第七話 いたずらの始まり。
ついにあの時間がやってきた。もうすぐ生徒会が始まる放課後だ。
正直行きたくない。だって何されるかわかんないから。
……でも行くしかないよな。
オレはため息をつきながら生徒会室の扉を開けた。
「…………」
そしてそれまで何もかものやる気のなかったオレに突然寒気が走った。
例の写真が特大サイズでプリントアウトされていて、生徒会室のホワイトボードに貼ってあったのだ。
生徒会が始まるまではあと数分。
オレは慌ててプリントアウトされていた写真を剥がす。
いつも通り生徒会室にオレが二番目に来なかったらオレの人生終わってたぞおい。
てことは学校に来なかったら百パーセントアウトだったってことかよ。
そうこう考えながらオレはこの写真をオレの鞄に隠すために小さく折りたたむ。
それに夢中になっているオレは生徒会室に近づいてくる足音なんて気にはしていられなかった。
突然ドアがガシャンと空いた。
その時オレの心臓が止まるくらいビクッとした。高い所から落ちる夢から急に我に返った時のように。当然オレはまだこの写真を処理していない。
オレは恐る恐る後ろを振り向く。
「あら、早いわね佐藤くん」
助かった。どうやら後ろから扉を開けたのはモモ会長だったらしい。
モモ会長は生徒会室に入るなり必死に写真を処分しようとしているオレを見てクスリと笑う。なんて女だ。
「ふふ、危なかったね?」
「誰のせいでこんなことになっていると思ってるんですか」
「さて、誰だろうね。だって昨日のことで佐藤くんが学校に来なかったら困るでしょ?」
「危うく今日のことで学校に来なくなるところでしたけど」
「これで明日も元気に学校に来れるね!」
こんな状況で元気に学校に行ける奴がいるわけないだろが。
オレはなんとか写真を小さく折りたたみ、分厚くなった紙を手提げかばんに入れる。
あぁ、不幸だ……。早く帰りたい。
心の底からそう思った。
「何か言ったかな?」
オレの心の声を察したようにモモ会長は尋ねてくる。
「いや、何も」
その後直ぐに生徒会の皆が集まり生徒会が始まった。
「よし佐藤くんは去年の文化祭の資料を持ってきてくれないかな?」
あぁ、お先真っ暗だぁ……。
「あの、佐藤くん? 心ここに在らずって感じだけど大丈夫?」
「へ? オレですか?」
「そうだよ。君だよ」
……写真の件のことを考えていて生徒会の話が全く頭に入ってこない。
「……もう一度教えてください」
「仕方ないなぁ……」
──オレはモモ会長に頼まれて図書室に行くこととなった。
図書室は生徒会室とは別館にあり、かなり遠く行くのが面倒だから行きたくないんだけどなぁ……。
モモ会長にはあなたにしかできないと言われ、断ることも到底できずに図書室までやってきた。
あなたにしかできないか……。
図書室の中には勉強をしている生徒の姿もなく、たった一人だけが図書室の受付にちょこんと座っていた。
彼女は図書委員なのだろう。誰もこないこの図書室でしっかり当番している。
オレだったら誰も来ないのだしちょっとさぼっちゃうかもしれない。
まぁそんなことは置いといて、彼女は先程オレが図書室に入室してから読んでいた本を閉じ、オレをずっと見てきている。
もしかして惚れてるのか?
「ねぇ先輩、さっきからずっと何をさがしているんですか?」
「…………」
「ねぇ先輩、無視しないでくださいよ。私図書委員なのですし、探し物ならすぐに場所を教えてあげれますよ」
彼女とオレは最近知り合った仲なのだが、オレをはめてくれたこいつを許そうとは思ってない。
彼女の名前は
モモ会長に弱みを握られたのはこのミカンのせいだと言ってもいいかもしれない。
……だけど探す手間が省けるのならそのほうがいいか。
「実は去年の学園祭の資料を探しているんだけどどこにあるかわかるか?」
「学園祭の資料ですか? それならこっちにあるのでこっちに来てください」
ミカンは手招きしてにこっと笑う。
先日のことで少し疑り深くなっているオレは不安になりながらも受付の方へと向かう。
「資料っていうのはこれのことですか?」
まるでオレが今日何をしに来たのかわかっていたかのようにミカンはすぐに去年の学園祭の資料を取り出した。
「うん。それであってる」
言いながらそのまま資料を受け取ろうとするとミカンはそれを防ぐように手を跳ね除ける。
「えと……ミカンさん?」
まさかここでブラックモモ会長ならぬブラックミカン登場なのか?
やっぱり何か企んでたのか?
姉があの写真を持ってるんだから妹だって……。
「先輩、探し物に協力した私に何か言うことはないんですか?」
なんだ、オレとしたことが人としての作法を忘れていたのか。
オレは今まで考えていた事とは的外れのことだったのがわかり、ほっと息を吐いた。
「……ありがとう」
「ふふふ、どういたしまして!」
言いながらミカンはオレに素直に資料を渡してくれた。
もしかしてミカンはオレの思ってる以上に優しいのかもしれない。
ごめんなミカン。
こころの中でそう呟いてオレは図書室を出た。
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