第8話 スマホ

【おはよう。トリさん。】


【おはよう。ハナさん。】



【【素敵な1日になりますように――。】】



 ドッ――――。(ぶつかる音)



 ガシャ――――。(スマホが落ちる音)

 

 ガシャ――――。(スマホが落ちる音)



(朝の校門で、トリさんに送信ボタンを押したところで、ふわっとしたミディアムヘアを揺らす透明感のある女の子とぶつかった。


 名前はまだ知らない。


 女の子は2つのスマホを拾うと、私が謝る隙もお礼を言う間も与えてくれなかった。

 

 慌てて校舎へと走り去った。

 

 ……確か隣クラスの、どこにでもいる普通の女の子。……そうなのだけど、今日受けた印象は随分と違った。


 無色透明で、派手さはないけど、冬に積もった雪が太陽に照らされ暖かくなり、桜の木に春を告げるような。そんな爽やかな風が吹いていた。


 妙に彼女のことが気になり、教室に着くと、友達に名前を尋ねていた。


 ミディアムヘアで透明感のある子と。と聞いたら、一度悩んでそれから、名前が出て来た。


 ――うぐいす菜乃葉なのは


 鶯は、ホーホケキョとさえずり、別名を春鳥ハルドリ花見鳥ハナミドリなどと呼ばれる。


 さえずりが美しい鳥の代表としても有名だ。


 私が、先ほど彼女から受けた印象にぴったりな名前。

 校門でぶつかったあの瞬間から、私は彼女のことばかりを考えている。)




(――朝の校門で、ハナさんにチャットを送信したところで、黒髪ロングヘアの女の子とぶつかった。


 ちらっと確認すると、桃ヶ崎甘奈さんだった。


 彼女は、学内で知らない生徒が1人もいないほどの、有名人の1人。そこに勉強とスポーツが得意というイメージはないけれども、読書感想文で全国1位になり表彰されている。

 文章を書くのが得意な人らしい。


 それに劣らず、黒髪のロングヘアは金髪ツインテールの汐海さんとよく対比される。


 私は、スマホを拾うと、彼女の顔を見ないようにそれをささっと手渡し教室へ急いだ。


 昨夜、汐海さんとキスするところを見せつけられたのだ。

 まさかの遭遇で、昨夜のキスを思い出し、朝から酷く落ち込んでいる。


 きっと。

 私は――彼女と、金輪際関わらないだろう。


 そう願う。

 願っているのに、私はとんでもないミスを犯してしまった!!!


 先ほど、桃ヶ崎甘奈さんぶつかった時だ。

 慌ててスマホを間違えてしまったらしい。


 同じ最新機種で色まで同じだったのだ。


 画面には、私が先ほどハナさんに向けて送ったチャットのメッセージが表示されている――。


 っ……!!


 頭パニックだ。


 っえ。ってことは……。

 そんな!!! 


 どうしていいの分からず、私は教室を飛び出した。)

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