第14話 裏口のドアには魔法が掛けられていた

 私は席から立ち上がり、狭い通路を通り易くするために広がるスカートを両手で窄めるように持ち上げ、オンダ・サンの後を付いて行く。

 脱出口までの道のりは、然程長くはない。これくらい爺やなら、楽勝であろう。私が小屋の中に入る前に爺やが脱出すれば、そのまま一緒に逃げられる筈だ。

 懸念するとしたら、この『オンダ・サン』が、どのような能力を持っているかだわ――――。さっきは変な呪文を唱えていたし、また新たな呪文を使うかもしれない。

 この世界は、まだまだ未知数だ。アイテムを揃えてレベルを上げるまで、辛抱するしかないわね。

 

 オンダ・サンが、裏口のドアを開ける。開いたドアから見えた景色は、さっき私と爺やが最初に居た『クルマ』があった場所だった。取り敢えず、他の世界に飛ばされることはなかったようだ。

 オンダ・サンと私が外に出ると、ドアはカチャと音を立てて閉まった。

 さぁ爺や、あとは任せたわよ――――!

 小屋の入り口に向かいながら、背中を意識を集中させる。

 早く、早く爺や、出てきなさいな!

 もう出て来てもいい頃なのに、爺やが小屋から脱出した気配がない。

 若しかしてテンチョウに捕まった!? それとも罠が仕掛けられていたとか? オンダ・サンにとって私と爺やが離れるのも計算の内だったのかもしれない。

「しまった……やられたわね……」

「ん? どうかした?」

 私の独り言に反応して振り返るオンダ・サンと目が合った――――。その瞳が、怪しく光る。途端、胸の中に言い知れぬ不安が膨れ上がってきた。

 今直ぐ、爺やの所へ戻らねば――――!

「戻るわ!」

「え、トイレは? お腹は大丈夫なの!?」

「もう平気よ! だから爺やの所へ戻る!」

「はぁ? そこで何で爺や?」

 オンダ・サンの言葉を無視して、私は裏口のドアへ急いで走って行く。

「ちょっと、待ちなさいよマクリールお嬢様!」

 今、私に戻られたら不味いと思っているのか、オンダ・サンが慌てて私を追いかけて来た。

 オンダ・サンの慌てようから、今ならまだ爺やを助けられるに違いない。やはり易々と私を外に出したのは、爺やと引き離すためだったのね。爺や、耐えるのよ! ここを耐えれば、きっとニホンエン金貨もゲット出来て、ファーストステージもクリアよ!

 

 所詮小さな小屋、裏口ドアまで直ぐに辿り着いたが――――ドアが開かない!

「な、何で? 鍵が掛かっているの!?」

 ガチャガチャとノブを回すが、全然開かない。鍵を持っていない私は、開ける術を知らない。

「爺や! 爺や、無事なの!?」

 ドンドンとドアを叩いて、大声で爺やを呼ぶ。

 爺や、無事でいて頂戴――――じゃないと、私が危ないじゃないの!!

 前の世界でもそうだったけど、爺やが色々とフォローしてくれたから、悪役令嬢として暗躍も出来たのだ。

 この世界でスーパーヒロインになるためにも、私には爺やが必要なのよ!

「爺や! 無事なら返事をして頂戴!」

 必死な思いでドアを叩いて呼び掛けると――――

「マクリールお嬢様ぁぁぁ……」 

 悲壮な声だが、確かに爺やの声が聞こえた。


「爺や! 無事だったのね! ドアを開けて!」

「それが、ドアが開けられぬのでございます」

「何ですって……」

 さっきオンダ・サンは簡単に開けていたのに、爺やには開けれないというの!? やはりドアに魔術を掛けていたのね。

「オンダ・サンめ……一体どんな魔術を使ったの……」

「いや、魔術なんて使ってないし、元々使えないから」

「なっ!」

 振り返ると、オンダ・サンが肩を揺らして笑っている。爺やの元に戻る前に、追い付かれてしまった。

 ドアも開かないし、逃げ道がないではないか。絶体絶命だわ――――!


 私は半分、諦めモードで力が抜けていく身体を壁に預ける。

「もう……ジ・エンドなのね……」

「はい? さっきから言っていること面白いよね~。ドア開けるから待ってて」

 オンダ・サンは口元に笑みを浮かべながら、前掛けのポケットから鍵を取り出して裏口のドアを開けと、そこには床に膝を着いて項垂れている爺やがいた。

「爺やさん、どうしたの?」

「爺や……」

「マクリールお嬢様……」

 オンダ・サンに掛かれば、こんなにも簡単に開閉するのに、ドアが開けられなかったことは爺やにとっては屈辱的であっただろう。でもこればかりは仕方がない。

 私もその場にしゃがみ込み、爺やの方にそっと手を載せた。

「爺や、気にするでない。爺やが無事で良かったわ」

「お嬢様ぁぁぁ!」

 主人の寛大な態度に感涙の涙を浮かべるサーディン。私たちは改めて、固い主従の絆を確かめ合った。めでたし、めでたし――――。


 ――――とはならなかった。

「あのさ~。感動に浸っている所悪いんだけど、あんたたち、一体何者なの? さっきからやり取りも行動も変だし、ただのコスプレイヤーじゃないよね?」

「え……」

「むむ……」

 美しいオチがつく所だったのに、オンダ・サンが鋭い突っ込みを入れてくる。

 これはいよいよ、私たちが元の世界をバグらせたのがバレる時が来てしまったのか――――。

 まだファーストステージもクリアしていないんですけどぉぉぉ!


 どうする悪役令嬢マクリール!?

 このまま新しい世界のヒロインを続けられるのか?

 はたまた切ない悪役令嬢設定の世界の元の世界に戻されてしまうのか!

 さぁ私の運命に、如何なることになるのかぁぁぁ――――!




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