第3話 いくら自分で分かっていても馬鹿にされるとやっぱりむかつく
僕は、走った。どこへ向かっているのか自分でも分からなかったが、ただ感情に身を任せて走り続けた。
どれくらいの時間がたったのだろうか。気付けばあたりはすっかり暗くなり、僕は人通りの少ない路地裏で一人、ポツンと立っていた。
とりあえず、のどの乾いた僕は近くにあった自動販売機で缶コーヒーを買って、一息つくことにした。
「ふー。さて、ここはどこだ?」
コーヒーを飲みながら今の僕の状況を冷静に考えると、どうやら僕は道に迷ってしまったらしい。
とりあえず、ここはどこなのか、どっちに行けば家に帰れるのかを知りたかった僕は、近くにあった廃墟ビルの屋上から辺りを一望することにした。
「交番に行けよ。」なんて声が聞こえてきそうだが、その交番の位置さえ分からないのだから仕方ない。
それに、廃墟ビルの上から夜の街を見下ろすという、強キャラがいかにもやりそうなことをやってみたかったというのもあった。
廃墟ビルの屋上に上がると、一人の女性がいた。
月明かりに照らされたその横顔はあまりに美しく、気付けばじっと見つめてしまっていた。
「あら、誰かしら?制服……?学生さんがこんな時間にここでなにしているの?」
こちらに気付いた様子の女性がこちらを少し警戒しながらそう聞いてくる。
僕は思った。
この人に道を聞いたらいいんじゃね?と。
ただ、普通に聞くのはダサい。
夜の街、廃墟ビルの屋上。この二つがそろっている以上、雰囲気を台無しにしないようにしなくては…。
今こそ、あの強キャラムーブの特訓の成果を見せるとき!!
「この街を、一望しにきた。」
「街を……?なんのために?」
「自らが進むべき道を確かめるため…。そして、今度は失ったりすることがないようにするために…。」
「そう。でも、子どもがこんな時間にこんなところに来るもんじゃないわ。私は帰るけど、あなたも早く帰りなさいよ。」
女性はそう言って屋上の出口へと向かっていった。
「この街は、本当に退屈しないな…。」
僕は、女性が出ていく直前に街を見下ろしながらそう言った。
いやー!言えたね!人生で一度は言ってみたい言葉シリーズ!
廃墟ビルの屋上だったら、やっぱりこのセリフかなーとは思ってたから言えてよかったよ。
それにしてもあの女性、全然道教えてくれないじゃん。
帰りなさい。って言われても道が分からないんですが…。
まあ、いっか。言いたいことは言えたし。
そのあと、街をながめて大体の自分が進むべき方角が分かった僕は屋上をあとにした。
屋上から一階まで続く階段を降り、二階まで来た辺りで、一階のロビーの方から複数人の話し声が聞こえた。
どうやら、先ほど屋上で出会った女性が黒ずくめの男三人組に囲まれているようだ。
ひとまず、僕はロビーにいる人たちに見つからないように、二階から様子を伺うことにした。
「黙って、俺たちに付いてきてもらおうか。
「どうして、それを…!?あなたたち、一体何者なの!?」
異能という言葉を聞き、僕の心が少しざわついた。どうやら、まだ優理に付けられた傷は癒えてなかったらしい。
そんな僕の心境とはお構いなしに会話は続けられていく。
「知りたいか?教えてやろう。俺たちは、無能力者が国のトップに立っているというこの世界を変え、人類の超越者たる異能力者が世界を支配する世界にするべく常闇から舞い戻った…「リバーシ」だ!!」
「リバーシ?嘘よ!その組織は30年前に壊滅したはずだわ!」
「リバーシ」今の時代にその名を知らない人はいないというほど広く名前が知られた組織だった。
異能力者至上主義を掲げて、数名の異能力者を中心に世界中を大混乱に陥れたことから、歴史の教科書にも名前が載っているほどである。
その被害は絶大で、およそ5年にわたる活動の間にヨーロッパとアメリカの半分がリバーシの手に落ちたとされている。
