第2話 力を手に入れるとすぐ調子にのりたくなる
僕が無能力者ということが判明した全国異能適性診断の翌日、受け入れがたい現実にふらふらしながらも僕はなんとか学校に行くことができた。
早めに学校についてしまった僕はこれからの僕が目指すべき姿について考えていた。
僕は身体を鍛えているから、その辺の大人にも簡単には負けない自信がある。
しかし、それは一般人を相手にした場合の話。異能力者を前にすれば、僕は一瞬で消し炭にされてしまうだろう。
下っ端には勝てるが、主要キャラたちにはどうあがいても勝てない存在。そんなものは僕が憧れた強キャラではない。主要キャラたちの強さを際立たせるために存在するただの脇役だ。
しかし、異能を持たない僕が「異能力者」に一人で挑んで勝つビジョンが全く浮かんでこない。
もう、強キャラになるのを諦めて、街1番の力自慢の肉屋の店主にでもなって下っ端キラーになるしかないのか…?
そんなことを思っていると、速水が僕のもとへやってきて話しかけてきた。
「おはよう、心。昨日はどうしたんだ?急にいなくなったりなんかして。」
「おはよう。昨日はごめんね。急に体調が悪くなっちゃったから先に家に帰らせてもらってたんだ。」
「そうだったのか。もう体調は大丈夫なのか?」
「うん、おかげさでね。」
「そっか、でも今日学校に来てるってことは心も適性はなしだったんだな。」
適性なしという言葉が僕の心に突き刺さるが、動揺を悟られないように平然と僕は会話を続けた。
「うん…。残念ながらね。でも、心もってことは速水も適性なしだったんだね。」
勝手にライバル認定していた速水も適性がないという事実に少し心が楽になった。
「まあ、そうだな。そんなことよりもさ、聖園さんだよ!今日、来てないからみんななんとなく気づいてるんだろうけど…」
やめろ!それ以上言うんじゃない!
「次世代の治癒の異能力者に選ばれたらしいぜ!!」
なんてこった。そう、僕の幼馴染聖園優理はこの度、めでたく異能力者に選ばれたのだった。今日の朝、いつもなら家に迎えに来る優理が迎えに来なかった時点でうすうす嫌な予感はしていたのだ。それがまさかこんな形で当たってしまうとは…。
「そんで、絆の異能力者に選ばれたのは隣のクラスの神崎光らしいぜ。まあ、あいつにぴったりの異能だよな。」
「そ、そうだね…。」
若干、声が震えてしまった。これ以上の会話を続けるとぼろが出てしまうかもしれない。そんなことを思っていると、教室に担任が入ってきた。
「お、先生来たみたいだし、俺も自分の席に戻るわ。」
そういって、速水は自分の席に戻っていった。ふー、危なかった。先生、ありがとう。次から、授業中にもしもここで不審者が襲ってきたらっていう妄想をするときは先生の出番をもっと増やします。なんてことを思いながら、そのあとの学校生活を送った。
「よーし、これで終わりの会を終えるぞ。みんな気を付けて帰れよー。」
そう先生が言ってみんなが家に帰り始める。
「心、一緒に帰ろうぜ。」
速水の誘いにうなずいて、僕は速水と二人で帰った。
速水と別れて家に着いたあと、家でじっとしてても異能に関することが頭の中をぐるぐると回り、嫌なことを考えてしまうため僕は日課のランニングに向かった。
いつものランニングコースをただ無心になって走る。走っていると頭の中がクリアになってすごく楽な気持ちになる。ああ、そうか、僕は今!風になっているんだ…!!
嫌な現実から目を背けて走っていると、気付けばコースの終盤の家の近くの公園まで来ていた。
ん?公園の入り口に立ってるのもしかして優理?
