第4話 ゾーンは常時出せるようになったら立派な異能

僕は無能力者だ。あいつが言うところの救いようのない雑魚というやつだ。


確かに、そうだろう。普段の僕ならこんなことでぶちぎれたりはしない。


しかし、タイミングが悪かった。


今日の僕は、優理に煽られたこともあり、異能力者に対して少なからず悪感情を持ってしまっている。


結果、僕は警察に連絡していたのも忘れ、二階からとび降りて硬化の異能力者の前に立った。


「おい。」


硬化の異能力者は、突然現れた僕に驚いているようだったが、僕はそんなことはお構いなしに話し続ける。


「無能力者は、雑魚って言ったよな?」


「ん?なんだお前は?どこから出てきた?」


「今は僕が質問しているんだ。黙って質問に答えろ。」


「なんだと…?まあ、いい。答えてやろう。言ったぞ、事実、無能力者は雑魚だろう?」


「ああ、そうかもしれないな。じゃあ、お前がもし僕に負けたら、雑魚に負けたお前はくそ雑魚ってことになるよな?」


そう言って、僕は目の前の異能力者に向かって突っ込んでいった。


「なるほど、お前は無能力者だったのか。まあ、俺に勝てるというのならやってみるといい。」


そう言って、目の前の異能力者は一歩も動こうとしない。


舐めやがって…!


見せてやるよ、雑魚の意地をな。


僕は、目の前の異能力者の前に行くと、素早く屈んだ。


次に、僕がしてくることに予想がついたのか慌てる様子を見せる異能力者だったが、もう遅い。


僕は異能力者の顎に向けて全力で掌底を放った。


い、いった!!??なにこれ、めっちゃ痛い!?


なんなの、あいつ!?硬すぎでしょ!?


だが、僕の右手を犠牲に放った一撃は硬化の異能力者である男に対しても絶大なダメージを与えたようだった。


「て、てめえ!何しやがった!?」


僕の掌底をまともにくらって、地面に膝をついた状態で動けなくなっている異能力者がそう聞いてきた。


「掌底。相手の内部にダメージを与えることを目的とした武術だ。お前が外側を硬くするというのなら、僕はお前の体の内部にダメージを加えるだけだ。軽い脳震盪を起こしているだろうから無理に動かない方がいいよ。」


悔しそうにしながらも、動くことができない異能力者を無視して、僕はリバーシのメンバーの残りの二人に向かって歩き出す。


自分たちのリーダーが倒されたことに、動揺しながらも男たちは一人では敵わないと思ったのか、ぐったりしている金富を床に置いて二人で僕の方に向かってきた。


顔面へのパンチ。


そして、後ろからの足払い。


まるで、何をしてくるか分かっているかのように二人の攻撃を避けた僕に、驚いた様子を見せる二人。


直感でしかないが、なんとなく相手が次にしてくることが予想できる。


僕には、たまにこうやって異常なほど勘が鋭くなることがある。


僕は、この状態のことを「パーフェクト・ゾーン」と名付けている。


パーフェクト・ゾーンに入った僕は自分でいうのもなんだが、強い。


二人のうちの一人が僕に近距離戦を挑んでくる。


鍛え上げた体術を用いてそいつをいなすが、身体が硬化されていることもあり決定打が打ち込めない。


その時、死角から銃弾が撃ち込まれる気がした僕はすっと右に避ける。


銃弾の飛んできた方向から、先ほど僕から距離を置いて隠れていたもう一人の男を見つけた。


避けられると思っていなかったのか、呆然としており隙だらけだ。


目の前の男に向かって、軽く掌底を放ち怯ませ、僕は隠れていた男に向かって走り出した。


こちらに来ると思ってなかったのか、慌てた様子で銃弾を撃ち込んでくるが、直感を駆使して全て避けることに成功した。


そして、全ての銃弾を避けられたことに呆気をとられている男に向かって助走をつけて、顎と腹に一発ずつ掌底を放った。


掌底を受けた男は白目をむいて気を失っていた。


一人倒した僕は、後ろから僕を殴ろうとしている男のパンチを半身になってよけた。


そして、勢いあまって軽く前のめりになっている男の足を払って転ばせる。


男はなんとか手をついて地面に倒れることは避けたが、隙だらけだ。


その背中に向けて、掌底を放とうとした時……。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


<side 金富美月>


意識を取り戻した私は、辺りを見て目を疑った。


先ほど、自らを硬化の異能力者と名乗った男が地面に膝を付いて苦しそうにしているのだ。


それだけではない。


暗くてよく分からないが、男性と思しき何者かが、さっきまで私を捉えていた二人組と戦っているのだ。


しかも一対ニにも関わらず、相手を圧倒している。


二人組の方はこのままでは分が悪いと感じたのか、一人がその場を離れ姿を隠した。


なにを企んでいるの…?


