第13話 小屋からの脱出作戦を開始してみた
「とにかく結構な金額だから、支払って貰わないと困るんだよね」
「どれくらい食べたんですか?」
「特盛二丁にトッピングを殆ど食べて、合計四千二百六十円なんですけど」
「それは結構、食べてるね。なのに支払いが出来ないって……」
「見たことがない金貨なら持っているそうなんです。せめてそれを日本円に両替して貰えたらいいんですけど」
「一人だけ残って貰って、もう一人に両替に行って貰ったら?」
「でもちょっと話が通じない所があるので、それも不安なんですよね~」
「日本のコスプレイベント好きの外人さんが、興味本位で牛丼屋に入っちゃったのかもね」
「それにしても、日本に来るなら両替してきても良かったと思いますけど」
「カード使えると思ったんじゃない?」
「う~ん。やっぱりカード使えないのは不便なのかな……」
「あ、お客さんだ! いらっしゃいませ~!」
「恩田さん悪いけど、この人たちの相手していてくれるかな?」
「別に良いですけど、土井さん、上がりの時間じゃ?」
「そうだけど、この人たちのこともあるから、土井さんにはもう少し残っていて貰うよ」
「分かりました。仕方ないですね」
三人は忙しなく、何やら作戦会議をしている――――。
途中で賢者候補の娘が会議から抜けたが、もう賢者は他で探すことにしよう。
テンチョウとオンダが神妙な面持ちで会議を続けていた。この隙に乗じて何とか脱出を図りたいけど、小屋の構造を把握していないから何処から抜け出せばいいものやら。
考えあぐねていると、爺やがこっそりと耳打ちしてきた。
「お嬢様……先ほど奥の方を探しに行った時に、あのオンダという者が扉を開けて入って来たのでございます」
「っ!?」
声を出すと、私たちの作戦がバレてしまうかもしれないと思って目配せで答える。心得たように爺やは頷いて、そのドアがある方へ指を差した。
なる程、裏口もあったのね。小屋の割には、出入り口が多いわね。さっきの銀の大扉といい、ここはただの小屋じゃないことは分かったわ。
この小屋の謎は追々考えるとして、先ずはここから無事に脱出することが先決である。
脱出するルートはあっても、一番の問題は――――『狭い』!
今いる部屋も狭いし、通路も人一人通るのがやっとなスペースなのが難易だ。
裏口への通路は爺やの背中の直ぐ後ろにも関わらず、真横でテンチョウとオンダが居るから、私が逃げようものなら直ぐに掴まってしまうであろう。
ここは爺やだけでも逃がして、私は囚われの身になるしかないのかしら――――。
爺やなら絶対後で私を助けに来てくれる筈だし、若しくは王子を連れて来る可能背だってあるかもしれない!
そうよ――――ヒロインは大抵、最初は苦労するのよ。薄幸のヒロインから、幸せの階段を一気に昇ってこそ真のヒロインストーリーなのだから!
我ながら見事なシナリオ展開に思わず高笑いしたくなるのを堪えて、作戦を爺やに耳打ちした。
「ここは敢えて私は囚われの身になるから、爺やだけ脱出しなさい」
「何ですと!」
私の斬新なアイデアに驚いた爺やは、うっかり大きな声で反応してしまった。無論、この声に気付かない訳がないテンチョウとオンダも驚いてこっちに振り返る。
「どうかした?」
「何かありましたか?」
爺やの失態で、折角の『囚われのマクリール脱出作戦』は、ものの数秒で終了した――――。
顔を顰めて爺やを睨むと、申し訳なさそうに肩を窄めている。爺やを叱りつけたい衝動に駆られたが、今はそんなことをしている場合ではない。説教はまた、小屋を脱出するまで置いておくことにする。
こうなったら他の方法を考えるしかないわね。何かいい方法は、ないかしら。あ! この作戦はどうかしら? 上手くいくか分からないけど、隙は作れるかもしれないわね――――。
私は気を取り直して、オンダに呼び掛けた。
「ミス、オンダ……とお呼びしても宜しいかしら?」
「え? いや、恩田さんでいいけど」
「オンダ・サン……まぁいいわ。私、食べ過ぎたせいかお腹が痛くなってきたのだけど、お薬とか頂けないかしら?」
「変なアクセントね。えぇっ! マジ? 胃腸薬とかないから、取り敢えずお手洗いに行った方がいいかもね」
オンダの反応に、私は確実な手ごたえを感じる。
よしっ! いい感じに乗ってきたわ――――。どんな切っ掛けであれ、この状況を打開出来れば何とか爺やを脱出させられる可能性が高まる。
「お手洗いは店内だから外から回って行く感じだけど、いいかな?」
「構わないわ。案内して貰えるかしら?」
「てか、まだ役になりきってるの? 面白いけどさ~。じゃぁ私の後をついてきてくださいな。マクリールお嬢様」
茶化した態度のオンダに、私は内心ほくそ笑む。
作戦は思いの外、良い展開になってきた。外に出られるなんて好都合だ。
「爺や、ちょっと悪いけど暫く待っていて頂戴」
そう言って意味深に微笑むと、爺やは私の胸の内を察して深々と頭を下げる。
「はっ! お嬢様、お気を付けて!」
「ここは任せたわよ……爺や」
「ただトイレに行くだけなのに、大袈裟だね」
私と爺やのやり取りの意図を理解していないオンダ・サンは、肩を竦めて苦笑した。
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