第17話 中三の冬の夜

戦鬼はコンテナにもたれかかるように座っていた。


やったか…?


いや、この程度やられるような奴じゃない。


僕がそう思った時、戦鬼は突然笑い出した。


「…はは!はははははは!!最高だ!!久々に戦いがいのあるやつを見つけることが出来た!」


そう言うと戦鬼は立ち上がり、笑いながら僕に近づいてくる。


「さっきのはかなり効いたぜ?久々に俺に痛みってやつを思い出させてくれたんだ。ちゃんと、お礼しとかないとなあ?」



戦鬼は全身をあらゆる武器に変えて、さっきとは比べ物にならない速さで襲い掛かってきた。


銃弾、そして刀での薙ぎ払いからの刀に変えた足での蹴り……左足のバズーカからの砲撃、そしてライフルによる銃弾の雨。


絶え間ない攻撃が僕を襲い続ける。


それらを短剣や投げナイフ、ベレッタを使いながらなんとかいなし続けるが次第に手数の多さに圧倒されつつあった。


まずいっ!


パーフェクト・ゾーンで何が来るか予測できても、この手数じゃ身体の反応が追い付かない…!!


ギインッ!!


僕が持っていた短剣が戦鬼の刀によって弾かれる。


戦鬼はニヤリと笑うと腹を戦車の砲身に変えると、特大の一発を放った。


やばっ!!



ドオンッッッ!!!



一際大きな音が夜の港に鳴り響く。



「ぐはっ!くっそ……。」


間一髪、直撃する気がした僕はコートを身代わりにして横っ飛びすることで直撃は免れたが、それでも…衝撃により、コンテナに叩きつけられていた。


「おお!まだ意識があるのか!!いいね、いいね!もっとやりあおうぜ!!」


そう言って、戦鬼はもう一度僕に襲い掛かろうとする。


くっそ……戦闘狂が…。


美月さん…約束、守れそうにないです…。


僕は、ボロボロの身体を起こして短剣を構える。


そして、戦鬼が僕に斬りかかろうとした時……。




「戦鬼!もう終わりだ!!」


大きな声が響いた。


戦鬼はその声を聞き、動きを止める。


「もう、20時半を過ぎる。これ以上、出発の時間を遅らせるとボスの言った時間に間に合わなくなるぞ。お前も知っているだろう?ボスの厳しさは。」


「あーん?あと少しくらいいいだろ?」


「ダメだ。」


「ちっ!これからだってときによ……。」


戦鬼はそう言って、しぶしぶ船の方に戻っていく。


「ああ、ちょっと待て。てめえ、名前は?」


船に入る直前で戦鬼がそう聞いてくる。


僕が返事をしようとした、そのとき…。


「シン。そいつは最強の無能力者のシンだ。」


先ほど、戦鬼を止めた男がそう言った。


「あん?なんだ?剛鬼、てめえはこいつのこと知ってんのか?」


「ああ、以前に少しな…。」


「へえ…。剛鬼が名前を覚えるってことはてめえはかなり”いい”みたいだな。」


なんかよく分からないけど、助かったのか…?


「オーケー。シン、名前は覚えたぜ。またやりあおうぜ。その時には、もっと強くなってくれてると嬉しいけどな。」


そう言って、戦鬼は船の中に消えていった。


剛鬼がこちらを見ている。


「なんだ…?」


僕は思わずそう聞いてしまった。


「これが今のお前だ。いくら、最強の無能力者でも異能力者には勝てない…。」


「僕を笑いに来たのか…?」


「…一年後だ。我々は一年後に白銀学園を襲撃する。悔しければ、這い上がってこい。」


剛鬼はそう言い残し、船の中に帰っていった。


僕は、ただ沖に消えていく船を後ろから眺めることしかできなかった。






くそっ…!


なにが強キャラだ…!なにが最強の無能力者だ…!


僕には…力が足りない…。


今まで、僕は剛鬼と美月さんと戦ってきた。


その戦いで僕は自分は異能力者と戦える、と思っていた。


でも、現実は全然違った。


あいつらは…リバーシの異能力者は僕の想像の遥かに上を行く強さを持っていた…。


僕が目指すのは強キャラなんだ。


劣勢の状態から敵に見逃されて助かる…そんなキャラじゃない!!