私がそう思っていると、隠れていた一人が拳銃で男性を狙い打とうとしていた。


なんとか、それを阻止しようとするが、足が痛くて動けない。


そして、ついに拳銃から銃弾が放たれてしまった。


あの男性が撃たれてしまう!そう思った私はハッと息をのんだ。


しかし、銃弾は男性を捉えることはなかった。


その男性がまるでかのように銃弾を避けたからだ。


そのあとも、銃弾をよけ続けた男性はあっという間に隠れていた男を倒した。


そして、もう一人の男も四つん這いの状態にし、いよいよとどめを刺そうとしていたその時、私はさっきまで膝を付いて苦しそうにしていた異能力者の男が背後から彼を殴り飛ばそうとしていたのが見えた。


私は思わず叫んでいた。


「危ない!!」




<side out>

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


いつの間にか、意識を取り戻した、金富さんが叫ぼうとしている気がする。


そして、そろそろあのくそ雑魚異能力者が、起き上がって僕を殴ろうとしている気がする。


とどめを刺すのは一旦諦めて僕はその場から離れる。


すると、予想どおりあの異能力者が僕がいた場所を殴っていた。


「て、てめえ!なぜ避けることができた!?」


「直感だ。」


僕が、さっきの攻撃を避けることができたことに驚きを隠せない様子の異能力者の疑問に堂々と答える。


「ふざけた野郎だ…。もう、お前を舐めたりはしない。これからは俺の全力をもってお前を倒す。」


「こんな雑魚に本気を出してくれるなんて、光栄だね。」


先ほどとは違い、全身から殺気を出して僕と対峙する異能力者。


4:6いや、3:7って言ったところかな、さすがに本気を出されると今の僕だとかなり分が悪い。


逃げ切れるか?いや、あそこでこっちの様子を見ている金富さんを見捨てるわけにはいかない。


くっそー!無能力者の僕に本気なんか出すなよ!!


ばーか!ばーか!


「そっちから、来ないのか?なら、俺から行くぞ!!」


待って!待って!待って!!


もう覚悟を決めてやるしかない。僕がそう思った時だった。


ファン!ファン!ファン!ファン!


どうやら、僕が通報していた警察がついに来たらしい。


「ちっ!警察か…。さすがに今、見つかるのは面倒だな。」


そう言って男はさっきまで四つん這いになっていた男を連れて立ち去ろうとする。


「いいのか?雑魚一人から逃げたとなっては、異能力者様の恥になるんじゃないのか。」


もう相手がこちらに向かってくることがない気がしていた僕がここぞとばかりに挑発する。


「お前を雑魚と言ったことは…悪かった。お前は、俺が本気を出すに足る強者だった。」


「俺は剛鬼ごうきリバースの異能力者だ。お前の名前は?」


「僕は……シン。最強の無能力者だ。」


「そうか。じゃあな、シン。お前は必ず…俺が倒す。」


そう言って剛鬼を名乗る男は立ち去った。


なんか敵に強者認定されたんだけど。


名前も聞かれちゃったし…。


思わず小さい頃から考えてた強キャラムーブするときの名前言っちゃったけど、大丈夫だよね…?


しかも、強者認定されたのがちょっと嬉しくて最強の無能力者とか言っちゃったしなあ…。


でも、思ったより結構戦えたなあ…。


パーフェクト・ゾーンって適当に名前つけてたけど、これ、めっちゃすごいな。


未来予知かってくらい直感があたるし…。


もしかして、僕って異能とは別の未来予知みたいな力を持ってるとか…?

それが、この戦いで覚醒したとか…?


そんなことを考えていると、警察が来て僕と金富さんは保護され、僕らの話を聞いた警察が未だに気を失っているリバーシの一人を拘束していた。


僕と金富さんはそのあと詳しく事情聴取されることになった。

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