第二ステージ
第10話 『ニホンエン金貨』を探し始めた
あぁ、どうしてなの――――。
私はこの世界のヒロイン、マクリールよ!
まだ王子にも会えていないのに、ここで終わる訳にはゆかぬ。
爺や以外に、私を救ってくれる者は現れぬのか?
誰か、誰かおらぬか――――!!
私はショックで床に崩れ落ちたまま、しばらく動けないでいた。
「お嬢様! 大丈夫でございますか? お気を確かに! 爺やが何とかします故に!」
そんな私の状態に心配した爺やも、座り込んで慌てだす。だけどいくら万能な爺やでも、この状態をクリアするのは難しそうだ。
大体なんで、金貨なのに使えないのよ! 『ニホンエン』って、どんな硬貨なのよ!
「お嬢様、ここでお待ちください。爺やがこの世界の金貨を調達してきますぞ!」
爺やはそう言ったものの前の世界と違って、今回のヒロインは私なのだから、私が何かしらクリアしていかないと、ニホンエン金貨も手に入らないであろう。
ではどうすれば良いのだ? このままイベントが始まってしまったら、ステータスが足りなくて参加が叶わないじゃないのぉぉぉ――――!!
「爺や……それはきっと無理だわ……」
「でも、お嬢様! でしたらどうすれば!」
「考えるのよ爺や……考えて……何かここをクリア出来るヒントを探すのよ」
「ヒントですと! は、畏まりました! この小屋に、ニホンエンが貰える壺があるかもしれませぬしな」
「えぇ、良く見渡してみて」
「ははぁ! 爺や探し物も得意ですぞ!」
そうよ何とかなる。きっと――――!
「あの~。お二人で勝手に盛り上がっている所、申し訳ないんですが~そろそろお会計をどうするかお答え願いますか?」
これからその『オカイケイ』をするためにニホンエン金貨を探そうとしているのに、小屋の娘は急かしてくる。
賢者にしてやろうと思っていたのに、こんな容赦に攻撃をしてくるとは! それとも――――最初は敵役で嫌がらせをしてきて、クリアしたら味方になるパターンかしら? 王道パターンでもあるから、あり得るかもしれない。なら尚更ニホンエン金貨を早くみつけなければね!
「娘、大丈夫よ! 今からニホンエン金貨を見付けて見せるから、少し待ってなさい」
突然、勢いよく立ち上がった私に驚いたのか、娘は物凄く慌てだした。
「見付けるって? どこからですか!?」
「どこからって、この小屋の中からよ!」
「へ? 小屋!? ここは牛丼屋ですよ。小屋なんかじゃないですし、お客様に差し上げるお金もありませんから!」
前向きになった私たちを邪魔しようとしているのか、娘は惑わすような言葉を次々に言ってくる。
それは腹ただしくも思うけど、王道パターンだし、ヒロインになるためには必要なステップだもの、今は我慢してニホンエン金貨もこの賢者候補も必ず私の手中に収めてやってよ!
「娘よ! 私は必ずこのステージをクリアして、お前を賢者として召し使えさせてやろうぞ!」
「えぇっ!? 話が全然通じないんですけど~! 店長……てんちょうぅぅぅ――――!」
私の迫力に恐れをなしたか、娘はあっさりと引きざがった。何か叫んでいたが、気にするまい。
「さぁ爺や、今の内に『ニホンエン金貨』をゲットするのよ!」
「はい! 流石お嬢様、お見事でございます!」
私と爺やは二手に分かれて、小屋の中を捜索し始めた――――。
「一体どんな形状なのかしら……ニホンエン金貨が入っている容器は……」
さっき爺やは壺みたいなといっていたけど、どこを見渡しても壺らしきものはない。
店内を一望していると、とっても単純なことに気が付いた――――。
「爺や!」
「はい、お嬢様! 若しかして気付かれましたか?」
「えぇ爺やも同じ所に辿り着いたのね」
「はい……」
私と爺やは顔を合わすと小さく頷き、同時に同じ方向に視線を向けた。
それは、娘がしょっちゅ戻っていった場所――――甘い匂いが漂ってくる『小屋の奥』!
「そもそもこのカウンターは食事としても使えますが、実は柵の代わりか砦だったのかも知れませぬ。テーブルに見せて、我々を欺こうとしたに違いありませぬぞ」
「そうね。小屋の住民の癖に、中々小賢しいわ。きっとあの奥に『ニホンエン金貨』を隠しているに違いない」
「ですな。内装もこちら側のほうに比べたら、色んな兵器を用意しているみたいですし、金貨を隠すには持ってこいでございます。どんな武器が用意されているかは分かりませぬが、金貨を手に入れるためにはあの奥へ行くしかありませぬ」
「えぇ……最初の試練にしては厳しいようにも思えるけど、これくらいクリアせねばヒロインの名乗れないわよね」
そう言って誇らしげに微笑むと、爺やは顔を赤ら目を潤ませた。
「マクリールお嬢様ぁぁぁ――――! この短時間で素晴らしいご成長ぶりでございますぞ! この世界のヒロインでございますぅぅぅ――――!」
「もう爺やったら……そんなの当たり前じゃないの。それにその台詞は、私に言わせて頂戴」
「はっ! 失礼致しました! 爺や嬉しさの余り、つい……」
「ふふふ、爺やだから許してあげるわ。先ずはあの奥へ入るわよ」
「はいっ! 爺やが先に行きます故、お嬢様は後を付いて来てください!」
「分かったわ」
私の返事に爺やは顔を引き締め、ジャケットの内ポケットに手を忍ばせナイフを握る。カウンターの中に入る小さな扉を静かに押し、私たちは奥の部屋に向けて進行を始めた。
奥に向かうにつれ、さっき食べた『ギュウドン』と同じ甘くてジューシーな香りが強くなる。
お腹いっぱいだったけど、この香りを嗅ぐと、またギュウドンを食べたくなってしまうから不思議だ。
でもこれもきっと、香りの罠かもしれない。常に用心をせねばだ。
あぁ、ヒロインになるって何て大変なのかしら。でも私は絶対に諦めないわ――――。
強い決意を胸に、私は小屋の奥へと侵入したのだった――――。
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