今はあんまり話したくないんだけど、声をかけないわけにはいかないよな。
「優理、どうしたの?こんなところに立って。」
「ここって心くんのランニングコースでしょ?だから、ここで待ってたら心くんに会えるかなって思ってね。」
「僕を?どうして?」
「二人でどうしても話したことがあってね…。ねえ、心くん。この公園で昔、心くんが私を助けてくれた日のこと覚えてる。」
「うん。」
僕らがまだ10歳だったころ、一度だけこの公園で優理が上級生の男の子たちにちょっかいをかけられていたことがあった。その男の子たちは当時から可愛かった優理の気を引きたくてちょっかいをかけてたんだと思う。
そのころから、身体能力を鍛えていた僕は、幼馴染であった優理を救おうという気持ち3割、自分の今の力を試したい気持ち7割で意気揚々と上級生たちに立ち向かったのだ。
「あのとき、誰も助けてくれなくて泣くことしかできなかった私の前に立って上級生たちに立ち向かってくれたよね。三人を相手にしてたのに、簡単に三人を倒しちゃって「大丈夫?」って声をかけてくれて、そのあと私に向けて優しく「君が泣いてたら僕が必ず君のもとにかけつけるよ。」って言ってくれたこと、今でも覚えてるよ。」
ああ、そういえばあの頃は確か…「僕には、君を泣かせずに助けることはできないかもしれない。それでも、君の涙の音が聞こえたなら必ず僕は君のもとにかけつけるよ。」って言ったんだっけ…。
うん、十分恥ずかしいな。いや、でも強キャラを目指すならこの程度の羞恥は耐えなくては…!いや、でも、やっぱり…ぐぬぬ。
なんて葛藤していると、優理が続けて話し始めた。
「あのときね、本当に嬉しかったんだ。きっと心くんはこれからもその強さと優しさで私だけじゃなくて、たくさんの人を救う、まるで「異能力者」たちみたいになるんだろうなって勝手に思ってた。だから、私が異能力者への適性があるってことが分かった時、本当に嬉しかったんだ。これからは私も心くんの隣に立つことができるって。二人でたくさんの人たちを助けることができるんだって。」
「でも、違った。私がヒーローだと思ってた心くんも普通の人たちと変わらない無能力者だった。だから…これからは私が心くんを守るよ!きっと、この治癒も異能はそのためにあるんだって思えるから。本当は、心くんが前にも隣にもいないのは少し寂しいけど…心くんは、わ、わたしのた、大切な人だから、私が守って見せるよ。」
若干、俯きながらも優理はそう言った。少しばかり、顔も赤くなっているようにも見える。少しの沈黙の後、
「そ、それじゃ、私はもう行くね。また、明日。」
そういって立ち去ろうとする優理に向かって、僕はこれだけは言っておかないといけないということを言った。
「優理!僕は確かに無能力者だけど、優理に守られるほど弱くはないし、優理が異能力者だろうと何だろうと僕にとって優理は優理だからね。」
それを聞くと、優理は少し嬉しそうに微笑みながら、
「うん。ありがとう!それじゃ、またね。」
そう言って走り去っていった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
なにあれ!わざわざ、僕のランニングコースに待ち伏せしてまで、異能力者になったこと自慢しに来たの!?
心くんって昔はすごかったけど、今はただの一般人で無能力者だよね。私は異能力者になっちゃったから、無能力者の心くんを守らないといけないのよねー。大変だわー。ってわざわざ伝えに来たの!?
最後らへんとか笑いこらえてるせいか少し顔赤くなってたし!ちょっと俯いてたのも絶対、笑ってるのばれないようにするためだったし!!
最後に、悔し紛れに「俺からしたら、優理なんていつまでもビービー泣いて、僕に助けられえてばかりいる女の子だから!異能力者になったからって調子に乗んなよ!」みたいなことを言ってやったけど、全然きいてなかったみたいだしな…。
むしろ、「負け犬の遠吠えって言ったところかしら。」って感じだったし、完全にあの微笑みは勝者の笑みだったよ…。
優理がまさかあんなに人を煽ってくるような女に育ってたなんて…。はあ…。
あまりの悔しさに盗んだバイクで走りたくなったが、バイクなんて乗れないので体力が続く限り僕は夕焼けに染まる街を走り回った。
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