第三話 デート(悲劇)の始まり。
そしてあれから数日が経ち、遂にあの日を迎えた。
そう、モモ会長とのデートの日だ。
オレは最近いつも以上にテンションが高く、大森先生には少し気味悪がられたものだがそんな事今はどうでもいい。
だってテンションが高くなってしまうのも仕方がないだろう?
デートしたことない歴イコール年齢のオレだ。付き合ったことない歴イコール年齢のオレだ。
そんなオレが学校でも人気なあの子とデートをすることになったんだ。テンションが高くなってしまうのは当然のことだ。
今日は飲食店の下調べからオススメの洋服屋、お付き合いの提案の反応まで予習済みだ。この何でも調べられる便利な時代に生まれてくることが出来て良かった。
お付き合いの提案の反応はちょっと予習しすぎたのかもしれないが、それでいい。だってもしかしたらあまりの緊張で受け答えができなくなってしまうかもしれないし。
今日は早速モモ会長とのメールでのやり取りで決めた待ち合わせ場所に張り切りすぎて集合時間の一時間前に到着した。
だけど今思えば一時間前はやりすぎたかな。サクラ会長が来るまで暇ではないか。
まぁいいか、モモ会長がいつ来るのか分からないし、遅刻なんて悪印象だからな。
そう思ってオレはスマホを取り出した。
いや待て、もしスマホを触っている時にモモ会長が到着したら、この状況を見てなんて思うか……。
張り切って一時間前に来ちゃったなんて恥ずかしい事はできるだけ隠しておきたい。
オレは取り出したスマホをポケットにしまいそのまま何かすることもなくモモ会長を待った。
別に苦痛な時間でもなんでもない。これから起こるだろうイベントを脳内で復習している時間だし。
それからオレはスマホを確認することなくキョロキョロとしながらモモ会長を待ち続け、結構な時間が経った。
「佐藤くん、こっちこっち!」
その声は紛れもないモモ会長の声。
声のする方向を見るとモモ会長が手を振ってオレの方に駆け足で向かってきた。
「待ったかな?」
「いえ、ちょっとだけですよ」
「……冗談で言ったつもりだったのだけどね、今は集合時間の五十分前だよ?」
ええ? 五十分前!?
結構な時間が経ったと思っていたのだが、意外と時間の経過というのは遅いらしい。
オレは張り切って一時間前に来ちゃったのだが、モモ会長もかなり早くに来てくれたらしい。
もうこうなったら自白しよう。
「実は張り切って一時間前に来ちゃいまして……」
言うとモモ会長はクスリと笑い、オレの顔を見つめる。
今日のモモ会長の格好はいつもの制服とはまた雰囲気の違う可愛らしい印象だ。
白色のワンピースの上にピンク色のカーディガン。手にぶら下げた小さな鞄がこれまた……。
そんな会長がまるで天使のように微笑んでいる。
どうなってしまったんだオレは。微笑まれるだけでドキドキしてしまう。佐藤大盛(さとうたいせい)理性を保てて! ……でもこれはさすがに反則だよな。
オレは一度深呼吸をして気を取り直す。
「実は私も張り切って五十分前に来ちゃっいました!」
だが無駄だった。オレの心拍数は今のたった一言で急上昇してしまった。
だからそんな無邪気に微笑むなんて反則すぎるんだよ!
女の子っていう生き物は微笑むだけで男の心を掴めるのか? そんなのずるい!
「少し早いですけれど、どこか行くところは決まっていたりしますか?」
そう言うとモモ会長は少し考え込み、何かを思いついたようにオレの方を見つめる。
「映画館でいいかな? 最近公開した大ヒット映画をまだ見ていなくて……」
もちろんモモ会長の提案なら。
「わかりました、映画館ですね。最近公開した大ヒット映画ってのは『幼馴染の妹の友達の弟が私に恋をした』ですよね?」
噛まずに言えてよかった……。
緊張のあまり少し早口になってしまったが、そこまでおかしくはなっていなかったのかモモ会長は気にもせずに話を続ける。
「うん、そうだよ。よく知っているね!」
この日のために公開中の映画とそのあらすじは全て暗記済みだ。
「まぁ、オレも結構好きなんですよ。早速行きましょう!」
「うん、席も早く取らないとだしね」
そう言ってモモ会長は映画館の方に歩いていく。オレはしっかりとその隣を歩く。
モモ会長の隣を歩いているだけなのにオレも有名人になったみたいだ。実際に視線が集まっているのはモモ会長なんだけどね。
我が校の誇る美少女は無意識にも異彩を放っているようだ。流石会長。
……手を繋ぐのはさすがにまだ早いよな。それは今日のお付き合いの提案を受けてからにしよう。
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