第四話 たのしい青春は一時で。

「早めに来ておいてよかったですね」


 大ヒットしているだけあり、映画のチケットは上映時間までまだ二時間程あるというのに売り切れ間近だった。


「そうだね、佐藤くんが早くに集合場所に来てくれたおかげだよ」

「それを言うならモモ会長が予想以上に早く来てくれたおかげでもありますよ」


 なんだか息ぴったり。これなら将来も……。


「いやぁそれにしても最後のシーンには驚いたよ」


 突然モモ会長はあの映画の謎すぎるラストシーンを語り始める。


「そうですよね、まさか主人公が幼馴染の妹の友達と恋人関係になるなんて思ってもいませんでしたよ」


 なんて複雑なストーリー。タイトルとあらすじ読んでたから知ってたけどまさかあれ程とは……。これを脚本した人の考えを一度聞いてみたい……。


 無論オレにあの映画はまったく合わなかった。

 だけどモモ会長はとても満足気にしながらてくてくと歩いているので、その姿が見れただけ良しとするか。


「あっ、そう言えばそろそろ昼食の時間ですね。オレがおすすめのお店を調べてきたので、そこでいいですか?」


「……佐藤くん、実はね」


 あれ、もしかしてオレのおすすめじゃ駄目だったかな。まぁモモ会長が嫌だというのならそれに従うしかないし……。


 そんなことを思っている矢先、モモ会長は手にぶら下げていた小さな鞄に手を突っ込んで何かを手にしたようにしながらオレの方を見てくる。


「実はね、二人分のお弁当を作ってきてしまったのです」


「ええ!? お弁当!? それもモモ会長の手作り!?」


 自分で言うのもなんだがこんなオレが美少女にこんなことまでして貰っていいのだろうか。

 嬉しすぎて言葉が出ないよ。


「駄目……だったかな?」


 不安に満ち溢れた顔でそんなことを聞いてくる。


「そ、そんなことありませんよ! めちゃくちゃ嬉しいです!」


「本当? そう言ってくれると思っていたよ。なら今から近くの公園にでも行って二人で弁当を食べよう!」


 モモ会長は安心したようにして、言いながらまるで天使のように微笑んだ。


 だからそれは反則なんだって! 普通の男はイチコロだからね?

 

 

 近くの公園に着くと、オレとモモ会長は公園に置いてあるベンチに腰掛ける。

 この公園には噴水が見られ、とても広く綺麗なところだった。


 こんな素敵な場所で会長の手作り弁当を二人で……。なんだか夢の世界にいるようだ。


「口に合うといいのだけれど……」


 言いながらモモ会長は小さな手提げ鞄から弁当箱を取り出す。


「モモ会長の手作り弁当ならなんでも口にあいますよ」


「そう言ってくれると嬉しいよ。何故か家族の皆にはこの味は好かれないのでね」


 言いながらモモ会長は弁当箱の蓋を開ける。

 すると弁当箱の中にはラップに包まれた形の綺麗なサンドイッチが詰め込まれていた。

 見るからに美味しそうなそのサンドイッチはモモ会長の料理の上手さが伝わってくる。


 モモ会長はラップに包まれたサンドイッチを一つとり、オレに手渡しをしてくれた。


「美味しそうですね。早速いただきます」


 オレはそのままとラップを剥がしてサンドイッチを食べようとするとモモ会長は真剣にオレの顔を伺う。

 そんなに見つめられるとサンドイッチよりもモモ会長が気になってしまう。


 オレはちらちらとモモ会長を見ながらサンドイッチを口に運ぶ。


 するとオレの口の中にはサンドイッチ旨みが広がって……。──からいからいからいからい!


 そのすぐオレの口の中にはサンドイッチの辛みがどんどんと広がっていく。

 モモ会長サンドイッチに何入れたの!? これどこぞの激辛ラーメンよりも辛いよ!?

 オレはこの謎に辛すぎるサンドイッチを食べたすぐに思わず目を涙で潤してしまう。


 出るな涙、会長が見てるよ!


 オレのそんな様子を見ながらモモ会長は不安に満ち溢れた顔をしてしまう。


「と、とでもおいしいでずよ!」


 やばい噛んじゃったよ。モモ会長、これは違うんですよ!


「……そうだよね、このサンドイッチを食べた人は皆そんな顔をするんだ。そして思ってもいないことを口にして、私をがっかりさせるんだ」


 会長?


