私が心くんを止めようとしたとき、心くんは私に「安心して。」と小さく言って上級生たちに向き直った。
「できるなら、やってみなよ。」
「かっちーん!むかついた。ぼこぼこにしてやるよ!!」
そう言って、上級生の三人は心くんに殴りかかった。
心くんが殴られちゃう!心くんがひどい目にあってしまうことを想定した私は思わず、目をつむった。
…?あれ?殴られた音が聞こえない。
私が目を開けると、そこには三人からの攻撃を華麗によけ続ける心くんの姿があった。
「くそ!!なんで、当たんねえんだ!」
「はあ、はあ、にげんじゃねえよ!!」
「いてっ!ばか!俺を殴るんじゃねえ!!もっとよく見て攻撃しろよ!!」
「すごい…。」
それはまるで次に相手がなにをしてくるか全て分かっているかのようだった。
最小限の動きで攻撃を心くんが全てかわすため、上級生の三人組は味方同士の攻撃があたったりしていた。
そして、しばらくすると、動き続けて疲れたのか三人組は地面に座り込んでしまった。
「ねえ、優理に髪留め、返してくれるよね?」
心くんが三人組の近くに行ってそう言った。
「な、なんだよ!くそ、返すよ!返せばいいんだろ!」
そう言って、髪留めを心くんに渡して、上級生たちは逃げるように帰っていった。
何が起こったのかまだ把握しきれずに、呆然としている私に心くんが髪留めを渡してくれながら話しかけてきた。
「こわくなかった?大丈夫だった?」
いつもと同じように優しく聞いてくる心くんの声を聞いて、思わず私は心くんに抱き着いて泣いてしまっ
た。
そんな私を、心くんは私が泣き止むまで優しく受けとめてくれた。
そのあと、心くんが私の手を引いて家まで送ってってくれた。
そして、私が家に入る直前で私は心くんに改めてお礼を言った。
すると、心くんは、
「僕には、優理を泣かせずに助けたり、泣かせないようにすることはできないかもしれない。でも、もし、また優理の涙の音が聞こえたら、その時は必ず優理のもとに駆け付けるよ。」
私にそう言ってくれたのだった。
この日、私は心くんへの恋心を自覚した。
それから、私はまるでヒーローみたいな心くんに釣り合う女性になれるよう努力した。
そして、私たちが15歳になったとき、全国異能適性診断の日がやってきた。
私にはどうやら、「治癒の異能」への適性があったらしく治癒の異能力者として活動することになったのだった。
そして、心くんは……無能力者だった。
全国異能適性診断の次の日、私は心くんをあの公園の前で待ってた。
すると、いつも通り心くんがランニングしてくるのが見えた。
心くんは私に気付いたのか、立ち止まって話しかけてくる。
「優理?どうしたの?こんなところに立って。」
私は、心くんに今度は私が心くんやみんなのことを守ってみせると言った。
そう、あの日、私を助けてくれた心くんの様に今度は私が……そう思って、心くんにそう伝えた。
でも、心くんの返事は思っていたのとは違った。
「優理!僕は確かに無能力者だけど、優理に守られるほど弱くはないし、優理が異能力者だろうとなんだろうと僕にとって優理は優理だからね。」
そう言った心くんの目は、私の手を引っ張ってくれたあの日と同じ綺麗な目をしていた。
やっぱり、心くんは異能があるなしに関わらず心くんなんだな…。
そう思った私は、微笑みながら心くんに、またね!と言って、立ち去った。
心くんとあの公園で話し合った次の日だった。
私の家に、全国異能適性診断の後に、異能力者に関する説明をしてくれたお姉さんがやってきたのは。
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