101人目の異能力者?知りません。僕は最強の無能力者です。

わだち

最強の無能力者誕生編

第1話 無能力の強キャラは大体カッコいい

 「異能力者」そう呼ばれる超常的な力を持った人々がこの世界には存在する。


 その事実をはじめて知ったのは、僕がまだ幼い子供のころだった。そのころから漫画やアニメに出てくる「強キャラ」に憧れていた僕が「異能力者」に憧れるのは必然のことだった。


 その日からの僕は、強く「異能力者」に憧れ、幼いながらも「異能力者になるには強く、賢い人間にならなくてはいけない。」と直感で感じた僕はその日から少しずつトレーニングを開始した。


 幸いにも、親は放任主義のようなところがあったため、僕は自由にトレーニングをして、なりたい自分になるべく努力することができた。


 毎日、ランニングや筋トレなど自分が「これがいい!」と直感で感じたものに取り組みながら身体を鍛えた。


 また、そのころに見ていたアニメに出てくる強キャラが頭脳派だったこともあり、新しい強キャラの姿を見た僕は学力もしっかりとつけた。


 来るべき日にそなえ、強キャラのようないかにも強そうな言動をできるように練習することももちろん欠かさなかった。

 具体的にいうと、人生で一度は言いたいセリフをノートにまとめ、様々なシチュエーションを想定しながら、その時にどのセリフをどのように言うと最もかっこよくなるかを研究した。


 それと同時に僕は「異能力者」のなり方についても調べた。


 その結果、「異能力者」というのは常に世界に100人いて、「異能力者」が死んでしまうか、「異能力者」が誰かに「異能」を譲渡するかのどちらかでしか新たな「異能力者」は生まれない、と言われているということが分かった。


 また、それぞれの「異能」には適正を持った人物が必ずいるらしく、基本的にはより優れた適正を持った人が新たな「異能力者」に選ばれやすいらしい。


 その適正を調査するために15歳の子供を対象に1年に1度、全国異能適性診断というのが行われる。


 そこで「適性あり」と診断された子どもは適性のある異能を持つ「異能者」になにかあったとき、異能力者になるかどうかなどを含めた話し合いが行われるらしい。


 まあ、基本的には「異能力者」になりたいというやつが大半なのだが…。


 なにはともあれ、僕が「異能力者」になれるかどうかが分かるまでにはまだまだ時間がある。それまでに、少しでも僕が目指す強キャラに近づけるよう努力をすることが今は大事だろう。




 月日は流れ、僕は15歳になった。


 ついにこの日が来た…!!


 そう!全国異能適性診断!!


 僕がここまでの道のりを思いふけっていると、誰かから急に声をかけられた。


「おはよう!しんくん。」


「ん、優理か。おはよう。」


 こいつは聖園優理みその ゆうりいわゆる幼馴染というやつだ。セミロングのやや茶色っぽい髪に毛の優しそうな顔つきの可愛い女の子だ。老若男女問わず誰にでも優しい性格も相まって一部の男子からは聖女と呼ばれているらしい。


 僕は親同士が知り合いだったということもあり、小さいころからちょくちょく遊んでいたため仲は良い…と思う。


「今日は、異能適性診断だね。私、昨日からドキドキしちゃってあんまり眠れなかったよ。心くんはどう?あんなに異能力者になりたいって言ってたんだし、緊張してるんじゃない?」


「今は、緊張というよりは楽しみの方が大きいかな。異能力者になってからのことを思うとわくわくするよ。」


「ふふっ、なにそれ。その言い方だと、もう適性ありって診断されるのが決まってるって聞こえちゃうよ。」


「いや、別にそんなつもりで言ったわけじゃないよ。」


「分かってるよ。それじゃ、私、こっちだから。お互い適性があるといいね。またね!」


 そう言って優理は自分が診断を受ける場所へと向かっていった。


 さて、それじゃ、僕も自分が診断を受ける場所に行きますか…と、その前に…


「速水。いるんでしょ。隠れてないで出て来なよ。」


「ありゃりゃ、ばれてたか…。」


 なんとなくで言ってみたのに本当にいるとは…。


 木の陰から出てきたこの男子は速水隼人はやみ はやと。学校内にいる俺の数少ない友人

 の一人だ。父親が新聞記者ということもあり、様々な情報に詳しく、小学校では情報屋なんてよばれてたりする。顔もそれなりに整っており、一部の女子からかなり人気らしい。ちなみに、「異能力者」に関する情報や優理が聖女と呼ばれているなどの情報をくれたのはなにを隠そうこいつである。