さっきの剛鬼の立ち振る舞いを思い出す。


悔しいけどあの瞬間、剛鬼は完全に強キャラだった…。


今のままじゃ、ダメだ…。


理由は分からないが、剛鬼は確かに一年後に白銀学園を襲撃すると言っていた。


なら、この一年で鍛え上げる。


あいつらを、リバーシの異能力者たちを圧倒できるくらいに…!


自分のやりたいことをやるためには力がいる…そんなことは分かっていた、分かっているつもりだった。


僕は今日、初めて僕が目指している強さの片鱗を見ることが出来た気がした。




この後、度重なる大きな音と通信機が遮断されたことを不審に思った美月さんたちが様子を見に来るまで、僕は悔しさに打ち震えていたのだった。





***

<side 剛鬼>


ある国の大きなビルの地下室。


そこに俺たち、リバーシの中でも特に力のある八人の異能力者、「八鬼神はちきじん」が集められていた。


かつて、異能力者の強さを見た人々がその姿を見て「鬼人」と言ったらしい。


そこからとって、鬼人たちの中でも特に強く、まさしく鬼人を超えた鬼神として俺たち八人は八鬼神と呼ばれて恐れられていた。


リバーシは世界中で活動する組織だが、日本風の名前が付いた理由は先代と現在のボスが供に日本人であるということが大きく影響しているのだろう。


「なんだよ、割と余裕で着いたじゃねえかよ。」


後ろで俺に向けて、文句を言っているのは戦鬼の名を冠する男だ。


「送れるよりは何倍もマシだろう?」


「でもよー、もっとあのシンってやつとも戦いたかったんだけどな。」


「お前、あの時本気を出しかけていただろ?お前が本気になってしまえば簡単には止められなくなる。だからこそ、止めるならあのタイミングしかありえなかった。そもそも。それまでに決着を付けなかったお前が悪い。」


文句をいう戦鬼に俺はそう言い放つ。


「まあ、そうだけどよ…。」



「へえ。戦いのことしか興味がない戦鬼がそこまで興味を持つなんて珍しいわね。」


そう言って、こちらに話しかけてきたのは「淫鬼いんき」と呼ばれる女だった。


「げっ…。てめえかよ。言っとくけど、てめえには絶対に教えないからな。剛鬼もこいつだけにはシンのこと言うんじゃねえぞ。」


「あら、どうして私には教えてくれないのかしら?仲間外れは良くないと思うわ。」


淫鬼は悲しそうな顔でそう言った。


「そんな顔しても無駄だっつーの。お前に俺が狙ってたやつを持ってかれた回数は数知らねえからな。今回の奴は絶対に教えねーよ。」


「でも私は悪くないわ。彼らが勝手に私に引っ付いてきただけだもの。」


淫鬼は悪びれる様子もなくそう言った。


「ちっ!てめえのそういう態度がイラつくんだよなあ。」


戦鬼は淫鬼の態度にかなりイラついているようだった。


「あら、怖い怖い。助けて~、「雪鬼ゆき」ちゃーん。」


淫鬼はそう言うと、まだ中学生くらいに見える女の子に抱き着いた。


「…やめて。」


雪鬼は淫鬼に抱き着かれて嫌そうな顔を見せる。


すると、奥の方から残る八鬼神が姿を現した。


「淫鬼ちゃんと雪鬼ちゃんが二人でイチャイチャしてる!?くーっ!!これはたまらないね~!。」


「ほっほっほっ!若いとはいいもんじゃのう。」


「……。」


「ふひっ。」


姿を現したこいつらは、順に「贋鬼がんき」、「邪鬼じゃき」、「陰鬼いんき」、「疫鬼えきき」の名を冠する者たちだ。


久しぶりの八鬼神の集合に各々が軽く挨拶を交わし、雑談をする。


「時間だ…。」


俺がそう呟くと、全員が横一列に並んだ。


その数秒後。


「久しぶりだな…。」


濃密な殺気とともに、いつの間にかボスが現れていた。


「全員知っていると思うが、異能力者の数が全くと言っていいほど集まっていない。」


沈黙が流れる。


「そろいもそろって、だんまりか。まあ、いいだろう。いいか、以前にも言ったように、各国の異能力者養成学校を襲撃する。そこで異能力者、原石、そして使えそうな人材を一気に奪う。狙うのは日本、アメリカ、ロシアの三国だ。特に、日本には新たな異能力者が学園に二人通っているらしい。確実に奪い取ってこい。」