しかし、状況を打開するべく国際連合が各国に散らばる異能力者に様々な条件のもと協力を取り付け、なんとかリバーシのボスを倒すことに成功したらしい。
ボスが倒れたリバーシは烏合の衆へと変り果て、壊滅したとされているけど…。
「確かに、俺たちは一度ボスを失った。だが、お前も知っているだろう?異能は継承されていくことを。10年前に俺たちの前にボスと同じ異能を持った少年が現れた。そして、その少年の主導のもと俺たちは10年間力を蓄え、世界をひっくり返すためリバーシは復活したのだ!!」
「な、なんですって…!?」
「ボスは優秀な異能力者を求めている。俺たちは、世界中に散らばる異能力者やその原石たちの居場所を探り、勧誘活動を行っている。勧誘に頷くのであれば好待遇を保証しよう。」
「断れば…どうなるのかしら?」
「潰す。」
そういった瞬間、男の全身から殺気が放たれる。
その殺気を直に向けられた金富という女性は身体が震えているようだった。
「賢い返事をしてくれることを祈っているよ。」
「あ、あなたたちの仲間になんて…なるわけないでしょ!!あなたたちの組織にだって無能力者はたくさんいるはずよ!逆に聞くわ!リバーシに所属している無能力者は納得してリバーシに所属しているのかしら?」
すると、先ほどまで言葉を発することのなかったリバーシの一員と思われる右端の人が話し始めた。
「実に、愚かな質問ですね。人類で最も優れている異能力者が人類のトップに立つのは当然でしょう?それに、大統領や総理大臣たちが私たちに何かしてくれましたか?力、富そのいずれかでも与えてくださりましたか?少なくとも、リバーシの異能力者は私に力を与えてくれました。付いていく理由など、それだけで十分です。」
「まあ、そういうことだ。いくら、お前が原石といっても異能を授かるまではただの無能力者と同じだ。大人しく付いてこい。」
「狂ってるわ…!!あなたたち…全員…!何度言われても、答えは変わらないわ!!」
「そうか…。非常に残念だよ。」
そういうや否や、中心のリーダー格の男を除く二人の男が金富に襲い掛かった。
「あまり、原石を舐めないで欲しいわね。」
そう呟くと、金富さんは真っ先に自分のもとに向かってきた大柄な男のパンチを避け、そのまま男の腕を掴んで一本背負いを決めた。
更に、その一本背負いを見て少しひるんだ様子を見せたもう一人の男へ近づき、見事な回し蹴りを決めた。
思ったよりも、あっさり勝負が決まったように思えたが、なにやら様子がおかしい。
攻撃を決めたはずの金富が痛そうに足を抑えてうずくまっているのだ。
「くくく…!残念だったな。金の異能の原石よ。俺は「硬化」の異能力者でな。そこの二人は無能力者だが、全身を俺の異能で硬化しているのさ!」
「な、なんですって…!?どうりで、こんなに硬いのね…。」
なんとか、立ち上がる金富さんに先ほどまで倒れていた二人組が再び襲い掛かる。
「くっ!」
相手の全身に硬化がかかっている以上、不用意に攻撃できなくなってしまったため、金富さんは二人の攻撃を避けることしかできなかった。
なんとか二人の攻撃をよけ続けていた金富さんだったが、先ほどの回し蹴りで痛めた足の影響が出始め、二人組の片割れに捕まってしまった。
「なっ!!くっ!放しなさい!」
両手を抑えられて動けない金富さんのお腹に容赦のない男の拳が突き刺さる。
痛そう…。
恐らく、拳も硬化されていたのだろう。
金富さんは拳一発受けただけで意識を失ってしまったようだった。
これは流石に不味いと思った僕は急いで警察に連絡する。
すると、金富に向けて硬化の異能力者である男が語りかけ始めた。
「やれやれ、異能力者は愚か、異能を少し付与しただけの無能力者にさえ勝てないというのだから、本当に無能力者は救いようのない雑魚としか言えないな。おっと、お前はまだ原石であるだけマシか。」
は?
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