第7話 初恋
(トリさんとチャットしていると、牛乳を買ってきて欲しい。と、ママから頼まれた。
夜でも外は半袖で寒くない季節になっていた。
わざとひとつ遠くのコンビニへ向かう。
月明かりに照らされる私。
時折、自転車が通り過ぎていく。
コンビニに着く頃には、時計は20時を差していた。
スーパーより少し値段が高いなぁ。なんて思いながら、牛乳を買う。
自動ドアを出たところで、1人の女性とばったり出会った。
ゲッッ――!
汐海 クリスティーナ 凪沙!!!
部屋着だし。ちょっと……。
学園一の美少女と出会うとか、キツイ。)
(私は、コンビニに入ろうとしたところで、
目が合う。
一瞬驚いた表情を見せたかと思うと、睨まれた。
敵意を感じるその冷たい視線に、ほんの少し身がすくむ。
桃ヶ崎甘奈は黒髪ロングヘアで、学園トップ3に入る美少女の立ち位置を得ている。
誰が決めたのか知らないけれど、学園ではそう認識されている。
彼女は言葉数が少ないが、そこに根暗なイメージはない。
男の子の間では、クール美人と、囁かれている。
個人的には、強引な一面もあると認識している。
桃ヶ崎の黒髪ロングヘアが美しいのは否定しない。
でも、恋人の噂は聞いたことがない。
こんばんは。
と、声を掛けるべきだろうか。)
「ッ――!!」
(私は、とにかく逃げ出したい衝動を抑えられずに走り出した。
あんな奴と出会うなんて……。)
「桃ヶ崎、逃げるな!」
(背後から追いかけてきた汐海に呼び止められた。)
「どうして逃げるの?」
「知りたい? 教えてあげないけど。」
「……そう言われると、反応に困る。ってかやっぱりあんたって超面倒臭い女よね。」
「そうでもないと思うけど。でも、そこまで言うなら、特別に教えてあげてもいいわよ。」
「言いたいなら、聞いてあげてもいいわよ。」
「じゃ言いたくないし、言わない。さよなら。」
(再び、桃ヶ崎が走り出した。すぐに追いついて、呼び止める。)
「やっぱり教えて。このままだと、今日は悪夢を見る気がしてきた。お願いっ」
「私は悪魔かっ! まぁいいわ。そこまで言うのなら。答えはね、私は汐海 クリスティーナ 凪沙を見ると体が勝手に拒否反応を示すからよ。」
(桃ヶ崎の回答があまりに変化球だったので、呆気に取られてしまった。)
「よく言うわ。100回も私に告白した人に言われたくないわ。」
「事実は99回。勝手に一回増やすと、詐称の疑いで魔法少女に突き出すわよ。」
(魔法少女はスルーする。)
「99回と100回。告白される方としては、大差ないわ。せっかくだから、後一回くらい告白しなさいよ。秒で断ってあげるから。」
「うわっ。でたっ! 告白ハラスメント。美人だからっていい気にならないで!」
(私のこと興味ないくせに、話しかけてくるこの美少女は、本当に人をイライラさせるのが上手い。
薄明かりの中で、そこに存在してるのを見るだけで、居ても立っても居られなくなる。この魔性っぷり。
長い指、大きな目、金髪ツインテールにニーハイ。
二次元から飛び出したように明るくて、元気な性格。
私の心をどれだけかき回せばいいのだ。
見てるだけで。
その小さな唇に、吸い込まれる――。
――――。)
(たまたま、犬の散歩でいつもと違うコンビニの近くを歩いていると、金髪の美少女を発見した。
――っあ。
汐海 クリスティーナ 凪沙さん!
話しているのは、確か隣クラスの
2人って友達なんだ……。
話の内容までは聞こえてこない。けど、何か大切な話をしている感じ。
もしタイミングがあれば、汐海さんに友達申請を拒否してしまったことを謝ろうと、一歩足を進めた。
その時だった――――――。)
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
(――――少し背伸びをした、桃ヶ崎が私の唇をふわっ奪う。
桃の花の香りがして、勝手に心臓が飛び跳ねる。
私、キスされてる。
あっ……。
言葉を探す間もなく、即座に走り去る彼女を追いかける気にはなれなかった。
あまりに突然で、唖然としてその場で立ち尽くしている。)
(私は汐海 クリスティーナ 凪沙に99回告白した。
結果は全敗。
過去にくよくよするタイプでもないので、きっぱり忘れようと決めていた。
事実、一生懸命に彼女を避けている。それはもう全力で。
なのに、キスしてしまった。)
(――女の子と女の子がキスするところを見るのは、これが初めてだった。
月夜に照らされ、あまりに綺麗だった。
その分、私の感情も大きく揺れ動いた。
恥ずかしながら、どこかで、汐海さんの唇は私の物だと思っていた。
もちろん勘違いだった訳だけど……。
心の中で入り乱れる気持ちをどうにか言葉にしたいと思った。
探して、探して、やっと見つけた言葉に驚く。
これは、恋を知らない私の初めての嫉妬だ。
そして、気がつく。
私は、汐海 クリスティーナ 凪沙さんを好きなのだと思う。)
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