「佐藤くん、私はそんな気持ちのこもっていない言葉はいらないんだよ」


 言いながらモモ会長は残りのサンドイッチを二つほど口にバクバクと運ぶ。


「私にとってはこの味がベストなんだ。ごめんね、不味いサンドイッチを食べさせてしまって」


「違っ──」


「何が違うんだい? ほら、そんな顔で食べないでくれよ、私だって一生懸命に作ったのだよ?」


 ……現状オレはまるで言い返せる言葉がでない。


「君も私にそういうふうな気持ちだけ持って近づくんだね……」


 モモ会長がいったい何を言っているのか分からない。

 ていうかなんでオレがこんな気持ちにならなきゃいけないんだ? 

 辛いサンドイッチを食べさせてくれたのは会長だろ?


 あーあ、もういいや。


「会長、サンドイッチを食べて気分が悪くなったので、もう帰っていいですか?」


 こんなサンドイッチを平気な顔して食べてくれるやつなんているわけないだろ。

 会長はオレの言葉を聞いた瞬間、自分の足に置いていた弁当箱をコトンと落として目に涙を浮かべる。


 ……嫌われちゃったかな。


 この空気に耐えられなくなってオレはその現場からすぐに離れた。モモ会長はそんなオレを呼び止めることはなかった。


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


 さすがに言いすぎた。絶対に嫌われた。なんでオレはあんなことを……。

 オレは最低なやつなのか? …………。

 オレはすぐに家に帰り、ただいまも言わずに自分の部屋まで駆け込んだ。


「──っっ!?」


 そしてベットに飛び込もうとした瞬間、オレは部屋の中にいる存在に気づき、足を止める。


「なんでお前がここに……?」


「なんでって……探し物、かな」


 オレの部屋には妹のリンゴがベッドの横の本棚辺りに座っていた。

 探し物……そういえば先日もそんな事言ってたな。


「それよりさ、あんた今自分がどんな顔してるのか知ってる? ……それはもうひっどい顔になってるよ。一回鏡みた方がいいかもね」


 え? オレ今そんなひどい顔になってるのか。


「まぁ、どうせモモ会長と上手くいかなかったんでしょ?」


 オレの今日の出来事をさらっとに当ててくるのはやめてほしい。


「だからモモ会長はやめといた方がいいって言っておいたのにね」


「……それって最初から、お前はこうなることが分かってたって言うのか?」


 リンゴはもしかして超能力にでも目覚めたりしてしまったのか?

 リンゴはふっふっふと胡散臭く笑いだしたと思ったら


「わかってたわ」


 と堂々と言い放った。


「未来予知? もしかして未来から来たリンゴさんだったり?」


「何言ってんの? 頭大丈夫?」


 ……ですよね。そもそも未来予知とか時間旅行とか出来るわけないもんね。


「じゃ、じゃあなんでオレがこうなるってわかったんだ?」


「モモ会長はね…………嘘つきが大嫌いなのよ」


 リンゴはニヤッと微笑みながらそんなことを口走る。

 リンゴはオレがただ嘘つきだと言いたいらしい。


「確かにモモ会長には自分をよく見せようとしていたのは認めよう。だけどそれっていい事じゃないのか? 人にいいように見えているはずだぞ?」


「それが普通の人ならね、でもモモ会長は違うのよ、嘘つきは許していない。私は知ってるからね……」


 意味深な事ばかり言わないでくれよ。私は知ってるってなんだよ。まずなんで知ってるんだよ。


「ねぇあんた、私があんたとモモ会長を取り持ってあげようか?」


「は?」


「聞こえなかったの? 私があんたの恋を取り持ってあげようかって言ってんのよ」


 突然どうしたんだこいつ。リンゴがオレにそんなことしてくれる道理はないはず……。

 強いて言うなら親に頼まれて毎朝リンゴを起こしてあげてるくらいなのだが。


「必要ない。その後どんな要求されるか分かったもんじゃないしな」


「何よそれ、せっかく私が……まぁいいや。そういう話ならいつでも全部私に任せていいのよ?」


 なんだ、ただ恋バナが好きなだけか。

 お前はオレのこと嫌いなのかと思ってたけど、実際そこまで嫌いじゃなかったのか?


「本当に困った時だけそうさせてもらうさ」


「そっか、ふふ、あんたちょっとだけいい顔になったね」


 言いながらクスリと笑いリンゴはオレの部屋から出ていった。

 今のは励まそうとしてくれたんだよな? お礼言わなきゃだな。


 ……まぁ、今日はさすがに言いすぎたよな。明日になったらモモ会長に謝りに行こう。


 ……てかあいつまた散らかしたまま出ていきやがったな!


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