第六話 この状況を乗り切る方法。


「はぁ、ただいま……」


 はぁ、災難だった。ため息しかでない。

 オレが生徒会で今まで頑張ってきた意味はなんだよ。

 もうモモ会長いや、腹黒ドS女なんて知らない。知らないけどよ。もうオレあの人の言いなりになるしかないんだよ……。


 オレは絶対に何とかしてあの写真を処分しなければならない。

 だけどどうやって……。


「…………また探しものか?」


 いつも通り真っ先に自分の部屋に入って休もうと思っていたのだが、最近何を探しているのかは知らないがリンゴがいつもオレの部屋にいる。

 普段オレと仲が良くないはずなのにどうしてこうオレの部屋にいつもいるのだろうか。


「まぁね、そんなとこ」


「お前最近よくオレの部屋にいるけどさ、一体何を探してるんだよ?」 


「…………」


「そもそもそれは本当にオレの部屋でなくしたものなのか? オレの部屋なんてこれまで入ってもこなかっただろう?」


「なんでもいいでしょ。それよりさ、ちゃんと届け物を渡してくれた?」


 うまく無視したなおい。なんだかそこまで隠されると気になってしまうんだけど。


「あぁバッチリ届けといたぞ。ていうかお前モモ会長と面識があったんだな」


「何言ってんの? 私に面識があるのはその妹の大木おおき蜜柑みかんちゃんよ」


 大木ミカン? ミカンって例のフルーツメンバーの一人の……大木? てことはあの子があの大木蜜柑!?


「何そんな驚いた顔してんのよ。まさか知らなかったの? 結構有名人よ?」


 まじかよ。それ知らなかったのオレだけかよ!


「それで、ちゃんと仲直りはできたの?」


 それ聞かれると結構まずいと思うんだけど。

 もしモモ会長との今日の出来事を誰かに漏らしたりでもしたらオレはどうなる? おそらく人生終了だ。

 モモ会長に弱みを握られた今、オレはもっと慎重に行動しなければいけない。


「ま、まぁな。うまくいったよ」


「そう、……よかったわね。なら私はもうご飯行くからあんたもさっさと来なさいよ」


「へいへい」


 また一つ嘘をついてしまった。だけどしょうがないだろ? これはオレの人生がかかってしまっているのだから。


「あっ、そうだ。困った時は私になんでも言ってね。一様あんたの妹なんだし」


 え? 天使? オレとお前の仲って結構最悪だとか思ってたんだけど。なんで今日はそんなにも優しいの?


「ほ、本当に困った時はそうさせてもらうよ」


「またそれぇ?」


 言いながらリンゴはクスッと笑った。

 だけどオレのあの問題は誰にも言えない秘密作戦なんだよね。



 ──次の日。


 正直学校で何をされるかわかったものじゃないから学校に行きたくなかった。だけどそれこそ一番危ない。もしかしたらオレが休んだことをよくないように考えて写真を公開でもされたら溜まったものじゃない。


 だから学校には来たんだけど……。


「あ、あのさぁ、なんで君がここにいるのかな?」


 オレの教室二年二組の真ん前でいかにもオレを待っていたように腕を組んで壁にもたれていた。


「そうですね、私の教室はすぐ下だからあなたの顔を見に来たってとこですね」


 それってどういうことだ? お前の姉の言いなりになったオレの顔を拝みに来たってことか?


『おいおい、あれって大木ミカンじゃないのか?』

『本当だ! 大木ミカンだ。でもなんであんな冴えないやつとミカンちゃんが?』

『知らねぇよ。後でえと……さ、斉藤に聞いてみればいいんじゃね?』


 ちょっと外野がうるさいな。

 てか斉藤って誰だよ佐藤だよ。日本一覚えやすい苗字でしょ。さすがに覚えてくれよ。


「……ちょっと屋上に行かないか?」


「嫌ですめんどくさいので。それにもうそろそろ朝のSTが始まりますし」


「そ、そうか」


 ……この子本当に何しにきたんだ?

 

 朝のSTが終わり、いつもなら机に身を預けている時間なのだがさっきの男子生徒二人組がオレに話を掛けてきた。


「なぁえっと斉藤くん、ミカンちゃんとは一体どういう関係なの?」


 だから斉藤って誰だよ。オレは佐藤だ。


 こいつは結構クラスでも人気のある男子生徒で可愛い女の子の集計を始めた張本人。

 名前は確か藤原ふじわらかい。まぁこいつがそんなことしてるなんてバレたらこいつも結構やばそうだよな。 


「俺にも教えてくれよ、斉藤くん!」


 もう完全に斉藤で定着してないか?

 そしてその隣にいるのが確か中村なかむら太陽たいよう。名前からしてもう輝いてる。

 こいつもクラスで人気を誇っている将来のサッカー部部長候補。男子生徒でこのクラスにいるフルーツ美少女セブンの一人ととても仲がいい。


 そんな結構な人がオレに用があるのはやっぱりさっきのミカンのことについて聞きたいらしい。 


「オレは佐藤だ。それとオレはあいつと別に仲がいい訳じゃあない」


「あ、ごめんね佐藤くん。まだ名前覚えてなくてね」


 先に反応したのは中村のほうだ。

 まったくだ。名前くらい覚えて欲しい。こっちはあまり関わったことのないお前たちの名前を覚えてるんだぞ。


「えと、本当に? ……なら俺にもまだチャンスがあるよな?」


 おっと、藤原のやつはどうやらミカンに気があるようだ。だけど姉が姉だから妹も多分……。


「それはやめといた方がいいかもよ?」


 オレは藤原が先走らないよう忠告をした。


「……なんで? もしかして本当はもう付き合ってるのか?」


「いや、そんなことはないけど。忠告みたいな」


「……それってどういうこと? ミカンちゃんはダメな子だって言いたいのか?」


 あ、これダメなやつ?


「いや、そういう訳じゃ」


「ならどういうわけなのさ」


 やばい。またやってしまった。つい最近同じことがあったっていうのに。

 こ、ここは正直にオレの気持ちを……いや待てミカンはあのモモ会長の妹だ。オレがミカンをよくないように言ったら、もしかしたらそれがオレの人生が終了する引き金になってしまうかもしれない。


 ここは冷静に……いやこれ積んでね? そもそもオレはお前に忠告してあげようとしてあげたのに。


 あぁどうしようどうしよう!


「……黙ってないで何か言ってくれよな」


 やばいさっきよりも空気が重い。気づけば他の生徒達からも注目を浴びているじゃないか。


「──辞めてあげなよな。もしかしたら何かあっていい関係じゃないのかもしれないぜ?」


 ……これは中村が出してくれた助け舟だ。

 オレはこれに乗るしかここを乗り切る手段がない。


「けどよタイヨウ……」


「やっぱり今のは忘れてくれないかな。オレとミカンの問題を他人に押し付けちゃいけないからさ」


 別にミカンと何か問題があったわけじゃない。だけどオレとミカンによくない問題があったと理解してくれたらオレはこの場を乗り切ることができる。


「そっか……。お前ら仲直りしろよ?」


「頑張ってみるよ」


 はぁ、なんとか乗り切った。

 危ない危ない。弱みを握られてるってのは本当に嫌だな。オレの思ったことをなんとか誤魔化さないといけないなんて。


 正直この時間はどうでもいいんだ。

 オレに課せられたミッションは一つ。

 モモ会長に撮られたオレの写真。つまりオレの脅迫材料の消去だ。

 これをしなければ今後の学校生活はあの人の言いなりになることが約束される。

 オレは自由に学校生活を送りたいんだ。

 だからそんなものは早くなくしてしまわなければならない。

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