「今回の作戦に失敗は許されない。決行は一年後だ。各々、しっかりと準備をしておけ。」


『はい。』


ボスの言葉に返事をする。



「ああ、一つ言い忘れていた。剛鬼、貴様はしばらく日本の担当を外れて、ヨーロッパに行ってもらう。そこで、異能力者を10人捕獲してこい。それができるまでは帰ってくるな。それが、金の原石を取り逃がしたお前への罰だ。」


「その程度でよろしいのですか?」


正直、驚いた。


俺がした失態は八鬼神を首になり、殺されても文句をいえないくらいのものだったのだから。


「ああ。ただ、貴様が遭遇した無能力者に関する情報を後で私に教えろ。貴様が遭遇した無能力者はもしかしたら私が探し求めていたものを持っているかもしれないからな。」


その言葉に、八鬼神が少しざわついた。


「ボ、ボス…。もしも、その無能力者に出会っちまった時は、極力傷をつけずに生け捕りにした方がいいですか…?」


戦鬼が震えた声でそう聞いた。


「ん?ああ、戦鬼、貴様が戦いたいというのなら自由に戦ってもいいぞ。私が本当に探し求めている人物なら簡単には死なんだろうからな。ただ、殺さないように一応注意はしとけ。」


「はっ!」


戦鬼は戦えることに安心したのか、嬉しそうに返事した。


「他に、聞きたいことがあるものはいないな。」


「一年後だ。我々は一年後にこの世界に宣戦布告する。それまでに各自、準備を怠らないように…。」


そう言って、ボスはいつの間にかいなくなっていた。





「さて、剛鬼に戦鬼よ。おぬしらが出会った無能力者の話を儂らにも聞かせてもらおうか。」


八鬼神、最年長の邪気がそう聞いてくる。


戦鬼は嫌そうな顔をするが、ボスが探し求めている人物である以上、話しておくべきだろう。


「そいつは、最強の無能力者を名乗るシンという男だ。実力はかなり高い。本気を出していないとはいえ、俺と戦鬼に一泡ふかせた男だからな。」


俺の言葉に八鬼神のメンバーは驚いたような顔を見せていた。


「なるほど、それならボスが気にする理由も少しはわかるかもしれんのぅ」


「ねえ?その子、私に任せてくれない?私のものにしたいわ。」


「いいモルモットになりそう…ふひっ。」


「ん〜!それはとても興味深い対象だね!」


「…。」


「…強い相手、気になる。」


八鬼神のメンバーがそれぞれにシンに対して少なからず、興味を持ったようだった。


「ダメに決まってんだろ!あいつは俺の獲物だ!!てめえらも手出すんじゃねえぞ!!」


戦鬼が八幡鬼神の全員を睨めつけてそう言う。


「なによそれ?私たちだって、そのシンって子を狙う権利はあると思うんだけど?」


「ああ!?」


淫鬼の一言で、臨戦態勢に入る戦鬼。


そして、その戦鬼を見て八鬼神のメンバーがそれぞれ臨戦態勢に入る。


八鬼神同士のぶつかり合いになるかと思われたその時、最年長の邪気が全員を宥めた。


「まあ、落ち着け。とりあえずは、様子見でいいだろう。どうせ、儂等が動くのは1年後じゃ、その時にシンとやらが気になるやつは日本を担当する。それでええじゃろ。」


その言葉で、全員が臨戦態勢をとく。


「ちっ!じゃあ、俺は1年後は日本に行かせてもらうぜ。」


そう言い残して、戦鬼はその場をあとにした。


戦鬼に続いて、次々に八鬼神がその場をあとにする。


1人になった俺は、俺を真っ直ぐ見てきたシンの顔を思い出す。


無能力者でありながらリバーシの異能力者に堂々と立ち向かってきたあの姿。


恐らくだが、あの男は気付いてないだろう。


八鬼神を前にして二回も無事でいれたやつなど、異能力者を合わせても数えるほどしかいないということを。


あの男は今の時点でも十分強い。


だが、足りない…。


だからこそ声をかけた。


あの男なら、もしかしたらこの世界を変えられるかもしれない…。


あの男を中心にこれから何か大きなことが起こるような気がして、俺は身震いをするのだった。

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