 僕は密かにこいつを将来的に強キャラになる可能性のあるライバルだと勝手に思っている。


「なんで、そんなとこに隠れてたのさ。出てくればよかったのに。」


「いやいや、俺にはあんな仲睦まじく話をする2人の邪魔はできませんよ。」


「そっか。まあ、僕はこっちだから。またね。」


 そういって立ち去ろうとする僕を速水は少し焦ったように呼び止める。


「ちょっと、ちょっと、待ってくれよ!心もあっちの部屋なんだろ?一緒に行こうぜ。」


 そんなこんなで、僕は速水と二人で僕たちが診断を受ける部屋へと向かった。


 部屋の中に入ると、診断を受けに来たであろう子供たちがたくさんおり、アナウンスで名前を呼ばれた子供から診断を受けてるようだった。


 それにしても…この雰囲気は…


「なんかやけにみんな興奮してるみたいだけど、毎年こうなの?いくら異能力者になれるかもしれないといっても興奮しすぎな気がするんだけど…。」


 部屋の中の少し異様な雰囲気が気になった僕は速水に聞いた。


「いや、今年はちょっと時別かな。」


「特別…?」


「ほら、先週に絆と治癒の異能力者様が引退を発表しただろ?覚えてないか?」


 ふむ。たしか、先週は異能診断で異能力者として異能を手に入れた時を想定して、「ぼくのかんがえたさいきょうの異能力者ノート vol.75」の制作に忙しかったからな…


「覚えてない。」


「だいぶ、テレビとかにも取り上げられてたぞ…。」


 呆れたようにそういう速水に僕は話の続きをするよう促した。


「それで、その引退の発表がどうしてこの熱気につながるの?」


「異能力者には、その異能力者が引退するときに異能を譲渡する適正のある子ども。いわゆる原石とよばれる子供たちがいることは心も知っているだろ。でも、引退した絆と治癒の異能力者の原石はまだ見つかってないんだ。それなのに、このタイミングで引退を発表したってことは今回の全国異能適性診断で絆と治癒の原石が見つかるってことじゃないかって噂が流れてんのさ。」


「なるほど…。自分が選ばれる可能性が少なからずあるからみんな、興奮してたんだね。」


「そういうこと。まあ、ほぼ毎年原石に選ばれる子供はいないからね、いたとしても大体1人だから、そりゃ、期待しちゃうよねってわけ。」


 なるほど…、そういった事情があるのか。それにしても、絆と治癒か…どちらも主人公向きであまり強キャラっぽくない異能だよな…。


 どちらかというと、闇の異能とか、雷の異能とかそういう感じの異能が良かったが…。


 そんなことを考えていると速水が更に僕に対して質問してきた。


「心は絆と治癒だったらどっちの異能力者になりたい?」


「その2択なら、治癒だね。絆は僕の性格には合わない気がするし。」


「たしかに、心は友達めっちゃ少ないもんな。顔はいいんだから、もっと愛想よくしてればいいのにさ。」


「うるさい。僕は今で満足してるからいいんだよ。」


 だが、治癒か…。絆と比べて治癒の方がましだと思ってそういったが、意外にありかもしれない。


 そうだ!治癒の異能があれば細胞とか筋肉が壊れちまうような動きも、壊れたらすぐに直すことができるから戦闘にも十分活用できるし、日々のトレーニングもより効率的にできるようになるな!


 うん!!治癒の異能!ありだ!むしろ、治癒の異能以外がかすんで見えてきたまである。


 そんなことを考えていると…


「田中さん。田中心たなか しんさん。診断室へ来てください」


 というアナウンスが聞こえてきた。


「お!心。呼ばれたみたいだぜ。行って来いよ」


「うん。それじゃ、またね。」


 そういって僕は診断室へと向かっていった。


 診断室に向かうと血液を採られたり、専用の機械で身体を調べられたりした。その後、およそ1時間程度で結果が出るといわれたため待合室で僕のあとにすぐやってきた速水と二人で他愛もない話をしながら結果を待った。


 そして、1時間後僕の名前が呼ばれ狭い個室で髪の長いきれいなお姉さんに結果を告げられた。


「田中心さん。結果が出ました。」


 この時の僕は自分が異能力者になれると不思議と信じ切っていた…。


 だからだろう、僕がこの日の結果を告げられてからのことをあまり覚えていないのは…。



「あなたの異能に対する適性は…ありません。」



 きれいなお姉さんは淡々とそう告げた。


 どこかから歓声が聞こえたような気がしたが、ただ告げられた言葉に呆然としていた僕が自分にたたきつけられた現実を認識することができたのは自分の部屋に戻った時だった。



 僕は異能力者にはなれなかった…。


 

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